三すくみ
「おや、安達2年生。」
「あ、鐘ヶ崎会長。こんちは。」
「こんにちは。それにしても、またここで会うとはな。やはり屋上は落ち着く。空が青い………。」
またしても屋上で生徒会長の鐘ヶ崎と出会った。
遠い目をしているが、またお悩み相談教室でも始まるんだろうか。
前回は途中から長谷道の愚痴に変わっていたけど。
しかし今日は都合が良くないかも知れない。
「あれ?生徒会長もいたんですね。」
「そうだな。てか安達と知り合いっぽいけど、こいつ、いつの間に生徒会長と知り合ったんだ?普段の生活を見てると接点皆無に見えるけどな。」
「む、君たちは安達2年生の友人か。初めまして。生徒会長を務めている鐘ヶ崎要だ。よろしく頼む。」
「安達のクラスメイトの竹塚武司です。よろしくお願いします。」
「同じくクラスメイトの伊江浩二。よろしくな。」
竹塚と伊江が私に続いて屋上に入り、鐘ヶ崎と出会う。
2人を視認した瞬間にネガティブモードに入りかけていた鐘ヶ崎はすぐさまキリっとした表情になる。本当に切り替えが早い。
もっとも、伊江の言う通り普段生活していても生徒会長と関わる機会なんてそうないだろう。
現に竹塚も伊江も鐘ヶ崎とは初めて顔を合わせて自己紹介しているくらいだし。
そこはまぁ、そこは私の人徳?ってやつかな。
「安達は以前、僕と一緒に生徒会室に相談に行ったので、その時に出会ったのでしょう。」
「む?そうだったのか?確かに初めて生徒会室で出会った時は長谷道のせいで有耶無耶になってしまったからな。今からでも話を聞くぞ。」
「え?あー、いや。大したことじゃないんで大丈夫です。」
「そうか。生徒会では困った事や相談事はいつでも受け付けているからな。」
竹塚!余計な事を言うんじゃない!
この前、相談に乗ったり愚痴を聞いた時に良い感じに相槌を打っていたら誠実なイメージを持ってもらえたんだから、その幻想を崩したくはない。
あと生徒会長の悩みの種を増やすのも申し訳ないし。
とりあえず大丈夫と言ってはぐらかしておこう。
「でも生徒会長が安達と親しげなのは本当に意外ですね。この前生徒会室に行った一瞬で仲良くなったんですか?」
「えーと、それはだな…………。相談をした側とされた側との間柄でな。さっき話していた生徒会室を訪れた以外でも話すことがあったんだ。」
「そうだったのか。ウチの安達が迷惑をかけたな。」
「なに、困った時はお互い様さ。」
竹塚が鐘ヶ崎に質問すると、鐘ヶ崎はバツが悪そうに眼を逸らす。
少し間を開けて返答をするが、どっちが相談者側でどっちが相談を受けた側か明言していない。
そりゃ一人屋上で落ち込むくらいだから他人には見せたくない姿なのだろう。
生徒会長として自信のある姿を見せたいと言うのもありそうだけど。
「そういやさっき長谷道が生徒会室でって言ってたけど、あいつ生徒会役員なのか?とてもそうは見えないけどな。」
「いいや、あいつは生徒会役員ではない。勝手に生徒会室でたむろしているだけだ。」
「うわぁ、変な奴だと思ってたけど、迷惑な奴だな。」
「そうなのだ!本当にあいつは奔放と言うか何と言うか…………。あいつの友人も少しは暴走を止めてくれないだろうか。と言うか長谷道の友人になるくらいだから、むしろ一緒に奇行に走る可能性が…………。もし会う事があったらじっくりと話をしなくては。」
「へ、へぇ~そんな人がいるんですね。」
伊江が長谷道に言及すると鐘ヶ崎はすぐさま同意する。
矛先はまだ見ぬ長谷道の友人へと飛び火するが、竹塚は他人の振りをする。
お前の友達だろ。どうにかしろよ。
「そ、そんな事より!安達は良いんですか?先日出来なかった相談をするいい機会だと思いますよ。」
「え?いやいや、私の事は大丈夫だから。それより会長の言ってた相談について詳しく話してやるよ。」
「待て安達2年生。友人とは言え、誰かにした相談事を軽々しく他人に話すのは誠実ではないだろう。それよりも長谷道の友好関係について精査する方が重要だろう。」
全員が全員、聞かれたくない人物に対して秘密を抱えているせいで三すくみが出来てるぞ。
私はテスト廃止の相談を生徒会に持って行こうとした秘密を持ち、それを竹塚に話されて鐘ヶ崎にバレる訳にはいかない。
鐘ヶ崎はネガティブな側面を持っていて私に相談した事実を、竹塚と伊江に知られる訳にはいかない。
竹塚は長谷道と友人であること私は知っているが、鐘ヶ崎は知らないので気付かれたくない。
なんだこの状況は。と言うか伊江だけ秘密が無くて部外者みたいなんだけど。これは不公平だ。
「伊江。」
「なんだ?」
「何か秘密は無いか?」
「ねぇよ。仮にあったとしても秘密なんだから言う訳ないからな。」
「仕方がありませんね。伊江の秘密は捏造し「すんな」少しくらい良いじゃないですか。」
伊江に秘密を聞くが、無いと言われる。
竹塚の捏造作戦も失敗し、秘密を握ることに失敗してしまった。
このままでは伊江だけ弱点が無い。不公平さを解消する事は出来ないのか。
「待て待て。他人の秘密を無理矢理暴こうとするのは良くないぞ。人間には他人に知られたくない事の一つや二つくらいあるだろう。」
「それもそうですね。」
「会長の言う通りですね。」
「いきなり一致団結してどうした。まさかお前ら隠し事でもあるんじゃねぇだろうな。」
「ソンナコトナイヨ?」
「片言じゃねぇか。」
「まぁまぁ、秘密とか何のことか分からないですけど、別の話でもしましょうよ!」
「うむ、それが良いな!」
しかし鐘ヶ崎がストップをかける。
伊江の秘密を暴きたかったが、逆に私の秘密がバレる危険性を考えるとここで引いておく方が良さそうだ。
竹塚も私も鐘ヶ崎の意見に同意して追及を止める。
伊江はそれを訝しむが、とりあえず話を逸らして有耶無耶にしてしまおう。
世の中には知らない方が良い事もあるのさ。
主に自分の為に。
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