ある休日。


「鳩を捕まえに行こう。」

「そうか。精々頑張りな。」

「頑張りなって………。一緒に行ってくれないのかよ。」


なんで私1人で行かせようとしてるんだよ。

行ってくるって宣言したんじゃないんだよ。

一緒に行こうって誘っているんだよ。


「ほら、伊江と竹塚もこれを持って一緒に行くぞ。」

「虫取り網で鳩を捕まえに行こうとする高校生って初めて見ましたよ。」

「見てくれだけなら完全に虫取りに行くようにしか見えないんだよな。これに麦わら帽子と虫かごがあったら完璧だったな。」

「馬鹿言うなよ伊江。虫かごに鳩は入らないだろ。」

「馬鹿に馬鹿って言われたくはないな。」


誰が馬鹿だ。

素手で捕まえるのは難しいからしっかり準備して来ただろう。

人類は道具を使う事によって効率的に生活している賢い生物だ。

私は自分に出来る範囲で道具を用意して効率的に鳩を捕まえようとしている。

つまり私は賢いと言う事だ。


「あと鳩に近づいたところで飛んで逃げられるのがオチだろうな。」

「でも鳩なんて公園とかに行けば結構いるし、虫取り網なら何度かチャレンジすれば捕まえられるかも知れないぞ。」

「そもそも鳥獣保護法的にアウトですからね。」

「私が鳩の保護活動に勤しんでたって事に………。」

「出来ないだろうな。」


くっ、何故そんな法律があると言うのか。

私はただ鳩を捕まえようとしているだけなのに、法律が邪魔をする。

私は法律の事を邪魔した事は無いと言うのに………。


「と言うかなんでいきなり鳩を捕まえに行こうだなんて言い出したんだよ。」

「伝書鳩っているらしいじゃん。」

「見た事は無いけど、聞いたことくらいならあるな。」

「飛ばしてみたいじゃん。」

「スマホでメッセージを送れ。」


確かに利便性ではスマホに圧倒的に劣るだろう。

しかしロマンと言う面ではスマホを圧倒しているぞ。

仮に飛ばしても時間はかかるだろう。

キチンと目的地に到達しないかも知れない。

目的地に到達出来たとしても手紙が落っこちていないと言う保証はない。

しかし、それでも、そのリスクを、可能性を考慮したうえで、無事に届いたら嬉しいだろう。

感動するだろう。

そこにロマンを感じるだろう。


「いっその事、矢文でも飛ばしたらどうですか?」

「それもロマンがあって良いかも。」

「危ないから止めろよな?」

「じゃあ鳩に矢文を括りつけて………。」

「もはや意味が分かりませんね。」


でもカツって美味しいじゃん。

カレーも美味しいじゃん。

カツカレーも美味しいじゃん。

つまりはロマンにロマンを掛け合わせたら、もっとロマンに溢れるんじゃないだろうか。


「そこまで言うならこれをどうぞ。」

「こ、これは………!」

「園芸部の友人に貰った何かの種です。これを植えて木を育てて下さい。そして育った木には、いずれ鳩が留まるでしょう。その鳩を伝書鳩に、木を矢に加工するんです。それらを統合して伝書矢鳩にしましょう。」

「分かった!頑張るぞ!」


1から全てを揃える。

確かに成功した時の達成感と感動は際立つだろう。

ナイスアイデアだ、竹塚。


「なぁ竹塚。普通木って苗から植えるもんだと思うんだよな。」

「安達が飽きるまで時間を稼ぐには十分でしょう。彼は夏休みの宿題で育てるアサガオを枯らすタイプの人間ですよ。」

「それもそうだな。」

「何話してるんだ?早く行くぞ!」


伊江と竹塚が何やら小声で話しているが、今はそんな事はどうでもいい。

早く育つと良いな。

実に楽しみだ。

鳩の名前も考えておかなくては。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る