電子レンジ

ブーン


「電子レンジってさ。幸せを感じさせてくれるよな。」

「竹塚、そこの醤油取ってくれ。」

「はい、どうぞ。」


私の話題提供が聞こえなかったのか?

伊江はスルーして竹塚に醬油を取って欲しいと言う。


「電子レンジって凄いよな。」

「最初からそう言えよ。あと竹塚、これは醤油じゃなくてソースだ。気付かないとでも思ったのか?」

「バレないなって思って。」

「バレるに決まってるからな。ラベルにバッチリ『ソース』って書いてあるからな。」

「いや聞こえてたなら話を拾えよ。」


なんで聞こえてるのにナチュラルに醤油の話を続けるんだよ。

いや醬油取ってって言ったのにソースを渡された事も重要かもしれないけど。


「相変わらず突拍子もないな。まぁ日頃の意味の分からない発言よりは理解できるし、同意も出来るけど。」

「電子レンジを眺めながら言ってたので、いつものような思い付きだと思いますよ。」

「今重要なのは思い付きかどうかじゃなくて電子レンジの凄さだから。」

「思い付きって部分は否定しないんだな。」


実際思い付きだし。

まぁ認めるのも癪なんで肯定もしないけど。


「そこは思い付きじゃなくて閃きって言って欲しいぞ。」

「はいはい。閃き閃き。」

「雑!」


私が良い感じの言い回しで表現しようとしたが、伊江はこれでもかと言うくらい棒読みで連呼する。

もう少しまともに相手をしてくれても良いと思うんだけど。


「でも電子レンジってどうやって中の物を温めてるんだろうか。」

「それはですね………。」

「今日の竹塚の作り話タイムか。」

「いっその事、青井に聞けばすぐ分かるんじゃないかと思うんだけど。」

「ふっふっふ、良いんですか?青井に聞いてしまって。」


竹塚が解説をしてくれるかと思ったら伊江が作り話だろうと予想する。

まぁ竹塚と言えば作り話みたいなところもあるし。

ただ今回の件に関しては科学部の青井に聞いた方が普通に答えてくれるのではないかと思い、それを言うと竹塚は不敵に笑う。

チン!電子レンジの温めが終わった音が聞こえるが、先に話を聞こう。


「なんだよ、その笑いは。青井なら間違いなく知ってると思うんだけど。」

「確かに知っているでしょうね。嬉々として説明してくれるでしょう。でも考えても見て下さい。」

「何を?」

「安達に理解出来ないレベルで事細かに説明してきますよ。」

「確かに。」

「伊江、なんで納得するんだよ。私だってもしかしたら青井の説明が理解出来るかもしれないだろ。」

「そうだな。0.1%くらいの確率でな。」

「ソシャゲのガチャのSSRの確率並みに低いんだけど。」

「0%って言い切らない辺り優しさが垣間見えますね。」


絶望的に低い評価をされた側からしたら優しさの『や』の字すら感じ取れないんだけど。


「それなら僕の作り方を聞いた方が楽しめると思いますよ。」

「聞くだけ聞いてみよう。」

「電子レンジが中の物を温める仕組み、それは…………。」

「それは?」


まぁでも確かに青井の説明を聞いても眠くなるだけかも知れないし、竹塚の話を聞いてみるのも良いだろう。


「中に妖精さんがいるんですよ。」

「仮にいたとしてそれで温まる理屈が分からない。と言うか中にいる妖精さんとやらの身の安全が不安になるんだけど。」

「確か電子レンジで生卵を温めると爆発するよな。妖精が実在すると仮定して電子レンジの中で温めてたら爆発してそうだよな。」

「うわぁ………。」


伊江、発想がグロい。

生卵と妖精さんを同列に並べるなよ。


「そこは妖精さんの不思議な力で無事ですから。」

「妖精すげぇな。」

「流石妖精さん。『さん』付けで呼ばれるだけある。」


やっぱりファンタジーだし、そこまで現実的じゃないって事だ。

もっと設定を掘り下げて聞いてみるか。


「じゃあ電子レンジの中の物を温める方法も?」

「妖精さんの魔法です。」

「妖精さんが普段見えないのは?」

「見られたら目撃者を殺して自分も死ななくてはならないと言うルールがあるからです。」

「なんだその闇の組織みたいな掟は。」


妖精さんってもっとファンシーと言うか、可愛らしい存在をイメージしてたんだけど。

劇画調のハードなイメージに書き換えようとしないで欲しい。

さっきまで不思議な力とかで通してたんだから、そのまま押し通せばいいだろう。


「じゃあ普段は透明で温める時に自らの命を燃やして温めているからです。」

「じゃあってなんだよ、じゃあって。設定フワフワだな。」

「どっちにしろ設定が重いぞ。」


なんで頑なに妖精さんを犠牲にしようとするんだよ。

なんか妖精さんに恨みでもあるのか。


「このまえやってたソシャゲの妖精さんの設定と言うか、存在性が酷かったので、これくらいの扱いで良いかなって。」

「こんな扱いになる妖精の設定ってどんだけヤバかったんだよ。」


それなら『さん』付けしなくて良いのでは?




「と言うか安達、もう温め終わってるんじゃないですか?」

「あ、しまった。」


温め終わっている事に気が付かず、レンジの中で放置してしまった。

でも少し冷めてて熱すぎずに食べやすかった

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