出会い:竹塚編

「やぁ、竹塚、だっけ?」

「はい、そうですよ安達君。」

「悪いけど、手伝ってもらっていいか?もう一人の当番が休みみたいでさ。」

「塾の時間まででしたら良いですよ。」


中学1年の頃、図書室で委員会の配架の仕事をしている時だった。

同じ日に当番だった生徒が休みで、一人で配架をすることになると思ったら、偶然にも図書室に同じ委員の生徒がいたんだ。

クラスは違ったけど、同学年で、手伝いを頼むと快く引き受けてくれたよ。


「ありがとう。この恩は忘れない。3日間くらい。」

「もう少し覚えていて下さいよ。3年くらいは。」


感謝の気持ちを伝えると苦笑しながら結構な期間を要求された。

委員会の集まりの時は、印象に残らない内気で小柄なメガネかと思ったが、案外面白い奴かも知れないな。



それが竹塚との出会いだった。



「いやぁ、助かったわ。お礼に塾まで送ってくぞ。」

「え?送っていくって?」

「こっちこっち。」


配架が終わり、竹塚が塾に行く時間になったので一緒に玄関に行き、お礼を提案する。


「自転車って、うちの学校、自転車通学は禁止されてませんでしたっけ?」

「キチンと隠してあるから大丈夫。」

「そのうちバレても知りませんからね。」

「そん時はそん時だよ。さぁ乗った乗った。」


2人乗りで竹塚を塾へと送る。

道中、授業や日常の事、くだらないバカ話をしながら盛り上がった。

そんな些細な事から友情を育んでいったんだ。


それから中学2年に進級し、クラスが一緒になった。

その頃には塾まで送りながら雑談をするのが当たり前になっていた。


しかし、


「こらぁ!安達!自転車で登校してはいけないと入学時に説明があっただろうが!生徒手帳にも書いてあるぞ!」

「いや、これは、あれなんですよ。自転車に懐かれて学校までついて来ちゃうんですよ。」

「言い訳無用!没収だ!」

「そんなぁ~!」


遂に自転車の事がバレて没収されてしまった。

ゲームや漫画みたいなサイズの物を没収するならわかるけど、自転車レベルの物を没収するって中々ない事だと思う。


「バレちゃいましたね。」

「くっそぉ、俺の愛車がぁ………」

「これからは普通に歩いて登校ですね。塾にも歩いて向かいますよ。」

「竹塚、奪還作戦を練ろう!」

「自業自得でしょ。諦めなさい。」

「いや、沙耶は登校時に一緒に乗って来てたよな。自分は関係ないみたいなこと言うなよ。」

「最初は止めたわよ?」

「途中から普通に後ろに乗り出したけどな。」


残念だったな!俺は諦めが悪いんだ!たとえ自己責任だったとしても。

竹塚は呆れて知恵を出してくれない。沙耶は脳筋だから頼りにならな「こっち見てため息ついてるけど、なんか失礼な事考えてんじゃないでしょうね?」沙耶を巻き込むのは良くないな!

仕方がないから一人で考えよう。

しかし良いアイデアが浮かばない。


「普通に放課後にでも職員室に謝りに行けばいいじゃない。あたしも一緒に行ったげるから。」

「オカン………!」

「誰がオカンよ!」


結局は沙耶と一緒に謝りに行った。

怒られはしたが、割とすぐに自転車は返してもらえたし、一件落着。

竹塚はさっき職員室に向かう前に分かれて塾に向かった。

しかし、


「あ、竹塚にノート返すの忘れてた!」

「何やってんのよ。まだそんなに経ってないから追いかけるわよ。ってあたしを置いてくな!」


慌てて自転車に乗り、竹塚を追いかける。

道は今まで一緒に向かってきたから覚えている。早く届けてやらなくては。




「………て言ってん……」

「ん?」


追いかけていると路地裏から何やら聞こえてくる。

チラッと覗いてみると、


「さっさと金出せや!痛い目見たくないだろ?」

「も、持ってないって言ってるじゃないですか。」


竹塚が2人の不良に絡まれていた。


「おい!何やってんだ!」

「あ、安達!どうしてここに?」

「あぁん?なんだテメェ?」

「カモが一匹増えたじゃねぇか。おい、出すもん出せば、見逃してやるぜ?」


不良がこちらにガンを飛ばす。

そうだ、大事な事を忘れる所だった。


「竹塚、ノートありがとう。返すの忘れてたわ。」

「え、うん。どういたしまして。」

「違ぇよ!お前がそこのチビに渡すもん出せって言ってんじゃねぇよ!」

「ふざけやがって、ちっとばかし痛い目見なきゃゴフッ!」


竹塚にノートを返すと何故か怒り出す不良達。出すもん出せって言ったじゃないか。

不良の片割れが拳を掲げ、こちらに殴りかかろうとした瞬間、横合いからドロップキックをお見舞いされる。


「沙耶!」

「カツアゲなんてみっともないマネしてんじゃないわよ!」

「げぇ!?豊中の狂犬!?に、逃げるぞ!」

「痛てて、たかが中坊だろ?何そんなにビビってんだよ?」

「この前、うちの先輩がシメられただろ?その犯人がこいつだよ!」

「よし、逃げんぞ。」


不良達が何か話している。

え、沙耶、そんなことやってたの?


「これ以上続けるってんならボコボコにするけど、どうする?」

「「すんませんっしたぁ!!!」」


沙耶が威圧すると不良達が謝って逃げていく。

俺の幼馴染はどこに行こうというのだろうか。


「助かりました。ありがとうございます。」

「やっぱ沙耶は強いなぁ。助かったわ。ありがとう。」

「良いのよ。あーいう連中ムカつくし、友達を助けるのなんて、当たり前でしょ?」


この幼馴染、カッコ良すぎでは?


「安達君もありがとうございます。」

「え?俺も?」

「入屋さんが来る前に、助けに入ってくれたじゃないですか。」

「なんだ、そんなことか。友達を助けるなんて、当たり前だろ?」


俺もカッコつけてみる。

二番煎じ感が半端ないけど。


「敦、カッコつけてるつもりかも知れないけど、脚がプルプル震えてるわよ?」

「こ、これは武者震いだから。あと、いい加減呼び捨てで呼んでくれよ。」

「え?」

「名前。『君』とか『さん』とか他人行儀だろ。」




「そうですね。改めて、これからもよろしくお願いします。安達、入屋。」

「「よろしく!」」






「とまぁ、中学の頃、竹塚を助けてな。」

「なるほど。だからあいつはお前の課題を毎度毎度手伝ってやってんのな。」

「いや、それは中学の頃からだ。」

「つまり中学の頃からダメダメだったんだな。」


ダメダメじゃない!他者と協力する事の尊さを知っていただけさ。


「てか、お前が図書委員とか似合わな過ぎなんだよな。」

「天に選ばれたから仕方がない。」

「どうせ係決めの時に寝てただけだろ。」

「余り物には福があるって言うし……。」

「やっぱりダメダメじゃねぇか!」


放課後の教室。

伊江と雑談をしていると、ガラリと扉を開く音が聞こえる。

どうやら用事が終わったようだ。




「安達、伊江、お待たせしました。そろそろ帰りましょか。」

「そうだな。竹塚。」

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