スポットライト2
ある日の屋上。
扉を開こうとして、向こう側にある人物がいる事に気が付いた。
生徒会長の鐘ヶ崎が黄昏ていたのだ。
屋上で鐘ヶ崎と会うと間違いなく愚痴を言うのは経験から学んでいる。
ここは見なかった事にして戻ろう。
こちらに気付く様子もないし、どこぞの筋肉風紀委員長みたいに声を掛けられる事は無いだろう。
「おや?安達くん、こんなところでウロウロしてどうしたんだい?屋上に出るんじゃないのかい?」
「(長谷道、もう少し声のボリュームを下げるんだ!)」
「え?なんだって?」
踵を返そうとすると、振り向く瞬間に長谷道に声を掛けられる。
驚きで声を上げそうになったが、どうにか堪える。
しかしここで騒いでいては鐘ヶ崎にバレかねない。
しかも長谷道がいては余計に面倒な事になるのは明らかだ。
そう思って声のボリュームを下げるように小声で言ったが、それが良くなかった。
長谷道は更に大きな声で聞き返してきた。
「声がデカいって言ってるんだよ!」
「あぁ、そうだったのかい。でも今の安達くんの声量の方が大きいと思うよ。」
「誰のせいだと思ってるんだよ。」
「騒がしいから何事かと思えば………。おい、長谷道。貴様、私だけじゃ飽き足らず、安達2年生にまで迷惑をかけているのか?」
「おや、鐘ヶ崎さん。こんなところで奇遇だね。」
長谷道のせいでバレたようだ。
鐘ヶ崎はこちらに気付き、近づいて来て長谷道を嗜める。
しかし長谷道はどこ吹く風。何ら気にせず鐘ヶ崎に挨拶をする。
「貴様はいつもいつも………、なんだ?私を狙って迷惑をかけているのか?」
「待って下さい、会長!なにも長谷道は会長を狙って迷惑をかけている訳じゃないと思います!」
「安達くん………!やはり持つべきものは友。信頼できる友人と言うのは財宝に勝るとも劣らないね!」
「長谷道は誰彼構わず迷惑をかけるタイプの奴です!だから特定の個人を狙って迷惑をかける奴じゃありません!」
「なるほど。確かにその通りだ。安達2年生、助言感謝する。」
「安達くん………。そうかそうか、君はそう言う奴だったのだね。気分はエーミールだよ。いや、信頼できる友人の大切さを学ばせてくれる反面教師になってくれたんだね。お礼に地獄へ落ちる権利を進呈しよう。」
会長の勘違いを訂正する。
一瞬、長谷道は嬉しそうな表情をした直後に失望したような表情でとんでもない事言い出したけど、その通りじゃん。
誰彼構わず迷惑かけるじゃん。この場に被害者2名がいる事が何よりの証拠だぞ。
てか地獄行の切符がお礼とかお前の友達、閻魔様かよ。確かに噓つきの舌を引っこ抜くって事は正直過ぎるくらいだろうから信用は置けるかも知れないけど。
「まず誰彼構わず迷惑をかけるのを止めればいいだけだろうが!と言うか長谷道、貴様また生徒会の人員に余計な事を言ったな!」
「え?何の事だい?」
長谷道は更に鐘ヶ崎に追及されるが首を傾げている。
そりゃ、お前は思い当たる節があり過ぎて分からないだろう。
本当に困った奴だ。
「先日から鳥場会計と伏実書記がやたらと生徒総会でのスポットライトの使用を具申してくるのだ!大方お前の入れ知恵だろう、長谷道!」
あ、これ原因が私にある内容だった。
以前スポットライトを浴びて見たくて体育館に行ったら生徒会の鳥場と伏実がいたので言いくるめて照らしてもらったが、その時に鐘ヶ崎にスポットライトを当てて演説してもらったらカッコ良さそうだなって話を2人がしていたのだ。
………自ら考えて、その考えを実行に移す。生徒会のメンバーに相応しい主体性と行動力ダナー。
「へぇ、それは面白そうだね。楽しみにしてるよ。ね、安達くん。」
「元凶が何を他人事に………!しかも安達2年生まで巻き込んで!」
「いや私が原因かも知れないし………。」
「安達2年生、こんな男の言う事なんて聞く必要は無いぞ!」
「だから私が………」
「おやおや、こんな男呼ばわりとは、随分な物言いだね。」
「私………」
「貴様なんてその程度の扱いで十分過ぎると言っているんだ!」
一応原因かも知れないから自白しようとするが、会長はヒートアップしていて聞く耳を持たれない。
普段迷惑かけられてるし、長谷道のせいにしても良いかも知れないが、流石にそれは人として良くない。何より鐘ヶ崎がストレスを感じ過ぎて倒れかねない。
さてどうしたものか。
「そもそもだよ。生徒会長とは常に生徒たちの注目を浴びる存在だ。それならスポットライトの1つや2つ、当然と言った表情で浴びて、自信満々に演説をするくらいやってのけられると思ったのだけど、そうかそうか。自信が無いのなら仕方がないだろうね。なに、この件は私から上手く鳥場くんと伏実くんに伝えておくよ。君は安心してくれて構わないとも。」
「元凶の貴様が、この話は無かったことにする、だと?…………はっ、そうか!分かったぞ!さしずめ、これで鳥場会計と伏実書記に私が生徒会長として相応しくないとアピールするための自作自演だな!ふん、スポットライトだと?そんな物いくらでも当てればいい!私は何ら気にせず演説を遂行してやろう!」
あ、長谷道がトンデモ理論で鐘ヶ崎を口車に乗せてる。
流石にこれはよろしくないのでは?
「いや生徒会長だからって、」
「おぉ!流石は我らが生徒会長!やはり鐘ヶ崎さんは私たちの想像の遥か上を行く人物だったんだね!」
「貴様に褒められても嬉しくない!いいか?長谷道、安達2年生、私がスポットライトを浴びて演説する姿をその目によく焼き付けておくことだ!」
「は、はい。」
「楽しみにしているよ。」
ストップをかけようとしたが無理そうだ。
最早引き返すことは出来なさそうだ。
うん。私が原因で、鳥場と伏実がノリノリになって枠を作って、長谷道が面白がって完成させたって感じだな。
もうどうしようもないし、鐘ヶ崎の勇姿を見守らせてもらおう。
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