変な夢

ある日の休み時間。


「ふぁ~……。」

「おはようございます。さっきの授業中もよく寝ていましたね。」

「むしろ安達が授業中に寝ないことの方が珍しいけどな。」

「真面目に授業を受けなさいよ。」

「いや、今日に関しては理由があるんだ。聞いてくれよ。」


確かに結構な頻度で授業中に寝てたりするけど、起きてる時も割とあるから。

落書きしてる時とか、考え事をしてる時とか、窓の外を眺めてる時とか。

それはさておき、


「実は今日、変な夢を見て目が覚めてさ。それで寝不足なんだ。」

「変な夢?」

「変な奴の安達が変って評価するなんて、相当だな。」

「誰が変人だ、誰が。」

「「「安達(敦)。」」」


揃って私の事を変人扱いする友人たち。

もっと私の常識的な部分に着目してもいいと思うんだけど。

むしろ常識的な部分にしか着目してほしくない程度には辛辣な評価だ。


「まぁそれは置いておくとして………。」


気を取り直して夢の話をする。


「どこだか分からないが、川で泳いでいたんだ。」

「それで溺れた、と。」

「違う。それだったら単純に溺れた夢で終わるから、言うほど変な夢ではないだろう。」

「じゃあ足を攣って溺れた。」

「大して変わってないよな。」


なんで溺れた前提なんだよ。

確かに泳ぐのが得意と言う訳ではないけれど、だからと言ってカナヅチでもないぞ。

話を戻すとしよう。


「普通に泳いでいたんだ。そしたら天気が崩れてきてさ。」

「雷に打たれた、と。」

「打たれてはいない。さっきの溺れたと比べたら少し変わってる程度にはなったけど。」

「雷を落とした、と。」

「それだと変わってるって言うか神ってるだよな。」

「敦は雷を落とすよりも落とされる側の人間でしょ。」

「雷を落とされる?」

「怒られるって事だな。俺もお前ほど怒られる奴は見たことがないな。」

「世界は広いし、探せば私以上の奴だっているだろ。」

「わざわざそんな人の事を探したくはないですね。」


雷に打たれていなければ、雷を落としてもいない。

そして泳いでいる時に怒られたりもしていない。

夢の中とはいえ、遊泳禁止の看板とか無かったし。

それに私だっていつも怒られている訳ではない。

私以上の逸材だってどこかにいる事を信じ、話を続ける。


「ピラニアが降ってきたんだ。」

「ピラニア。」

「僕の予想、結構惜しかったですね。」

「かすりもしてなかったよな。」

「『何かが降ってくる』という観点ではかすっていたので。」

「ピラニアって美味しいのかしら………。」

「沙耶!?」


竹塚もまだまだ甘いな。

そして沙耶、なんでピラニアに対して食欲を抱いているんだ。

ピラニアと聞いて思い浮かべる事の初手がそれでいいのか。

普通、肉食とかアマゾンじゃないのか?

まぁピラニアの味については置いておくとしよう。


「それでピラニアにめちゃくちゃ嚙まれてさ。」

「それで骨だけになった、と。」

「正解。」

「骨だけになったんだな。」

「敦の肉って………」

「なんで肉食獣の目つきでこっちを見るんだよ。人間の肉が美味いなんて聞いたことが無いぞ。」

「冗談よ。」

「目が本気だったよな何でもないです。」

「気のせいよ。」


おい、この幼馴染ピラニアの味から私の肉の味に興味がシフトしたぞ。

そんな猟奇的な興味を抱くんじゃない。

冗談って言ってるけど伊江が指摘したように目が本気だったぞ。

指摘した本人は眼力で威圧されて撤回したけど。

………うん。聞かなかった事にしておこう。

将来、ニュースのインタビューに答えるような事件が起きないように祈りつつ、話を続ける。


「で、骨のまま泳ぐんだけど、気が付いたらスタート地点に戻ってる夢だったんだ。」

「意味が分からないわね。」

「話を聞きながら調べましたが、川を泳ぐ夢は目標に向かって進んで行く事を暗示しているらしいですね。」

「振り出しに戻ってるよな。」


話を終え、率直に意味が分からないと感想を述べられる。

私もだ。その意味が分からない夢について考えてたら夜が明けていたんだよ。

そして竹塚が夢占いで検索して調べてくれたみたいだが、なんだか不吉なんだけど。


「ピラニア、魚に食べられる夢は感情に振り回されている事を暗示しているらしいですよ。」

「割といつもの事よね。」

「むしろ理論で行動してるところなんて見たことないよな。」


うん。やっぱり不吉な流れだ。

しかし私はそこまで感情で行動はしていないと思うんだが。

むしろ理屈で行動していると思うんだが。


「つまり要約すると、感情に振り回されて目標への進捗が振り出しに戻ると言う事ですね。」

「めっちゃ不吉じゃん。悪夢じゃん。」

「まぁ感情に振り回されないように頑張りな。」

「て言うか、それっていつも通りなんじゃない?」

「それもそうだな。」

「じゃあ問題ありませんね。」

「問題しかないんだけど。」


そんな話をしていると休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。

各々、自身の席に戻っていき、私の不安を他所に授業が始まる。

うん、眠いし、寝よう。

眠ればきっと悩みも消えてなくなるだろう。




この後、授業中に眠りすぎて放課後に職員室に呼び出される運命を、私はまだ知らないのであった。

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