カラーボール

ある日の帰り道、私と丹野、竹塚はコンビニに寄り道していた。

買い物を終え、出入り口に向かうところで、ある物が視界に入る。


「………。」

「おい安達、買い物終わっただろ?行こうぜ。」

「ん、あぁ、今行くよ。」


ふと足を止めて、それを見ていた事で丹野に急かされ、コンビニを後にする。


「やっぱりおにぎりは鮭に限りますね。」

「オレはツナマヨがナンバーワンだと思うぜ。」

「………。」

「でも買ったのは焼きそばパンなんですね。」

「残念だけど売り切れだったぜ。」

「………。」

「あぁ、それなら仕方がないですね。」

「と言うか安達?さっきから黙ってるけど、どうしたんだよ?」


丹野と竹塚がおにぎりの具について話している中、私は沈黙していた。

その事に丹野が疑問をぶつけて来た。


「私は思うんだ。」

「総菜パンだったらカレーパンが一番とかですか?」

「違う。いや確かにカレーパンこそ総菜パンの代表格だとは思ってるけど、私が黙っていた理由じゃないから。」

「じゃあ何だよ?」

「さっきコンビニで見たものについて考え事をしててな。何を考えていたかと言うと………」

「安達が考え事!?ヤバい折り畳み傘持ってきてないぜ!」

「落ち着いてください、丹野。安達が考え事をしていたら雨や雪、嵐じゃ済まないですよ。たぶんこれから核戦争が始まるのでシェルターに避難しましょう。」


なんだそのリアクションは。

私だって考え事くらいするから。


「どんだけ驚いてるんだよ。私が考え事をするのがそんなにおかしいか?」

「おう。」

「それはもう。」


なんて連中だ。

こいつら本当に私の友達か?

とても友達に対する評価とは思えないレベルの扱いを受けているぞ。


「で、何を考えてたんだ?アメリカンドッグの事か?」

「違う。なんでそんな限定的何だよ。」

「じゃあピザまんの事ですか?」

「違う。ホットスナックに限定し過ぎだろ。」


私はそこまで真剣にコンビニのホットスナックについて考えを巡らせたことは無いぞ。

確かにアメリカンドッグもピザまんも美味しいとは思うけど。

今回は違うんだ。


「いや、ヨーロッパのどっかしらでトマト投げ祭りがあるって小学校だか中学校だかの社会の教科書に載っててさ。」

「想像以上にコンビニとまったく関係ない内容だったぜ。」

「たぶんスペインのトマト祭りの事ですね。でもコンビニのどこにもスペインフェアの情報はありませんでしたよ。」

「まぁまぁ、最後まで聞けって。」


確かにここだけ聞くとコンビニとは全く関係ないだろう。

そもそもコンビニでスペインフェアなんて限定的なフェア聞いたことないし。

まぁそれは置いておくとして、私は話を続ける。


「トマトを投げるって食べ物がもったいないじゃん。」

「まぁ日本人的に考えれば、もったいないと感じられますね。」

「ミートソーススパゲティが食いたい。」

「丹野はちょっと黙ってろ。で、レジの奥に置いてあったカラーボールを見て、それならカラーボールを投げれば良いんじゃないかなって思ったんだ。」

「知ってますか安達?カラーボールは犯罪者に向かって投げるものなんですよ。」


食べ物を無駄にしてはいけない。

あと丹野はミートソーススパゲティが食べたいならコンビニに戻って買って来い。

そして竹塚、カラーボールの使い道くらい知ってるから。

別にトマトを投げてるからと言って、投げた人を犯罪者扱いしたいって言いたかった訳じゃないから。


「一応トマト祭りで投げられるトマトは虫食いとかで出荷できない物を収穫祭として投げているらしいので、一概にもったいないと否定べきではないと思いますよ。」

「食べられないトマトを使っていたのか。まぁ、それなら、大丈夫、なのか?」


ただ廃棄するよりは有効活用した方が………有効活用、なんだろうか?

まぁ、うん。良しとしよう。


「一説には若者同士がケンカでトマトを投げ合ったのが起源とも言われていますけど。」

「ケンカでトマトを投げ合うのかよ………。殴り合いよりは平和、なのか?」


異国の文化として理解しようと努力していたが、遂に理解が追い付かなくなってきた。

スペイン、なんて謎の多い国なんだ。




「つまりケンカになったら何かしら投げれば良いって事だな?」

「丹野がトマト祭りを曲解してますね。」

「そんで何かしらはカラーボールを投げれば良いってことか。」

「お前絶対に私の話をよく聞いてなかっただろ。」


確かにちょっと黙ってろとは言ったけど、その間ずっとミートソーススパゲティの事を考えてたのかよ。

理解が断片的過ぎる。


「とりあえず安達にイラっと来たら今度からカラーボールを投げる事にするぜ。」

「だったら私も丹野が馬鹿な事を言い出したらカラーボールを投げてやるよ。」

「ちなみにカラーボールは物によっては汚れが落ちにくいらしいので教室でそれをやったら長時間お説教コースですね。」

「命拾いしたな、丹野。」

「それはこっちのセリフだぜ。」


仮に教室でやらなかったとしても他の人に当たったらヤバいし、自分の制服に当たったらクリーニングが大変だ。

うん、そう考えると食べられないトマトを投げるのは正解だったのかも知れない。

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