初詣

ある日の放課後。


「初詣に行こう!」

「断る。」

「この前行きましたからね。」

「初詣に行こう!」

「聞けよ。」


今更になって長谷道が初詣に行きたいと言い出した。


「そもそもさっき竹塚も言ってたけど、私たちはこの前行ったんだよ。」

「2度目詣になっちゃいますからね。」

「それは違うよ!」


私と竹塚は既に初詣を済ませている事を伝えると、長谷道はこちらを指さして反論する。

なんだそのポーズは。

どこの学級裁判だ。


「何が違うって言うんだよ。」

「初詣に行ったのは、いつの事だい?」

「元日ですね。」

「つまり1月1日に初詣に行った、と。」

「それがどうしたんだよ。」


去年の話ではなく、今年の事だ。

つまりこれから詣でても初詣にはならない。

しかし………


「それなら大丈夫。1月1日では初めてでも、それ以降の日に詣でれば、その日は初めての詣と言うことになるからね!」

「何が大丈夫なんだよ。」

「ちょっと何言ってるか分からないですね。」


長谷道が謎理論を展開する。

それ以降?初めて?本当に何を言っているんだ?

竹塚ですら困惑しているぞ。


「そもそも詣でるという事を年単位の概念で考えているから不便なんだよ。日単位で考えれて別日に詣でればそれは初詣って考える事が出来るだろう?」

「初詣のありがたみとか季節の行事感が無くなるんだけど。」


もはや初詣である意味がないじゃん。

ただのお参りじゃん。

それで言ったら何年の何月何日では初めてって言う理屈が成り立って、何でもかんでも初めて扱いできるだろう。


「と言うか、年が明けてからそこそこ経っていますが、まだ初詣に行っていないんですか?」

「そうだそうだ。お前年明けは何してたんだよ。」

「寝てたね!でもなんだかお正月っぽいことをし足りないと思うってね。」

「自信満々に言うな。」

「完全に自業自得ですよね。」


寝正月って………。

竹塚が言うように自業自得だろう。

なんでこんな寒い中、私たちまで付き合わなくてはならないのか。


「良いじゃないか。一緒に初詣に行こう!おみくじを引いたり、絵馬を書いたりしようじゃないか。」

「おみくじならこの前引いたし………。」

「あれはひどかったですね。」


近所の神社だからと選んだが、2年連続でとんでもない事なんて起きないだろうと思って選んだが、次からは別の神社にした方が良いかも知れない。

そう思わされるような強烈な体験をしたので、少なくとも来年までお参りはしなくていいや、と言う気持ちになる。


「なんだい?面白そうな体験でもしたのかい?」

「お前だったら間違いなく面白がる体験はしたけど………。」

「多分、今行ってもあのおみくじは引けないと思いますよ?」

「期間限定と言う事かな?うぅん、これは惜しいことをした。ちなみにどんなおみくじだったのかな?」

「実はですね………」


私たちにとっては意味が分からない体験だったが、長谷道にとっては面白い体験と言えるだろう。

少なくとも竹塚は楽しんでいたし、非常識な人間にとっては楽しめる体験だったはずだ。

私は困惑したけど。

主に元凶が再登場したことに対して。

そんなことを考えていると、竹塚は長谷道に対して先日あった出来事を説明する。




「………と言うことがありまして。」

「なんだい、それは!とても面白そうじゃないか!どうして誘ってくれなかったんだい!」

「誘ったところで間に合わなかったと思うぞ。」

「誘われても寝てたかもしれないけどね!」

「1度でいいからこいつの事を早朝に叩き起こしたい。」

「早朝から初詣かい?気合は十分のようだね。」

「行かないから。」


そう言う事じゃないんだよ。

単純に嫌がらせなんだよ。

決して初詣の誘いではないんだよ。


「いっそのことオンライン初詣でもすればいいんじゃないですかね。」

「初詣までオンラインで出来るのか………。」

「それも悪くはないけれど、私は初詣の雰囲気も楽しみたいんだよね。」

「なおの事元旦に行けよ。」

「布団が私の事を離してくれなくてね。」

「布団の方は早く出てけって思ってるかもしれないぞ。」

「あんなに暖かく包み込んでくれたのに、そんな事を思っているわけがないじゃないか。」

「それが布団の仕事ですからね。」

「それなら初詣で布団と相思相愛になれるようにお願いしないとね。」


何があっても初詣に行くつもりだな。

別に1人で行く分には止めないから。

勝手に行けばいいって思ってるから。


「それで、いつ行く?来月?」


だから私たちを巻き込もうとするな。

そもそも2月に初詣ってなんだよ。

明らかに詣でるのが遅いだろう。

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