冥土の土産
「なぁ丹野。」
「どうした安達?」
「『メイドの土産』って言葉を聞いたことがあるか?」
「あぁ、一応聞いたことはあるけど、詳しくは知らねぇぜ。」
そうか、丹野も詳細を知らないのか。
「伊江が言ってたんだよ。メイドの土産の『メイド』はメイドさんの『メイド』じゃないって。」
「マジで!?オレはなんか、こう、メイドさんがくれるお土産的な物だと思ってたぜ。」
「私もだ。その時は詳しく聞けなかったけど、メイドさんじゃないなら一体何だろうって思ってさ。」
「それなら伊江に聞けばいいじゃねぇか。」
「いやぁ、それは………。」
言えない。
この前、メイドの土産の話を聞いた時に見栄を張って『知っている』と言っちゃったけど、それを丹野に話したら絶対馬鹿にされるから、言えない。
「伊江は忙しいみたいだから!うん!聞けなくても仕方が無いな!」
「確かに、あいつ親方んちでバイトしてるから仕方ねぇか。」
「そうそう!それに偶には自分たちで考えないと成長できないぞ!」
「安達が、『自分たちで考える』!?何か隠してたり………」
「いつまでも竹塚とかに頼り続ける訳にもいかないし、むしろここでグンと成長して驚かせてやろう!」
「そういう事か!悪くねぇ、竹塚を驚かせるのは面白そうだぜ。」
「そうと決まればアイデアを出すぞ!」
「おう!」
よし、丸め込みに成功だ。少し危うかったが、丹野は丹野。単純な奴め。
「しかし『めいど』、メイドさん以外の『めいど』………。」
「うーん………。『毎度』?」
「なんだよ『毎度の土産』って。いつも同じお土産持って来てくれる親戚の叔父さんか何かかよ。」
どうせなら毎回同じものより違ったものを持って来てほしいが、お土産を貰う側だし我儘を言うのも失礼だろう。
と言うか『毎度の土産』なんて言われるレベルでいつもお土産持って来てくれる叔父さんは優しいだろ。なのにそんな言い方は可哀想だと思う。
あと『めいど』じゃないし。
「『名菓』?」
「日本語的に『名菓の土産』ってより『名菓が土産』だろ。」
「なんだよ、名菓を貰っても嬉しくないのかよ。」
美味しいお菓子が土産なのは確かに理解出来るけど。
貰ったら嬉しいけど。食べたら美味しいけど。
それも『めいど』じゃないだろ。
「『迷子』?」
「『迷子の土産』ってなんだよ。道に迷って違うところに行っちゃったけど、取り敢えずご当地のお土産買ってきたみたいじゃん。」
「お土産が何も無いよりはマシだろ。」
せっかくだし、と言う気持ちは分かる。
何らかの収穫が欲しいのも分かる。
確かにお土産無しよりはずっと良い。
けど『めいど』じゃないんだよ。だいぶ離れてるぞ。
「『made』?」
「作るとか、そんな感じの意味だったか。『madeの土産』、つまり手作りのお土産って事か。」
「自分で言っといて何だが、結構説得力あると思うぜ。職人が1つ1つ手作りしたお土産。これは間違いないぜ。」
なるほど。確かに職人が手作りしたお土産なら普通のお土産とは格が違う。
だからこそ『土産』の前に『madeの』を付ける訳だ。
これは納得だぞ。もう間違いないだろう。
「丹野、遂に答えに辿り着いたか。」
「オレ、成長出来たぜ。自分で考えて、答えを出せたぜ。」
「あぁ、これは他人から見れば小さな一歩かも知れないけど、私達にとっては大きな一歩だ。」
「ここまで頭を使ったのは久々だぜ。誰かに自慢したいくらいだぜ。」
私と丹野は難題を解決し、満足感と疲労感に包まれながら成長を称えていた。
その直後にガラリ、と教室の扉が開かれる。
そこにいたのは、
「あれ、安達と丹野。まだ教室にいたのか。」
「おう、今日は部活も休みだし。そうだ、伊江聞いてくれよ。」
教室を訪れたの伊江だった。
丹野が伊江に何かを話したそうにしている。
あ、マズい。この流れはなんだかマズい気がする。
「さっき安達と話しててよ、『めいどの土産』の『めいど』って何かって。そんで『作る』とかの『made』だって分かったんだぜ!オレたちも成長してるだろ!」
「は?」
丹野は自慢げに語るが、それを聞いた伊江は呆れた表情で短く返す。
うん、伊江の表情を見るに私の勘はバッチリ的中してそうだ。
「あのな、冥土の土産ってのはザックリ言うと、死ぬ奴が心残りの無いようにあの世に持って行かせてやるものだよ。ドラマとかゲームとかだと大抵の場合は知りたかった情報とか真実とか、そういう感じのやつが多いな。まぁそのセリフを言ったやつは大体やられたりする、いわゆる死亡フラグってやつの一種だな。」
へぇ、そうだったのか。
しかしこの前、伊江には知ってるって言っちゃったんだよなぁ。
どうしようか。
そうだ、名案が思い浮かんだ。これならいける!
「いや、まぁ、実は知ってたけど、ちょっと丹野で遊びたいなって思って。」
「は?お前さっき『伊江は忙しいから』とか『自分で考えて成長しよう』とか言ってたじゃねぇか。どうせ安達の事だから今みたいに見栄張って知ったかぶりしたに決まってるぜ!」
「は、はぁ?ソンナワケナイジャン?私正直。嘘ツカナイ。見栄張ラナイ。」
「めっちゃ片言じゃねぇか。」
「むしろなんで言い逃れできると思った。」
丹野め、最初の方の会話の内容をバッチリ覚えてやがった。
丹野の事だから忘れていると思ったのに。
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