おみくじ
おみくじ。
初詣と言えばお参りとおみくじである。
お参りをしてお賽銭を入れて、神様に願いを伝える。
おみくじを引き、今年の運を占い、結果に一喜一憂したり、友人たちと盛り上がったりする
はずだと思った。
「すまん、よく聞こえなかったわ。おみくじの結果がなんだって?」
「『吉田』。」
「いや、だれだよ吉田って。竹塚から改名でもするのか?」
お参りを終え、友人、
てかほんと何だ吉田って。
「見て下さい。あらゆる項目に吉田が点在しています。きっと今年は吉田って苗字の人と何らかの縁があるに違いないでしょう。」
「仮に縁があったとしてどうしろと。意味わかんないし。」
「とりあえず結んどいたら?それよりあたしのおみくじ見てよ?」
「は?『狂』?沙耶、お前にピッタリじゃないか。」
続いて幼馴染の
いや、似合ってるとか冗談なんで、耳を引っ張るのを止めてください。福耳になっちゃう。
「だ・れ・が・狂ってるですって?」
「戦国時代の武将みたいに人の耳を千切ろうとする奴、痛たたたた、冗談!冗談だってば!」
「今年のおみくじは変わっていますね。僕の知り合いに吉田と言う人はいないし、入屋は戦国武将にジョブチェンジ、痛たたたた。」
「知ってる?人間に腕は2本あるのよ?」
「でも確かに変だな。俺も『マジ吉』って書いてあったし。これどう解釈しろってんだよ。」
友人、
「マジで吉ってことかな?」
「いやウソの吉ってなんだよ。てかおみくじでウソ仕込むなら普通に中吉とか凶とかでいいだろ。」
「吉田は?」
「知らん。」
「なるほどマジ吉田ではなかった点を考慮すると実は吉田ではない可能性もありますね。」
吉田はどうでもいい。
そんなことよりも本格的に意味が分からない。
夢ならさっき沙耶に耳を引っ張られた時に覚めているだろう。
「それよりあんたのおみくじにはなんて書いてあったのよ?」
「さっきから変なおみくじに振り回されてたからな。今から見るとこだよ。」
『末吉』
「お前のおみくじ普通だな。つまんな。」
「そうかそうか、つまり君はそういう奴だったんですね。」
「ドンマイ。」
三者三様。
普通でいいだろう。マジ吉よりよっぽど。
そして吉田迷宮からいつの間に脱出したんだ。もっと迷ってていいぞ。
あと狂ってるのに同情の目線を向けるな。末吉は狂と比較して憐れまれる結果ではない。
「普通でいいだろ!てかほんと誰がこのおみくじ作ってるんだ?」
「確かに今までは大吉とか中吉みたいな普通の結果だったのにね。」
「私だ!」
「うわぁ!いきなり現れて、なんだよお前!?」
いったい誰がこんなふざけたおみくじを作ったものかと話しているとどこからともなく会話に割って入る男がいた。
と言うか今、自分がおみくじを作った人であるって言ってなかったか、このおっさん?
「おみくじを作った吉田という者だ!」
「貴方が吉田か!僕の因縁の相手がこんなすぐ傍にいたとは!」
「竹塚、ちょっと落ち着け、もう少し吉田という概念について思索してるんだ。そしてそのまま黙っててくれ。」
「ともかく、なんでこんなことしたのよ?」
「これは話せば長くなる。あれは雪の日のことだった。」
「あ、俺はマジ吉が何なのか聞きたいんで前置きの部分は端折ってほしいな。」
「先日、彼女に振られたからだ!自棄になってやった!あとマジ吉は君の受け取り方次第で無限の可能性を秘めている!それから吉田と書かれたおみくじは可愛い女の子に引いてもらいたかった!」
酷い理由だ。口には出さないが、そんなんだから彼女に振られるのでは?
一方、伊江は無限の可能性と言われて目を輝かせている。お前、絶対適当にあしらわれているだけだぞ。そんな深い意味はないと思うし、それを言ったらおみくじなんて全部解釈次第だろ。
「そんなんだから彼女に振られるんじゃないの?」
「ぐはぁ!」
「沙耶!それは私も思ってたけど言わない方が良いやつだ!」
沙耶の口撃!クリティカルヒットだ!吉田がプルプルと震えている!
「ちくしょおぉ!正論は人を傷つけるんだよぉ!こっちは傷心中なん「吉田ぁ!」誰だ!」
逆切れする吉田を、厳めしい表情をしたおっさんが呼びつける。
吉田はバッと勢いよく振り返るが、
「お前、事務所に来いって連絡したよなぁ?」
「あ、いや、事務所に向かう途中でこのおみくじを作ったのは誰かって会話が聞こえてきたから、ちょっと話を」
「お前が作成を担当したおみくじで苦情が来てるんだよ!いいからとっとと事務所に来いや!いやぁ、お兄さん方、うちの馬鹿がご迷惑をおかけ致しました。そこの張り紙の宛先までおみくじを送付してもらえたら、返金させていただきますんで。」
そう言っておっさんは吉田を連れて去っていった。
吉田よ、安らかに。
「吉田さん、よく考えてみましたが、やっぱり僕、貴方の想いに応えることは……ってあれ?吉田さんがいなくなっている。」
「お帰り、あいつならドナドナしたぞ。」
「てか今の今まで吉田について考えてたのね。」
「嵐のような出来事だったな。」
その後は何事もなく、ブラブラと出店の屋台を回ったりして帰路に就いた。
「そういえばお前らはお参りの時にどんな願い事したんだ?」
「僕はもっと背が伸びますようにですね。」
「俺は彼女が出来ますようにだな。」
「ねぇ、こういう願い事って言っちゃったら叶わないみたいな話ってなかったっけ?」
「なんだって!?じゃあ僕の身長はこれ以上伸びないのか!?」
「マジかよ!?俺、一生独身!?」
願い事を聞いた身ではあるが迷信だと思うし大袈裟だろ。
「あたしは願い事、言わないでおくわ。言い出しっぺは当然言うだろうけど。」
「安達?聞いてきたお前は当然教えてくれるよな?」
「安達、僕たち友達だよね?」
こいつら、いやらしい笑顔を浮かべて聞いてきやがった。
まぁ、こっちから振った話だから答えるけど。
私、
「大したことじゃないよ。今年もみんなと楽しくやってけますようにってだけ。」
そんな平凡な願い事だ。
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