仮面
「安達くん、今日はなんで呼び出されたか分かりますか?」
「日頃の行いが良いから誉めてくれるんですか?」
「違います。もし日頃の行いが良いと思っているのであれば、そちらもお話をしないといけませんね。」
「先生!やっぱりまだ改善の余地があると思いました!これからはもっと品行方正に頑張ります!」
恐らくこれから説教されると言うのに、更に説教される時間を延ばしたくはない。
ここは良い感じの表現でお茶を濁そう。
改善の余地ありって言い方だと、今も良いけど更に良くする事が出来るってニュアンスにもなりそうだし。
「呼び出されるには必ず理由があるんですよ。よく考えて見て下さい。」
「でも私、何も悪い事してないですよ?」
「安達くん、これを見て下さい。」
保木先生はそうって手鏡を私に向ける。
「絶世の美男子がいます。」
「…………まぁ美の判断基準は人それぞれですよね。安達くんがそう思っているのであればそうなのでしょう。が、話の本質はそこではありません。」
「すいません。絶世の美男子は冗談です。」
私を傷つけまいと言葉を選んでくれているのは分かるけど、今のは普通にツッコミを入れて欲しかった。
流石に私もそこまでナルシストではないぞ。
「もぉ、真面目に答えて下さい。」
「でも別におかしなところはありませんよ?」
「では聞きますが、仮面を学校に来るのはおかしくは無いと思っているんですか?」
「え?この仮面、カッコ良くないですか?もしかして変なところがあったりしましたか?」
それはショックだ。カッコいい仮面だと思っていたが、実はダサかったのか?
これは恥ずかしいぞ。ファッションセンスを磨かなくてはならない。
「いえ、仮面がおかしいのではなく、仮面を学校に着けてくることがおかしいと言っているんですよ。」
「私のファッションセンスはおかしくなかったんですね。よかった。でも仮面をつけていても視界は良好ですよ。」
「前が見えづらくて危ないからダメだと言っているんじゃありません。」
「でもカッコいいですよ。」
「カッコいいカッコ悪いの問題でもありません。常識と言う観点での問題です。」
なんてこった。視界良好だし、カッコいいから問題ないと思ったんだが。
常識なんて時代や環境によって変わるんだし、この前テレビで『音楽室に飾ってある肖像画は実はカツラで、昔はオシャレで付けていた。』とか言ってたから私も仮面をつけて来たのに。
やはり権威か。権威なのか。音楽家として名を遺したからこそ、音楽室でも、学校でもカツラを被って許されているのか。
ならば、
「先生、私も歴史に名を遺すくらいの人物になって見せます。」
「そ、そうですか?頑張ってください?」
「そうすれば私も学校で仮面を装着する事を許されるんでしょう?」
「訳が分からないですけど、歴史に名を遺している時点で学校は卒業していると思いますし、死去している可能性もありますよ?」
「………!」
「そんな『確かに』って言いたげな表情をしなくても、少し考えれば分かる事でしょう。」
私としたことが、迂闊だった。こんな落とし穴に気付かないだなんて。
それでは今、仮面を付ける事が許されない。
ならば、
「先生、私は総理大臣になります。」
「法律を変えれば問題ないと思ってますね?」
「流石先生。察しが良い。」
「総理大臣になっている時点で学生ではなくなっていますよ。」
「………!」
「また『確かに』って言いたげな表情をしていますが、さっきと同じ理屈でしょう。」
私としたことが、迂闊だった。こんな落とし穴に気付かないだなんて。
それでは今、仮面を付ける事が許されない。
私は一体どうしたらいいんだ………。
「そもそもどうしてそんなに仮面にこだわるんですか?別に学校以外で、いえ常識の範囲内で付けている分には先生もとやかく言ったりはしませんよ。」
「この前漫画に登場していたキャラクターが仮面を付けていてカッコ良かったからです。」
「すごく安達くんらしい回答ですね。でも常識的に行動できないのはカッコ悪い事だとは思わないんですか?」
「自分を信じて我が道を往くのもカッコいいなって。」
「少なくとも漫画のキャラクターに影響を受けて、仮面を付けての学校生活で信念を貫ているとは思えないのですが。」
まぁ確かに信念と言うほど、自分の芯になっているわけではないけど。
でもそれを言うなら、
「学校にカツラを被って来てる人だって自分を偽っているんですから信念を貫いては居ないと思います。」
「…………。」
「安達くん。カツラの話は関係ないので止めましょう。…………教頭先生がメガネを光らせてこちらを見ていますよ。」
「え?教頭先生?教頭先生もカツラを被っているんですか?」
「安達くん。今の先生の発言は忘れて………え?教頭先生『も』?『も』ってなんですか?まさか安達くん、カツラを被っているんですか?そこから視線を逸らすためにわざと仮面を?それだとしたら………えぇ、仕方が無いのかも知れませんね。大丈夫です。先生は何も聞きませんでした。」
「…………!?」
おっと?先生が何やら勘違いをし始めたぞ?
私は音楽室の肖像画の話をしたかったのだが、先生は何故か私の事を憐みの目で見てくる。
そんな事を思っていると肩をポンと叩かれた。
振り向くとそこには、
「安達くん。人生は大変な事もたくさんあるが、いつかきっと報われる。強く生きるのだよ。」
「教頭先生?」
教頭先生が何やら諭してきた。
違うんだけど。私がカツラを被っているんじゃないんだけど。
その後弁明をしたが、理解してもらうのには時間を要するのであった。
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