清めの塩

ある日の昼休み、食堂で昼食を摂っている時の事。


「力士って土俵で塩を撒くじゃないか。あれって何なんだろうな。」

「急にどうした。」

「少なくとも食事中に力士の話が唐突に飛び出してくるのは安達くらいでしょうね。」


もしかしたら私以外にもいるかも知れないだろう。

ちゃんこ鍋を食べてる人とか。

今食堂でちゃんこ鍋を食べてる人はいないけど。

そもそも食堂でちゃんこ鍋が提供されてるところを見た事すらないけど。


「相撲って運動だから塩分補給のために撒いてるんじゃない。」

「食事に集中したいからってアイデアが適当過ぎだろ。」


沙耶はこちらを見ることも無く食事を続けながら返事をする。

そもそもなんで塩分補給用の塩を撒いてるんだよ。


「あれは目つぶしだな。塩を相手の顔面にぶちまけて目つぶししてるんだろうな。」

「相撲ってそんなルール無用の競技じゃないだろ。」


伊江は伊江で正気を疑う発想だし。

そんな勝利こそ全てみたいな価値観の相撲とか見たくないぞ。


「実はあれって塩じゃなくて砂糖なんですよ。」

「そうだったのか?じゃあなんで砂糖を撒いてるんだよ。」

「糖分補給のためですよ。」

「沙耶のアイデアをパクっただけだろ。」


竹塚に至ってはアイデアをパクっただけである。

もう少しオリジナリティを出せよ。


「まぁ砂糖って言うのは嘘ですけどね。」

「だろうな。」

「塩を撒く理由ですが、土俵を清めるためですね。」

「どこかでそんな話、聞いたことあるわね。」

「土俵には魔物が宿っているので。」

「魔物!?甲子園だけじゃなくて土俵にもいたのか!?」

「どこでもそんな話、聞いたことが無いわね。」


甲子園の魔物って聞いたことあるし、そう考えると土俵にも魔物がいてもおかしくはない。

土俵際の魔物とか。

なんか審判のギョウジ?が持ってるグンバイ?のは刀が仕込まれてるって聞いたことあるし、もしかしたらそれで魔物を倒しているのかも知れない。


「魔物云々は置いておくとして、真剣勝負の場である土俵を清める目的みたいな話はどっかで聞いたことあるな。」

「伊江も同じような事を言ってるって事は清め目的は本当みたいね。」

「まるで僕が嘘ばっかり吐いているかのような言い方じゃないですか。」

「普段から作り話ばっかりしてるからだろ。」


『竹塚ってどんな奴?』って友達に聞いてみたら、多分『よく作り話をする男』って回答が出てくると思うぞ。

少なくとも私は回答の一部に加える。


「ところで話は変わるんだけど、塩で清められた料理を食べたかったりしないか?」

「は?別に塩で清めるような曰く付きの食材なんて使ってないよな。」

「安達、まさかとは思いますけど。」

「遠慮しなくて良いんだぞ。」


さぁ、この料理を食べるんだ。

この清められた料理を。


「それならもらってあげるわよ。」

「止めといた方が良いんじゃ………。」

「(パクッ)しょっぱっ!?」

「食欲に従った者の末路がこれですか。」


沙耶が伊江の静止を無視して料理を食べる。

口にした瞬間、面白いリアクションを取ってくれた。

しかし出来れば竹塚辺りに食べてほしかったところだ。


「敦?」

「待ってくれ沙耶。落ち着け。落ち着いて話し合おう。」

「塩を掛け過ぎたから誰かに押し付けようとしただけだよな。」

「急に力士の話をし始めたのも押し付けるための前振りですよね。」

「…………ソンナコトナイヨ?」

「ギルティね。」


こうなるから。


「あ、待ってくれ沙耶、指はそっちには曲がらない!痛い痛い!おい、竹塚、伊江!見てないで助け…………なんで料理をこっちに近づけてくるんだ!?」


食べさせようとするな、竹塚。

写真を撮ってるんじゃない、伊江。


痛みと過剰な塩分を味あわされる事になった昼休みであった。

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