記念日

世の中には多様な記念日が存在する。

公的な記念日から私的な記念日まで様々だ。

そして記念日にはそれに付随して豪華な食事が提供されたり祭りが催されたりする。

つまり、


「記念日を作れば学食で豪華なメニューが提供されるんじゃないかと思うんだ。」

「おいおい安達、何を言うかと思ったら………。」


話相手の丹野は私の話を聞いて軽い笑みを浮かべる。


「時々天才的な発想をしやがるぜ。」

「時々ってのは余計だよ。」

「でも確かにお前の言う通りだぜ。小学校や中学校の時は給食でイベント毎に豪華なメニューが出て来た。あれはテンション上がった記憶があるぜ。」

「そして去年も記念日とかに学食のメニューでは、普段は出てこないような料理が追加されていたからな。仮に記念日が増えれば記念メニューも増えると考えられる。」


確かに普段食べているメニューも十分に美味しい、でも特別なメニューも美味しいんだ。

だからこそ、口を開けて餌が来るのを待つひな鳥の様に振舞うのではなく、自ら望む糧を自分で掴むために行動するんだ。


「それで、記念日を作るとして何の記念日にするんだ?」

「問題はそこなんだ。記念日が記念日足るには普通の日ではない証拠、祝い事が必要になる。しかし何を祝おうか思い浮かばない。」

「話は聞かせてもらいました!」


私と丹野は頭を抱えて何を祝うか悩んでいると聞き覚えのある声を掛けられる。

この声は!


「「竹塚!」」

「えぇ、なにやら面白そうな話をしているのが聞こえて来たので。」

「一体いつから?」

「『記念日を作れば~』の辺りからですね。」

「最初っからいたんじゃねぇか。もっと早く声掛けろよ。」


想像以上に最初の方から聞いていたようだ。

それなら説明する手間が省ける。


「竹塚は何か良いアイデアはあるのか?」

「ふっふっふ………。」

「おっ、自信ありげな笑いだぜ!」


これは期待できる。

心なしか竹塚のメガネもキラーンと光ったような気がする。


「特にありません。」

「いや、ねぇのかよ。なんだ今の間は。」


訂正。特に輝いてはいなかった。

しかし、知恵者の竹塚が話に加わったと言う事実だけでも心強い。


「大丈夫、三人寄ればもんじゃの知恵って言うだろ。」

「それを言うなら三人寄れば文殊の知恵ですね。」

「全然大丈夫そうじゃねぇな。これは頭を使える奴は実質二人か。」

「私をカウントから外すな!」

「そうですよ。」


ほら、竹塚言ってやれ!


「僕が一人にカウントされるなら丹野は0.5が良いところでしょう。」

「そーだそーだ!」

「なので僕で一人、安達と丹野で辛うじて、非常に前向きに見積もって一人分ですね。」

「辛口過ぎでは……」

「ないですね。事実なので。」


バッサリと切り捨てられた。

確かにテストの点数や成績では私と丹野の二人でも敵わない。

けれど、


「竹塚。テストの点数だけが全てじゃないぞ。こういった事を考える能力ならお前にだって勝るとも劣らないんだ。」

「そうだぜ。もっとオレたちの事を信じてくれよ。」

「信頼しているからこその評価なのですが、まぁ良いでしょう。でしたらこういうのはどうでしょうか?」


何か良いアイデアが浮かんだのだろうか。

私と丹野は沈黙し、傾聴する。


「安達と丹野が自分を過大評価した記念日。」

「ただの悪口じゃねぇか!」

「そんな記念日、豪華なメニューは期待できそうにないぞ。」


と言うか誰が祝うんだ、そんな記念日。

むしろ私は呪うぞ。竹塚を。


「メニューは駄菓子です。」

「特別っちゃ特別だけど、それならコンビニとかで買って持参するわ。」

「少なくとも駄菓子を豪華とは思えないぜ。」


もっとマシな記念日とメニューを立案してほしい。


「それなら何か記念になりそうな事をやって下さい。」

「記念になりそうな事………。」

「安達と丹野がテストで満点取るとかでも良いですよ。」

「無理だろ。」「無理だぜ。」


もしそんな事が実現したなら世界平和だって夢じゃない。国際的な記念日になるだろう。

そのくらいテストで満点と言うのはハードルが高いんだ。


「そもそも学食のメニューを動かすくらいの記念日なんだからオレたちの個人的な記念じゃ足りねぇんじゃねって思うぜ。」

「確かに。」

「じゃあ平和記念日とかどうですかね。」

「平和記念日?そりゃどんな記念日なんだ?」

「平和な日々に感謝して、これからも平和でありますようにと言う願いを込めた記念日です。終戦の日は夏休み期間なので学校がある時期に持って来ましょう。」


なるほど。言い分としては納得できる。

よし、これで決まりだな。


「話は聞かせてもらった!」

「この声は!」

「伊江!」


また新たな来訪者が現れる。

お前も記念日を作るのに協力してくれるのか!


「無理だろ。」

「初手否定から入るのは良くないと思うぞ。」

「仮にその記念日が制定されるとしても、時間がかかるだろうから俺達が卒業してからになると思うな。」

「否定は薄くなったけど希望も薄くなった。」


確かにそんなホイホイ記念日なんて出来ないのかも知れない。

何故もっと早くこの事実に気付かなかったんだ。


「まぁ僕はこうなるって予想してましたけどね。」

「なら先に言えよ!」

「面白そうだったので!」


そっかー、面白そうだったのか。

なら仕方ないね。


「しかし策が無いわけではありません。」

「聞かせてくれ。」

「タイムマシンを作って過去に戻り、記念日を制定すれば現在に戻ってきたころには特別な学食のメニューが!」

「その手があったか!」

「………いやそっちの方が無理があると思うな。」


流石は竹塚!天才的な発想だ!




伊江が何やら呟いた気がしたが、そんな事よりタイムマシンだ!

そして私たちはタイムマシンの話で盛り上がるのであった。

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