ワードウルフ
「ワードウルフをしましょう。」
「ワード?」
「ウルフ?」
竹塚がスマホを手に取り、謎のワードを発してきた。
ワード、つまり言葉。
ウルフ、つまり狼。
うん。さっぱり分からん。
「竹塚、そのワードなんとかってなんだよ?」
「狼の遠吠え的なので会話する遊びか?」
「ちょっとしたゲームですよ。簡単にルールを説明すると、それぞれのプレイヤーに2種類の似通ったお題が配られます。お題は多数派と少数派に別れていて自分以外のお題は分かりません。そして数分間、議論をして自分以外のプレイヤーのお題を探り、時間経過後に誰が少数派であるかを指差します。最も指名が多かったプレイヤーが多数派であれば少数派の勝利、少数派であれば多数派の勝利と言うルールです。」
自分のお題をバレないようにしつつ、他人のお題を考える、と。
ザックリ言うと頭を使う系のゲームか。
「なるほど。天才的な分析力と洞察力を誇る私に相応しいゲームって事か。」
「天才的?どうせガバって自分が多数派か少数派かバレるのがオチだぜ。」
「それは丹野だろ。開始早々自爆してお題を自白する姿が目に浮かぶぞ。」
「あぁ、そうそう。少数派が当てられても多数派のお題が何かを当てる事が出来れば少数派の逆転勝利になるので。」
確かに丹野みたいに自滅しそうな奴には救済措置ってものが必要か。
まぁ自滅した時点で他のメンバーは適当な情報を話すだろうけど。
「でもこの3人でやっても竹塚が圧勝するだけになる気がするぜ。それじゃ完敗する安達が可哀想だぜ。」
「確かにもう少し人数欲しいよな。これからボロ負けする丹野が哀れで仕方が無いぞ。」
「「は!?」」
「ははははは!2人とも『戦いとは同じレベルの者同士でしか起こらない』って言葉知ってますか?でもこの遊びに誘ったのは安達と丹野だけじゃないんですよ。」
竹塚が笑いながら現実を全く認識できていない事を言い出す。
私と丹野とではあまりにもレベルが違い過ぎるだろう。
まぁそれはまた今度説明してやるとして、私達以外に竹塚に誘われた奴がいたのか。
「え?そうなのか?」
「今日は親方も伊江も用事があるから残ってないぜ?」
「それではお呼びしましょう。入って来て下さい。」
「やぁ。楽しそうな事をすると聞いて駆け付けたよ。」
お前かよ、長谷道。
予想だにしなかった人物の登場に少し驚いたが、こいつならどこに現れてもおかしくは無いとも思う。
それくらい意味不明な登場の仕方をする変人だし。
「誰?」
「図書委員長の長谷道。変人って覚えておけば良いぞ。」
「おいおい、親友の事を変人扱いは酷いじゃないか。それに『類は友を呼ぶ』って言うだろう?つまり親友の君も変人と言う事だよ。」
「な?勝手に親友を自称して来るんだよ。」
「『な?』って言われてもお前と長谷道?の仲なんて知らないから評価のしようがないぜ。でも安達と似たような雰囲気は感じるぜ。」
丹野は長谷道の事を知らなかったようだが、私と同じ雰囲気とか眼科に行くことをオススメするぞ。
そんな話をしていると竹塚は慣れた手つきでスマホを操作し、『ワードウルフ』と言うゲームのアプリを起動する。
「皆の名前を入力しておいたので、自分の名前が表示されている状態で『表示』をタッチして下さい。お題を確認して『閉じる』をタッチすると次の人の名前が表示されるので、その人にスマホを渡してください。」
「分かったぜ。」
竹塚、丹野、私、長谷道の順でスマホに表示されたお題を確認していく。
私のお題は『カッター』か。
「取り敢えず議論時間は5分でやりましょうか。」
「それじゃ、議論スタートだね。」
「………議論って何を話せばいいんだ?」
「発案者の僕から進めさせてもらいましょう。僕のお題は何かを切る時に使う物でしたね。」
「そんな感じか。私もだぞ。」
「オレもだぜ。」
「そうだね、私は結構使うよ。」
全員物を切る道具と答えた。
この時点で違いはないが、もしかしたら他の3人に同調して自分のお題を隠そうとしているかも知れない。
「オレはあんまり使わないぜ。」
「でも、どこの家庭にも必ずあるだろうね。」
確かに使用頻度は人それぞれか。でもどこの家にもある、と
丹野と長谷道の話を聞いてもさっぱり分からない。。
「これは偏見ですが、『ヤンデレ』って言われる属性と親和性が高い気がしますね。」
「そうだね。分からない事も無いかな。まぁそもそも刃物系とヤンデレの親和性は高めだと思うけど。」
竹塚は『ヤンデレ』と言い、長谷道も同調するが、そこは分からない。
まぁ私がそこまで『ヤンデレ』って属性に詳しくは無いから仕方が無いけど。
「私はこれで手を切った事があるぞ。」
「オレは無いぜ。」
ダメだ。まったく分からない。少し攻めてみるか。
「使い過ぎると刃がダメになっちゃうから、たまに新しい刃にしないといけないよな。」
「……そうですね。たまに変えないと切れ味が悪くなっちゃいますからね。」
「なんか刃を折って入れとく道具みたいなのがあるって聞いたことあるぜ。」
その後も議論は続くが、誰が少数派か分からないまま時間ばかりが過ぎていき、議論は終了した。
「それでは時間ですね。誰が少数派だと思うか、『せーの』で同時に指差しましょう。」
分からない。まったく分からない。こうなったら直感に従おう。
「せーの!」
私と丹野は長谷道を指差し、長谷道は竹塚を指差し、竹塚は私を指差す。
「ふむふむ。では長谷道が最も少数派であろうと思われていると言う状態ですね。長谷道、君のお題は何ですか?」
「『カッター』だよ。」
「マジか。私もだぞ。」
「オレもだ。」
って事は………
「はい。僕のお題は『包丁』です。」
「うわぁ、全然分からなかったぞ。」
「割と最初の方に他3人のお題が分かったので、それからはひたすら話を合わせてましたからね。」
「そりゃ分かる訳がないぜ。」
「ちなみにどこで私たちのお題に気が付いたんだい?」
長谷道が竹塚に問いかけるが、確かにそれは私も気になるぞ。
「色々ありますが、決め手は安達の『新しい刃』の部分ですね。包丁だったら新しい物を買うと思うのですが、そこで刃の部分だけ替える事を示唆する事を言っていたので。」
「おい安達、足引っ張るなよ。」
「やれやれだね。」
「あと丹野の『刃を折って入れておく』の部分で安達と同じお題だって分かりましたね。それと長谷道は料理をしないので『結構使う』の部分で僕と同じお題じゃないだろうなって分かりました。」
「おい丹野、長谷道。何か言う事はあるか?」
「よしっ!気を取り直して次行くか!」
「今度こそ負けないよ?」
こいつら、都合が良過ぎだろ。
だけど負けっぱなしで終わるつもりが無いのは同じだ。
そして遊んでいるとあっという間に時間は進み、日が落ちていくのであった。
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