会計と書記
それは放課後、暇だったので学校の近隣にあるホームセンターをぶらついていた時の事だった。
「…………。」
言葉が出ない。
「まぁ、大体こんなもので大丈夫かね。伏実さん、運んじゃおう。」
「了解。」
私の眼前にいるのは以前生徒会室で出会った2人の生徒、確か鳥場と伏実だ。
2人が何故、ホームセンターにいるのか。それは疑問に思わないでも良いだろう。
別にホームセンターで同じ学校の生徒と出会うこと自体はなんら不自然でもないだろうし。
しかし、
「なんで買い物カゴに山ほど接着剤とガムテープを入れているんだ?なんで店内でリヤカーを引いて木材を運んでいるんだ?」
「おや、貴方は………。」
しまった、思わず口からツッコミが漏れて気付かれた。
「誰でしたっけ?」
「以前、生徒会室に来た生徒。名前は知らない。」
「あぁ、見覚えがあると思ったらそう言う事だったんだね。自己紹介がまだなら、覚えていなくても仕方がないね。」
これツッコミを入れなければ視界に入ってもスルーされていたのでは?
伏実の方は覚えてはいたけど、声を掛けてきそうには見えないし。
「それじゃあ自己紹介でもしようか。僕は
「………。」
「ほら、伏実さんも自己紹介。」
「書記、
「2-Bの安達敦です。」
………いや、確かに自己紹介も大事だろうけど。
けど、
「店の通路のど真ん中でする事ではないと思うんだけど。しかもリヤカーがある状態で。」
「確かに。」
「大丈夫大丈夫。そこまで狭い通路でもないしね。とは言え長居するのも流石に店に迷惑か。精算を済ませて学校まで運んじゃおうかね。2人とも、行こうか。」
「え?私も?」
「なぁに、旅は道連れ世は情けってね。細かい事は気にしない気にしない。」
細かくは無いと思うんだけど。
まぁ手伝わされる訳ではなさそうだし、暇だったから別に良いけど。
「で、結局この接着剤とガムテープの山、それからリヤカーの木材はなんなんだ?」
「これかい?これはね学校で修繕しないといけないところがあるんだけど、業者が入るのは少し先になるから、それまでの間、一時的に塞いでおくためにね。」
なるほど、応急処置って事か。
でもそれにしても多過ぎでは?
どんだけ修繕する箇所があるんだよ。
「いくら何でも多過ぎじゃないか?それに釘は必要ないのか?」
「足りないよりは良いと思うし、これだけあれば今度買い出しに行く必要も無いからね。釘は十分な在庫があったし、他はまぁ、多少多くても問題ないでしょ。上手い事やれば最終的にはどうにかなるからね。」
鐘ヶ崎。私が言うのもなんだが、生徒会メンバーの人選間違ってないか?
鳥場は笑顔の裏で不満を抱えてそうって言ってたけど、たぶんそこまで深く考えてないぞ、こいつ。発言からしてかなりおおらかと言うか、大雑把だ。
少なくとも会計を任せて大丈夫か心配になる程度には。
「伏実、私には多過ぎに見えるんだけど、どう思う?」
「さぁ?」
「さぁ?って………。」
「でも、足りなかったら会長困る。いっぱいあれば会長困らない。」
鐘ヶ崎。私が言うのもなんだが、生徒会メンバーの人選間違ってないか?
伏実はいつも無口無表情で何を考えているか分からないって言ってたけど、結構鐘ヶ崎の事を認めているように見えるぞ。
でもやっぱりそこまで深く考えてないと思う。多過ぎて困るって事を想定していないし。
そんな事を考えながら学校へと戻っていく。
生徒会室では会長の鐘ヶ崎が出迎えてくれた。
「む、戻った……か………。」
「ただいま。」
「戻ったよ。」
「………鳥場会計?なんだ、この量は?なんでこんなに接着剤とガムテープと木材が必要だと思ったんだ?」
「これだけあれば不足するなんてことは無いからね。」
「………そうか。(なんで鳥場会計は自信満々の笑顔なんだ?やはり日頃から不満があって、その不満をこうして晴らすことが出来たからなのか?)」
「伏実書記、何故止めなかったんだ?」
「足りないよりは良い。」
「………………。(なんで伏実書記は止めなかったんだ?やはり私に不満があるからなのか?)」
私たちを出迎えた生徒会長は絶句している。
こうなると思ったよ。
表情こそ崩れていないが、絶対心の中でネガティブモード入ってそう。
ついでに何故か一緒にいる私に『なんで止めなかった』と言いたげな目線を向けて来たけど、私は修繕の規模を知らないし、止められないので首を横に振っておいた。
「やぁ皆!ごきげんよう!」
「帰れ。」
「我らが生徒会長は来客に対して………なんだい?この大量の物資は?」
「修繕。」
「なるほど。そうだ!面白そうな事を思いついたから一部を拝借させていただくよ。」
「長谷道さんは相変わらずだね。でもいっぱいあるし多少は譲っても問題は無いね。」
「………………良いだろう、持って行け……………。」
突如、生徒会室に長谷道が訪れ、反射的に鐘ヶ崎は追い返そうとする。
しかし長谷道は大量の物資に気が付き、譲ってほしいと言う。
鐘ヶ崎は苦虫を嚙み潰したような表情で了承した。
一方で鳥場と伏実は和やかに、
「今日も鐘ヶ崎さんの役に立ててよかったね。」
「同意。」
と談笑していた。
にこやかに、満足げに言っているけど、お前らはそれを本気で言っているのか。
改めて生徒会長の苦労が感じられた出来事だったよ。
いや今回の苦労の原因は生徒会長である事よりも周りにあるんだろうけど。
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