用務員さん

「なぁ、2人とも。この学校の用務員さんって見た事あるか?」

「それっぽい影なら何度かあるなぁ。」

「そうだな。俺もそんな感じだ。」

「つまりきちんと見たことは無いと。」

「そうなるな。」


そう、誰もきちんと用務員さんの姿を見たことがある奴がいないのだ。

大体は身体の一部であったり、辛うじて後ろ姿であったりして完全体用務員さんを見たと言う話を聞いたことが無い。

いや、普通は見た事あるのが当たり前でそんな話を聞かないのだろう。

しかし、我が校の用務員さんは完全な姿を見たことが無いからこそ、噂になっているのだ。

その部分だけ抜き取ると漫画とかゲームの強キャラみたいだが、それはともかく………


「実は私はこの前、用務員さんに助けてもらってさ。」

「そうだったのか。」

「そうなんだよ。この前、誰にも助けてもらえなくて絶望の淵にいた時に助けてくれたんだ。伊江も親方も助けてくれなかったあの時、用務員さんだけが私を助けてくれたんだ。」

「それは、悪かったなぁ。」

「でもバイト先に着いちまったんだし、わざわざ学校に戻ってくる訳にもいかねぇからな。」


まぁ伊江と親方に関しては仕方がないし、少し嫌味を言ってみたが、実際にはそこまで気にしてはいない。

少なくとも、ゲームを優先して私を見捨てるような友達や、私が困難に直面している様を嘲笑って来るような友達と比べれば、状況によっては助けに来てくれる選択肢がある時点でよっぽどまともだろう。


「で、助けてもらったその時は手元しか見えなくてさ。用務員さんってどんな人なんだろうって思って。」

「噂じゃ誰も姿を見たことが無いとか。」

「そういやぁ身長は2mを越え、体重は100kgを超える巨漢だとか聞いたことがあるぜぇ。」

「それは親方を用務員さんと見間違えたってオチじゃないだろうか。」

「そりゃねぇだろぉ。確かに俺も中々に図体がでけぇが、そんでも2mは超えちゃいねぇぜ。」


でも親方も相当大柄だし、用務員さんの服を着てたら用務員さんに見えてもおかしくはない。

強いておかしい点を挙げるのであれば、親方が用務員さんの服を着ていると言う点くらいだ。

しかしそれ程の体格の持ち主が未だに誰の目にも触れていないとなると………


「分かった!」

「何が?」

「きっと用務員さんは身体のパーツをバラバラに操れるんだ。だから誰も全身を見たことが無い!」

「さらっと恐ろしい発想をすんじゃねぇよぉ。」

「どこの漫画の登場人物だよ。そんな奴がいたら世の中能力者で満ち溢れてるからな。」


ワンチャンあると思ったんだけどな、全身バラバラ人間説………。

まぁ仮にそんな姿を見たら親方辺りが気絶しかねないけど。


「よし、新・学校の七不思議の用務員さんを探しに行こう。」

「七不思議に数えてやるなよ………。」

「そもそも探すっつたって、どこを探すんだぁ?居場所なんて皆目見当もつかねぇぞぉ。」

「………校内を歩いてればどこかしらでエンカウントするんじゃないか?」

「レアモンスター扱いも止めてやれ。つーかさっきから助けてもらった相手に対して失礼過ぎるからな。」


まぁ、どこにいるのか分かるんだったら探しには行かないし、そんな噂になったりもしないだろう。

とりあえず校内を歩き回って出会った奴に聞いて行けばそのうち行き当たる事を願おう。




「え?用務員さん?さっき西棟の階段を登っていく姿が見えたね。」


校内を回る。

図書室の前で長谷道と出会ったので話を聞くと、西棟の上の方にいるらしい。


「用務員さんですかな?先程、焼却炉から去っていく姿を目にしたような気がしますぞ。」


校内を回る。

西棟の1階から屋上へと向かい、そこにいた姉河に話を聞くと、焼却炉の方にいたらしい。


「いや、済まないがこちらでは見ていないな。何か用事でもあるのか?もしそうであれば用務員室に書置きを残しておけば………ん、違う?」


校内を回る。

焼却炉の近辺を探したが見当たらなかったのでいったん校内に戻ると、偶然、鐘ヶ崎を見かけたので話を聞く。

確かに用事と言えば用事なのだが、用務員さんにお願いをしたいとか、何かをやってもらいたいとかではないのだ。

と言うか、用務員さんに用事がある時は皆、書置きでお願いしていたのか。

まるで都市伝説みたいだ。

実在が怪しまれるのも納得だぞ。


「用務員さん?言われてみれば見覚えが無いわね。」

「だろ?」


それでも諦めずに校内を探していると沙耶に出会う。

沙耶にも見覚えが無いか聞いてみたが、やはり見たことが無いようだ。


「でもわざわざ探す程の事?」

「それは俺もさっきから思ってたな。」

「まぁ今日は暇だから別に良いけどよぉ。」

「ほら、伊江も親方もこう言って………ん?」


誰も見たことが無いからこそ、探すのだ。

探索隊の伊江も親方も同意してくれる、と思ったらそんな事は無かった。

普通に何となく付いて来てくれていただけのようだ。


「うん、友達想いな友達を持てて私は嬉しいぞ。用務員さんは見つからなかったけど、友情を再発見できたし、成果はあったと言えるだろ。」

「おめぇがそれで良いなら、別に良いんだけどよぉ。」

「適当に良い感じの事を言って誤魔化そうとしてるよな。」


いやー、持つべきものは友達だなー。

親方も伊江も誇らしげな表情をしているような気がしないでもない事もないし。

あ、なんだか私の心の中で誰かがサムズアップしてる気がする。


「そうか、用務員さんは私たちの心の中にいたんだ………。」

「なぁ、安達が壊れたんだけど、どうすりゃいいんだぁ?」

「いつもの事でしょ。」

「それもそうだな。」


もうこれで見つかった事にしても良いだろう。

だから私は壊れてなんかいない。

誤魔化そうとも………まぁ、恐らくしていないと言っても良いだろう。

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