I can`t
放課後の職員室。
私は担任の保木先生に呼び出されていた。
「何か申し開きはありますか?」
「天才的な閃きだったけど、あまりに天才的過ぎて時代が追い付いていなかった。人類には早すぎたんです。」
「安達くん?」
笑顔で名前を呼ばれる。
いやー、先生は美人だなー。
「でも考えてもみて下さい。これはある種、正しい回答ではないでしょうか。決して一概に間違っていると切り捨ててしまうのは人類の進歩に対する損失であるとさえ思えるんですよ。」
「安達くん?」
笑顔で名前を呼ばれる。
そう言えば笑顔って本来は攻撃的な表情らしい。
「いや、あの、そのですね……。」
「安達くん?」
笑顔で名前を呼ばれる。
3度目ともなると威圧感が凄い。
笑顔ってこんなにも圧力を出せる表情だったのか。
いや目は一切笑っていないけど。
「すいませんでした………。」
「まったく、なんでこんな回答をしたんですか。
全ての欄に『I can`t speak English』なんて記入したんですか。英語の田幡先生が爆笑しながらテスト用紙を見せて来たと思ったらこれなんですから。」
英語の小テストで必勝作戦を思い付いたので、実践してみただけなのに。
「先生、私は思うんです。英語って実際に話すことが出来なくても日常で困る事は無いんじゃないかなって。仮に道端で外国人にいきなり話しかけられたとしてもスマホとかでも翻訳出来る訳ですし、問題ないんじゃないかと思うんですよ。」
「もしもスマホを持っていなかったり、充電が無かった場合はどうするんですか?仮にスマホを利用できるとして、相手の発音が理解出来なかったり、相手に操作してもらおうとして盗まれる可能性だってありますよ。これからのグローバル化した社会で英語は最低限、身に着けておいた方が良いですよ。」
その返し、最初の方は予想通りだ。
途中から予想以上にお説教が返って来たけど。
「確かに、先生の言う事も最もです。だからこそ、何を言われても問題ないように対策したのが今回の小テストの回答なんです。」
作戦を成功させる為に必死にスピークとイングリッシュのスペルを覚えたんだ。
とても頑張った。
「全力で『私は英語を話せません』と主張しないで下さい。ここまでくると『自分は馬鹿です』ってアピールしているようなものですよ。」
「そんな!?いくら何でもあんまりですよ!これでも真面目に頑張って英単語2つもスペルを暗記したんですから!」
「安達くんの日頃が日頃なだけに頑張りましたねって言いそうになりましたけど、流石にダメです。何よりも………」
「何よりも?」
先生、褒めて伸ばす教育方針ってあるじゃないですか。
ここは素直に褒めても良いと思うんですよ。
それなのに呆れ顔で間を開けて、一体何を言いたいんですか。
「名前の記入欄にまでそれを書かないで下さい。」
「あ、やべ、じゃなくて、それならどうして、そのテスト用紙が私のだって決めつけられたんですか。別の奴のテスト用紙って言う可能性だって十分にありますよね。」
「さっきまでお互いに安達くんのテスト用紙と言う認識で話を進めていたのに、名前が記名されていないと分かった瞬間に言い逃れしようとしないで下さい。会話の流れでこのテスト用紙は完全に安達くんのものである事は明らかですよ。あと他の生徒は皆、自分の名前はしっかり記名しているから消去法で分かります。」
くっ、こんな事になるんだったら丹野辺りにもこの作戦を教えいていれば良かった。
そうすれば私のものだと断定されないだろうし、仮に呼び出されたとしてもお説教が分散しただろうに。
やっぱり友達同士、助け合わないと。
「でも先生、名前の所は置いておくとして、実際に外国人に話しかけられても聞き取れないし、運良く聞き取れたとしても上手に返事が出来ないと思うんですよ。それで無視してしまう事になったり、答えられなかったりするよりも最初にこちら側から英語が話せない事を伝えるのも誠意だと思うんです。」
「本気で誠意ある対応をしたいなら今の内からしっかり勉強して下さい。」
それを言われると痛い。
でも英単語2つも覚えたんだし、私としては誠意溢れる努力だと思うんだけど。
「それに最悪、交番に行って警察官の人を頼るとか、周りの大人を頼れば良いと思います。」
「安達くんは相手に付いて来てほしいって英語で伝えられますか?それにいずれは安達くんが頼ると言っていた大人になるんですよ。」
逃げ道が次々と塞がれていく。
『コッチ、キテホシー』で理解してもらえないだろうか。
それか頑張ってジェスチャーで。
「はぁ………。それじゃあ大人になった時に困りますよ。周りからも頼りないって思われたり、カッコ悪いって思われちゃいますよ。」
「それは………。」
なんか嫌だ。
私のような高校生から頼られ、答えられなかったが為に『あ、こいつダメそうだな。たぶん馬鹿だ。』って心の中で思われたら、かなり辛い。
でも努力をするのも面倒臭い。
そうだ、良い事を考えた。
「先生、私頑張ります!」
「安達くん………!」
「明日から!」
「安達くん………。」
明日の私が頑張ってくれるはず。
きっと。
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