激闘

なんで、なんでこんなことになってしまったんだ。


「竹塚、もうやめるんだ!武器を下ろして話し合おう!」

「命乞いですか?無駄ですよ。」


竹塚は引き下がらない。

それでも私は諦めず語り掛ける。


「私たちは友達だろう?またあの頃のように笑い合おうよ!」

「見苦しいですよ。覚悟を決めて下さい。」


竹塚は一歩、また一歩と迫ってくる。

仕方がないのか。


「それ以上進むと、後悔するぞ!」


竹塚は眼前に迫った。

私は剣を振り下ろす。


「こんなセリフ行ってみたかったんですよね。『最期の一撃は切ない』って。」


竹塚は剣が体に当たる直前に防ぎ、カウンターを繰り出した。


「ぐわあぁぁぁ!」


そして吸い込まれるように奴の攻撃は私の身体を吹き飛ばした。




『GAME SET!!!』




「ああぁぁぁ!負けたぁ!惜しかったのに!」

「いや、全然惜しくもなんともなかったよな。」

「君の実力で僕に『スマブレ』で勝とうなんて百年、いえ千年早いですね。」


『スマブレ』、正しくは『大激闘スマートブレイカーズ』。万人から愛される対戦型アクションゲームだ。

あとボロクソ言われているが体感的には惜しかったんだ。それにしても、もう少し手加減してくれても良いと思うんだけど。


「これで5戦5勝。それにしても君は本当に弱いですね。始める前はあんなに自信満々だったのに。」

「余計なお世話だ!お前がこんなに強いなんて知らなかったんだよ。くそぅ、リアルファイトならまだ分があるのに。」

「やめとけ、怪我するに決まってるな。」


それは聞き捨てならない。私が竹塚に手も足も出ないって言いたいのだろうか。

いやゲームでは負けたけれども。


「竹塚が。」

「当たり前です。僕は生まれてから今まで喧嘩なんて口でしかしたことないんですから。」

「紛らわしい言い方すんな!」


とはいえリアルファイトで勝っても嬉しくないし、なんとかゲームで竹塚をギャフンと言わせてやりたい。


「こうなったら!」

「こうなったらどうするんですか?」

「ハンディをくれ!」


これしか方法はない!


「お前、それで勝って嬉しいか?」

「相手の得意なことで勝ってギャフンと言わせられればOK!」

「安達って結構みみっちいよな。」


外野は放っておいてハンデを要求する。


「別にいいですけど。」


よし、勝った!




一戦目

・ハンディ内容

 必殺技禁止


『GAME SET!』


「何故だぁ!」

「安達ってとにかく攻撃って感じで隙を突くとかせず突撃してきますよね。」

「もう一戦!あとハンディ追加で!」




二戦目

・ハンディ内容

 必殺技禁止

 最初の10秒間攻撃禁止


『GAME SET!』


「隙を突いたと思たのにぃ!」

「そりゃフェイントとかもしますから。」

「まだだ!もう一戦!あと更にハンデ追加!」




三戦目

・ハンディ内容

 必殺技禁止

 最初15秒攻撃禁止

 フェイント禁止


『GAME SET!』


「近づかせろよぉ!」

「いや君、アイテム使おうとしないじゃん。」

「次ぃ!ハンデ追加!」




時は流れ


十戦目

・ハンディ内容

 必殺技禁止

 残機1でスタート

 最初の1分間攻撃禁止

 フェイント・アイテム・ガード・カウンター禁止

 Etc...


『GAME SET!』


「ぬあぁ!次だ!」

「竹塚、こいつの醜態を見るのもそろそろ飽きてきたんだが。」

「よくここまで諦めずに挑戦できるよね。」

「生憎、私は諦めが悪いんだ。諦めないやつにしか勝利の女神は微笑まないんだよ!」




十一戦目

・ハンディ内容

 必殺技禁止

 残機1でスタート

 最初の1分間攻撃禁止

 フェイント・アイテム・ガード・カウンター禁止

 Etc...


『GAME SET!』


「よっしゃあぁぁ!ついに、勝ったぞ!」

「はいはい、おめでとう。頑張りましたね。」

「なぁ、竹塚、最後の自滅、明らかに「しっ!これ以上ごねられると面倒くさいでしょう。」まっ、そうだな。」


やっぱり諦めない奴にこそ勝利の女神は微笑むんだな!かなり時間はかかったけど。

それに竹塚と伊江がコソコソと話しているがきっとリベンジマッチについてでも話しているのだろう。

ハンディ?勝ちは勝ちだ。うん、そこに目を向けてはいけない。考えてしまったら勝利の余韻が倦怠感に変わる。


「さて、安達も満足したみたいだし。さっきの続きをしようか。」

「そうだな。」

「ん?続き?早速リベンジマッチか?」


まさかまたハンディ無しでコテンパンにしようというのか。この鬼畜は。


「何を言っているんだい?そもそも君が課題が終わらない、勉強を教えてくれって押しかけて来たんでしょう?」

「しかもほとんど手が付いていないのに『疲れた、息抜きがしたい』って言いだしてゲーム始めたんじゃないか。」

「あ。」


しまった!ゲームを始めてからかなり時間が経過している!これでは課題が終わらない!

こうなったら最終手段を使うしかないか。


「竹塚くぅん。私達、友達だよねぇ?」

「何急にねっとりした口調で話し出すんだよ。」

「代わりに課題をやってくれって言うならダメですよ?」


望みは絶たれた!もはや諦めるしかないというのか。


「ほら、諦めない人にしか勝利の女神は微笑まないのでしょう?」

「俺も教えられるほど頭は良くないけど応援くらいはしてやるから頑張んな。」

「うあぁぁぁぁ、楽をすることを諦めたくない。」


結局、私は長い溜息と共にグチグチ言いながらも課題に取り掛かるのであった。


その後、激闘を制し、課題を終わらせた私は心に刻むのであった。

息抜きは程々にしようと。


三日後には忘れているだろうけど。

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