ゾンビ

「もしもゾンビが現れたら。」

「興味本位で近づいて真っ先に噛まれそうな奴がなんか言ってるな。」


なんで私がそんなポジション扱いなんだよ。

いくら私でも危なそうで怪しそうな奴に自分から近づいたりはしない、はず。


「安達。ゾンビが見たいんですか?」

「いや、別にそう言う訳じゃないけど。」

「ゾンビなんてそこら中にいるじゃないですか。」

「え?マジで?」

「この前読んだ本に書いてありましたよ。『社会の奴隷となった人々は、最早ゾンビと言っても良いのではないだろうか』的な事が。」

「竹塚!?だいぶ過激な事を言ってる自覚あるか?」

「でもほら、疲れ果てて生気を失った顔してるサラリーマンとかゾンビみた「ストーップ!」えー。」


『えー』じゃないんだよ。『えー』じゃ。

私も日頃から職員室に呼び出される、まぁちょっっっとだけ問題が無い事も無い生徒だけど、最も注目するべき問題児はコイツだろ。


「伊江、竹塚がおかしくなった。」

「前からだと思うけどな。」

「それはそうだけど。」


だけど、伊江、お前はツッコミ担当だろう。

暴走する竹塚はお前が止めてくれ。傍観するな。


「まぁ仮にゾンビとかが生物兵器として作られてたとしても、青井ならどうにかできそうなイメージがある。」

「むしろ青井なら生物兵器とか作っててもおかしくはなさそうだな。」

「実験として街に放ちそうですよね。」

「いくらあいつでも流石に…………無いと思う。」

「言い切れないんですね。」


だって結構な頻度で被検体にされてるんだもの。

自分の研究欲の為に何をするか分からない。

でも豚をモルモットとしてじゃなくてペットとして飼ってるあたり、そこまで酷い事はしないと思うけど。


「親方だったら主人公を執拗に追い回す生物兵器のポジションが似合いますよね。」

「完全に見た目で決めてるな。」

「でも分かる。」


親方、見た目が厳ついから仕方がない。

コスプレとか似合いそうだし。


「伊江だったら描写される事すらなくゾンビにやられてそうだな。」

「普段は普通扱いされてもどうとも思わないけど、その評価は素直に喜べねぇな。」

「暗に普通って言ってるのは伝わったんですね。」


普通が必ずしも良いって訳ではないんだな。

まぁ普通に騒動に巻き込まれずに生き残ってるパターンもありそうだけど。


「竹塚は………何だろう。事件を起こす側とか?」

「失礼な。確かにそれも楽しそうですけど、そんな事はしないですよ。」

「楽しそうって思ってる時点で疑わしいんだよな。」

「それか映画とかで仲間を見捨てて逃げようとするけど、身体能力が低過ぎて結局殺されるポジションですね。」

「竹塚運動関連ダメダメだからな。」


失礼って言ってるけど、思想を聞く限り割と怪しいぞ。

でも逃げ切れなさそうって部分は分かる。

100m走で20秒以上のタイムを叩きだした事は忘れられない。


「と言うか私は『さっき真っ先に殺されそう』とか言ってたけど、むしろ生き残るだろ。」

「根拠が乏しいですね。」

「たぶん安達を知ってる奴に聞いてみたら10人中9人はそう答えるだろうな。」

「皆、私の事を理解していないんだよ。ちなみに10人中1位の奴だったらなんて答えるんだ?最後まで生き残りそうとか?」

「青井だったら最初にモルモットにするだろうからゾンビにはやられないだろうな。」

「どっちにしろ死ぬんじゃん!てか青井に事を何だと思ってるんだよ。確かに変な実験の産物をよく渡して来るけど、流石に偏見が過ぎるんじゃないか?」

「あいつは1年の頃から有名だろ。ヤバい奴って。」

「あまり否定は出来ない。」


なんで私が死ぬこと前提なんだよ。

青井に対する偏見はまだ理解出来るとしても、私に対する偏見は断固として抗議するぞ。


「とにかく、私はこう、アレだ。主人公補正的なもので最後まで生き残るから。」

「主人公っぽさの欠片も無いけどな。」

「むしろ仲間を見捨てて自分だけ生き残ろうとしそうですよね。もしくは『ここは任せて先に行け』って言いそうです。」

「それ間違いなく死ぬキャラの特徴じゃん。死亡フラグじゃん。」

「安達、知らないんですか?死亡フラグは積み重ねるとオーバーフローして逆に生存フラグになったりするんですよ。」

「マジか。じゃあやっぱり私って主人公?」

「それは無いな。」


何故落としたと思わせて持ち上げて更に落とす。

ジェットコースターかよ。

普通に私が生き残ったって良いだろう。


「入屋だったら、うん。最後まで生き残りそうなイメージがあるな。」

「1人だけ無双ゲーみたいにゾンビを千切っては投げ、千切っては投げしてそうですよね。」

「それを言ったら親方だってそうだろ。」

「でも親方、ホラー苦手じゃん。」

「そう言えばそうだった。でも苦手だからこそ攻撃してきたゾンビに容赦なく全力で反撃しそう。」


腕っぷしが強い系の奴らは映画とかじゃ死亡率高めなイメージがあるが、この2人がやられるところが全く想像できない。

正しく存在する世界が違うって事か。

そんな話をしている私たちに話しかけてくる男がいた。




「お前ら、さっきから何話してるんだ?」

「丹野か。ゾンビが現れたらどうなるんだろうって話だ。」

「丹野だったらゾンビをダンクシュートして全滅させられますよね。」

「話の振りが適当過ぎだろ。」

「馬鹿、何言ってんだ。無理に決まってるぜ。」

「え!?丹野が現実的な返しをしてきた!?コイツ既にゾンビなんじゃ!?」

「なんでゾンビ化してる時の方が頭が回るって思われてるんだよ。普通逆だろ。それにな、ゾンビをダンクしようにも、ゴールの数が足りねぇに決まってるぜ。」

「どうやら丹野はいつも通りだったようだな。」


ウチのクラスの馬鹿担当は相変わらずだった。

逆に生き残りそうだな。

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