コクシ無双

「ロン!国士無双!」

「いきなり叫んで、何を言ってるんだ?」

「今は麻雀をしていませんし、安達が麻雀の役を知っているとも思えませんね。」

「いや、なんかカッコいいじゃん。響き的に。」


これが声に出して叫びたい日本語ってやつか。

いや麻雀って確か中国発祥だから日本語ではないだろうけど。


「安達はロンよりも論外の方が似合ってるな。」

「なんでだよ。何が論外なんだよ。」

「課題をやっている時にいきなり叫び出すところ。」

「そもそも日頃の行いが既に論外って言われてもおかしくはないですよね。」


辛辣過ぎないか?

確かに課題をやっている最中に叫んだのは悪いと思っているけど。

日頃の行い全般は言い過ぎだろ。


「でも『これでトドメだ!』感があって叫びたくもなるだろ。」

「それ悪役側の負けフラグですよね。」

「大体それ言った後にトドメ刺せてないよな。」

「まぁ実際課題にトドメを刺すのはまだまだかかりそうだけど。」

「それを理解しているなら叫んでないで少しでも進める努力をするべきだな。」


そこは、ほら、休憩的な?

疲れていると効率も落ちるし、心を休めるのも大切だから。

それに努力はしているんだ。

結果に表れていないだけで。


「伊江、その言い方じゃ私が努力してないみたいじゃないか。」

「みたいも何も手を止めてますよね。」

「正しく口よりも手を動かせって状態だな。」

「さっきまでは頑張ってた。今は休憩してるだけだから。」

「課題を進めてる時間より休憩してる時間の方が長いのは気のせいか?」

「キノセイジャナイカ?」

「片言じゃねぇか。」


ちっ、鋭い奴め。

もう少し鈍感でも構わないんだぞ。


「仮に、仮にだ。課題をやっている時間が休憩時間の方よりも短いとして、何の問題があると言うんだ?少しずつではあるけれど、課題は進んでいるんだぞ。」

「後で課題が終わらなくて泣きついて来ても絶対に助けないからな。」

「よし、頑張って課題を終わらせよう!」


何事も最後の防衛線って大事だと思うんだ。

セーフティーネット?ってやつがあるからこそ、我々は安心して生活できるんだよ。


「でもさ、国士無双って響き、カッコ良くないか?」

「それは分かります。」

「課題と向き合った瞬間脱線してんじゃねぇ。」


だって国士無双だぞ?


「そう言うタイトルの無双ゲーありそうじゃん。」

「無双って付けばなんでも無双ゲーに出来ると思ってるんだな。」

「むしろ無双ってタイトルが酷使されてますよね。」

「つまり酷使無双って事か。ブラック企業に勤める社畜たちの無双ゲー………、地獄絵図だな。」

「でも内容が少し気になるぞ。」


無双ゲージとか絶対溜まらないだろうし、体力ゲージが1発攻撃を受けたらゲームオーバーになる程度しかない状態からゲームがスタートしそう。


「たぶん固有のキャラクターはいないでしょうね。見た目は何通りかある種類からランダムで選択されて操作する感じです。」

「量産型で戦うんだな。」

「ステージを突破すると僅かばかりの報酬を得られますが、そこから税金や生活費で引かれて手元に残るのは雀の涙です。」

「深過ぎるだろ、現代社会の闇。」

「『真・酷使無双』は開発スタッフが過労で倒れて労働基準監督署の監査が入り、開発中止になりました。」

「作ってる側もブラックなんだな。」


現代社会は地獄だった?

竹塚の語る『真・酷使無双』が中々の地獄具合だぞ。

え?マジで社会ってそんな地獄なの?

それを聞くと大人になるのが嫌になるんだけど。


「まぁ全部が全部、そんな酷い会社ではないと思いますよ。」

「だろうな。もしそんな会社ばっかりだったら今頃日本は滅んでるだろうな。」

「びっくりしたぞ。でもそれを聞いたら少しは安心できたかも。」

「とは言っても、成績の低い人は選べる進路も減るので必然的にさっき言ったような会社に入らざるを得ない可能性も上がりますが。」

「お前ら、ぼさっとしてないで課題を進めるぞ!地獄に堕ちる前に!」

「ブラック企業の事を地獄って………いや、あながち間違ってないかもな。」


私は生き地獄になんて堕ちたくはない。

私はやれば出来る子だから。

高校入試の時もめっちゃ頑張って受かったから。

今は成績があまり良くなくても、挽回可能だから。

でも疲れたら休みたい。課題は面倒臭い。


「そう言えば結局なんでいきなり『ロン』なんて叫んだんだよ。」

「いや『ロンより証拠』のロンの漢字を書けって問題でふと思いついて。」

「想像以上に衝動的な行動でしたね。」

「と言うか、その問題、序盤も序盤の部分じゃねぇか。」

「確かに私の理性は課題を進めるべきだと言っていた。それでも私の心が叫べと言ってたから………。」

「自分の心に耳を傾ける前にしっかり理性の声を聞き届けるべきなんだよな。」

「むしろ安達の理性が若干ながらも仕事をしていた事が驚きですね。」


仕方がないんだ。

自分の心の声を押し殺して無視し続けると心が病むってどっかで聞いたから。

あと竹塚、私はいつだって理性的だろう。

今回は心の健康のために叫んだだけだから。

ブラック企業に入らなくても、心を病んでしまっては元も子もないから。

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