マネキン
放課後、廊下を歩いていると丹野とすれ違い、話しかけられる。
「なぁ、それ………。」
「ん?どうした?」
「どっから拾って来たんだよ。その
マネキン。」
丹野は私の拾ったマネキンを指差し、質問を投げかけてくる。
「これはさっき、何故か屋上にあるのを見かけたから持ってきた。」
「勝手に持ってきて良かったのか?」
「なんか雨降りそうだったし、後で職員室にでも持ってくよ。」
そう。先ほど屋上に行ったら何故かマネキンが仁王立ちしていたのだ。
周囲には誰もおらず、空模様も怪しかったため回収したが、一体誰が持ってきたんだろうか。
「職員室の前まで運ぶの手伝ってやろうか?」
「お、ありがとう。足の方頼むわ。」
私が頭の方を、丹野が足の方を持って運ぶ。
階段に差し掛かり、下りようとするが、
「ハ、ハックション!あっ、やべっ!」
「うおっ!?」
丹野がくしゃみをして足を手放してしまう。
バランスを崩し、落っことしそうになるが、頭をしっかりを抱え、事なきを得た。
かに思われた。
しかし、
「ぎゃあぁ!マネキンが千切れた!」
首から下が外れて階段を転げ落ちていき、その衝撃で腕や足といった体のパーツがバラバラになってしまった。ぱっと見、殺人事件の現場やホラー映画の一幕だ。
「おい丹野!なんてことしてくれたんだ!」
「しょうがねぇだろ!つーかお前こそ頭だけ掴んでたから千切れたんじゃねぇのか!?」
マズい事になった。
流石にこの光景を誰かに見られたら職員室に呼び出しでは済まなくなる。
誤解されたら白黒のツートンカラーの車に乗った公務員が駆けつけてしまう。
その前にどうにかしなくては。
幸い、目撃者はいない。今のうちに片付けなくては。
「なんじゃこりゃあぁ!?」
「しまった!見つかった!」
「こうなったら!そりゃ!」
誰かが来て、この惨状を目撃してしまった。
咄嗟に持っていたマネキンの頭を投げつける。
「ぎゃああぁ!生首ぃ!」
来訪者は驚きのあまり倒れたようだ。
これで急場は凌いだぞ。
「お前何やってんだよ!?」
「つい咄嗟に!でも仕方がないだろう!それよりも今はこの状況をどうにかするのが先だろ!」
「どうにかするってどうすりゃいいんだよ!つーか今気絶した奴は誰だ?」
私も来訪者を確認していなかった。
こいつは、
「親方か。」
「親方なら話を聞いてくれたんじゃないか?」
「いや、自首する事を進められた可能性の方が高い、事にしておく。」
もしかしたら話を聞いてくれたかもしれないけど、気絶させてしまったから、その可能性もなくなってしまった。
「とにかくマネキンはバラバラになっちまったけど、どうするんだ?元通りにくっつけ直すのか?」
「逆にこっちの方が運びやすくはないか?鞄とか袋とかに入れたりして。」
「それ見つかったら、かなりヤバいんじゃね?」
何を今更。既にバレたらヤバい光景が目の前に広がっているんだぞ。
「とにかく、バレないように早くマネキンを片付けるぞ。」
「片付けるって言ったってどこに持ってくんだ?」
「それなら科学準備室を使っていいよ。」
「本当か?ありがとう!ん?」
なんだろうか。今この場にいないはずの人物の声が聞こえてきたぞ。
「どうかしたのかい?鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして?」
「青井!?いつの間に!?」
「なんか悲鳴が聞こえてきたから来てみたら梅嶋君が倒れていてね。」
マズい、また目撃者が増えた!
しかもこの光景を見ても一切動じていないぞ。
……動じていないなら変な誤解はされていないのでは?
「青井、聞いてくれ。これには訳が。」
「自首した方が良いと思うよ。」
誤解されていた。やはり通報されてしまうのだろうか。
「さて冗談はここまでにして、このマネキンはどうしたんだい?」
「冗談かよ!いや、屋上で拾ってきたんだが、階段から落として。」
「バラバラになってしまったと。ついでにそこで倒れている梅嶋君は?」
「安達がマネキンの頭を投げつけて気絶させた。」
こら、丹野!余計な事を言うんじゃない!
「安達君は後で梅嶋君に謝った方が良いね。」
「仕方がなかったんだ。とにかくこのマネキンをどうにかしようって話をしていたんだが、科学準備室を使っていいって本当か?」
「うん。あそこなら私の私物が結構あるから。置いておいても大丈夫だよ。」
準備室とはいえ、私物を置いておいてもいいんだろうか。
しかしこのチャンスは逃せない。厚意に甘えさせてもらおう。そこでどうにか修復しなくては。
そして鞄や袋にバラバラになったマネキンを入れて科学準備室へと向かう。
その道中、
「あれぇ?安達くんたちだ。なんかぁ、大荷物抱えてるみたいだけど、どぉしたの?」
「み、湊か。いや、ちょっとな。うん。それよりも湊はどうしたんだ?」
「そうだ、みんな、ちょっと探し物してるんだけどぉ。」
「何を探しているんだい?」
「今度の劇で使うマネキン、見なかった?」
瞬間、冷や汗が出てくる。
「おい、やべぇぞ。どうするんだよ?誤魔化すか?」
「たぶんバレないとは思うけれど、それを良心の呵責が許すかな?安達君。」
丹野と青井がコソコソと話してくる。
誤魔化したいけど、それでは心が痛む。
正直に話すとしよう。
「あー、湊。実はだな。」
鞄を開けてバラバラになったマネキンを見せる。
「あっ!」
怒られるのを覚悟して身構える。
「みんなが持ってきてくれたんだぁ!ありがとぉ!」
「へ?」
何故か怒られることは無く、むしろ感謝された。
「なぁ、湊。このマネキン、バラバラにしちゃったの怒らないのか?」
「え?元々バラバラに分解できるやつだよぉ?その方が運びやすいでしょ?」
なんだ、そうだったのか。
不幸中の幸いという訳だ。
「このまま運ぶよ。どこまで持っていけばいい?」
「いぃの?ありがとぉ!それじゃぁ演劇部の部室までお願いねぇ。」
大丈夫だったとはいえ、なんだか申し訳ない気持ちではあるのでマネキンを運ぶ申し出をした。
それにしても、何か忘れているような気がするが、なんだっけか?
「うぅん、バラバラの死体がぁ………。こっちに来るなぁ生首ぃ………。」
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