サボり

美術の時間。

校内にある物や景色を対象として模写を行う事になった。

私は模写する物を探して空き教室に入るとそこには………


「あれ?安達さんじゃないっすか。サボりっすか?」

「永篠?いやサボりじゃないから美術の授業中だから。模写する物を探しに来ただけだから。」


美化委員の永篠が椅子に座ってだらけながらスマホを操作していた。

初手でサボりを疑うんじゃない。

と言うかそっちの方が明らかにサボってるように見えるぞ。


「そう言うお前こそ、こんなところで何やってるんだよ。今は授業時間内だぞ。」

「え?そーっすね。この空き教室の整理をしてたっす。」

「明らかに今考えた感のある理由だな。お前こそサボってるんじゃないのか?」

「そんな事…………ないっす?」

「嘘つけ。」


何だ、今の間は。

絶対今の間に『無い事も』って含みがあっただろ。


「まぁまぁ。模写のなんかしら、探さなくていいんすか?」

「そう言えばそうだった。」

「何ならウチの事を模写しても良いんすよ?」

「なんでだよ。」


普通に物で良いだろ。

と言うか、


「私が永篠を模写したらサボってる事が大々的にバレるんじゃないのか?」

「そこは、こう、上手い具合に美化活動をしてる感じに描いてほしいっす。」

「自分の姿勢を鏡で見てみろ。」


椅子に座ってスマホを操作している姿からは、美化活動感を一切感じる事は出来ないぞ。

むしろその状態でよく美化活動している感じに描いてもらえると思ったな。


「はぁ………。仕方ないっすね。」

「仕方なくないから。」

「それならこれでどうっすか?」

「お、それなら美化活動感があるぞ。」


永篠は嫌々ロッカーからホウキを取り出すと床を掃き掃除しているようなポーズをとる。

まぁこれなら問題ないかな。


「それじゃ30秒で頼むっす。」

「無茶言うな!」


訂正。問題しかない事を言い出したぞ。

何をどう頑張れば30秒で模写が終わると思うのか。


「え~。」

「『え~』じゃないんだよ、『え~』じゃ。30秒じゃどう頑張っても何を描いたか分からない作品しか出来ないから。」

「それじゃやっぱりウチ以外の何かを描いてほしいっす。」

「お前なぁ………。」


だいぶ自分勝手な物言いをしている自覚はあるのだろうか。


「これとかどうっすかね。形はシンプルだし、描くのも楽なんじゃないっすかね。」

「ロッカーか。まぁシンプルっちゃシンプルだな。そこまで凝ったもの描くつもりも無かったし、それでいいや。」

「じゃあ安達さんが描いてる間に話し相手になってあげるっすよ。暇なんで。」

「なら授業に出ろよ。」


遂には美化活動云々の言い訳すら投げ捨てたぞ、コイツ。

せめて取り繕う事を止めるなよ。


「安達さん、キリストは昔、なんかアレっす。罪を犯した事が無い奴だけが罪人に石を投げろ的な事を言ってたんすよ。だから他人に授業を真面目に受けろって言っていいのは今まで不真面目に授業を受けたり、サボったりしなかった奴だけなんすよ。」

「ん?」

「その点、安達さんは常に真面目に授業を受け続けたって自信を持って言えるっすか?」

「んん?いや、まぁ、うん。程々、かな?」

「つまり安達さんはウチに授業を真面目に受けろって言う資格は無いと思うんすよね。」

「んんん?そ、そうなのか?」


キリストの話は何が何だか分からないが、そう言われるとそうなのかも知れない。

授業中に寝てたり落書きしてたりするし。


「そうっすよ。それにこの間の大掃除の時、ゴミ捨てを理由にサボってたのを見逃してあげたじゃないっすか。」

「いやその時はお前もサボってただろ。」

「やだなぁ、ウチは仕事をしっかりしてるって雰囲気を出してたっすよ。」

「雰囲気だけじゃん。サボってたって部分は否定できないじゃん。」

「それにその後、戻ってこない安達さんの様子を見に来たクラスメイトの娘に誤魔化すのを手伝ってあげたじゃないっすか。」

「やっぱり休息は大事だよな。うん。たまにはゆっくり休んでも良いと思うんだ。」


この前、永篠にかばってもらった事を考えると、別にこの場で授業に出るように説得する必要は無いな。


「てか安達さんだって地味に話ながらも手を動かしてるじゃないっすか。」

「だって別に無理に授業に出ろって言う義理は無いし。かといって無視するのも良くないから話ながら描いてるんだよ。」

「わー、優しいんすねー。」

「絶対本心じゃないだろ。」

「そんな事………無いっすよ?」

「嘘つけ。」


だからなんだ、今の間は。

とりあえず誤魔化しておこうって気持ちが伝わってくる間だな。


「実際、ウチの事を見て見ぬふりしてくれる時点で優しさは感じてるっすよ。」

「まぁわざわざチクる必要もないし。」

「美化委員長って立場は良いっすね。何かと理由を付けて自習から抜け出せるんすから。」

「私でも職権乱用って言葉は知ってるぞ。と言うか自習の時間だったのかよ。」

「あはは、ウチだって抜け出す授業くらい選ぶっすよ。この時間なら抜け出せるとか、この先生は抜け出すと後々面倒くさそうだから授業には出ておくとか。」


コイツ、プロのサボり魔か?

逆に凄いと思うぞ。

尊敬も憧れもしないけど。

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