生徒会長と本音と仲間たち

ある日の放課後。


「感動的なシーンに興味は無いかな?」

「は?」


なにを言ってるんだ、こいつは?


「『何を言っているんだ?』みたいな目で見ないで欲しいな。」

「だって長谷道、感動的なシーンとか口が裂けても言わなそうじゃん。」

「私の事を何だと思っているんだい。」

「竹塚曰く、今世紀最大の愉快犯。」


聞いた瞬間に納得したよ。

しかしそれを聞いた長谷道はムッとした表情で反論する。


「なんてことを言うんだい!」

「私に言うなよ。」

「今世紀最大程度で私が収まるとでも?人類史上最大くらいは言って欲しかったね。」

「そっちかよ。」


自分がどれほど迷惑な存在かは理解していたんだな。

と言うか理解しているなら自重しろよ。


「楽しい事は大好きだし、それが行動原理になっているのも否定できないからね。」

「つまり今回の感動的なシーンとやらも?」

「面白そうだからさ!」


また誰かに迷惑掛けるって宣言しているようなものだろ、それは。


「今回のターゲットは毎度おなじみ、鐘ヶ崎さんだよ!」

「会長か。なるほど。」


毎度おなじみと表現できるほどに迷惑掛けてるって事だよな。


「止めてやれ。」

「だけど今回は彼女の為でもあるんだよ。」

「…………。」

「その目は絶対嘘だって思ってる目だね。」

「絶対嘘だ。」


長谷道が誰かの為に行動するとか、例え天変地異が起こったとしてもあり得ないだろう。


「ほら、彼女って普段は見栄とか意地を張って本音を喋れないじゃないか。」

「あぁ、私はたまに愚痴とか弱音を吐かれてるけどな。」


偶然弱音を聞いてしまい、結果的に聞き役になってしまっただけだけど。


「でも鐘ヶ崎さんが本音で話せる相手はとても少ない。あくまでも周囲には頼れる模範的な生徒会長として振舞っているからね。もちろん、頼るべき生徒会のメンバーにも。」

「それは、まぁ確かに………。」


いや、でも………


『伏実書記、鳥場会計。私は確か備品の買い出しを頼んだはずだが………』

『この通り、買って来た。』

『その、多くないか?』

『足りないと困ると思ったからね。これなら大丈夫だね。ね、伏実さん。』

『あぁ(コクリ)。』

『多過ぎて置き場所が…………。いや、うん。ありがとう…………。』

『会長のお役に立てて嬉しいね。』

『何より。』

『ははは…………。』


みたいな出来事とか、


『む、厳嶋庶務。勉強か?熱心で何よりだ!』

『ありがとうございます。』

『もし分からない所があれば、聞いてくれ。』

『あ、じゃあこの問題なんですけど…………。』

『どれどれ?……………な、中々高度な問題みたいだな………。』

『そうなんですよ。だから問題を解き進めるのに時間が掛かっちゃって。』

『じ、時間が掛かるには掛かるが、それでも進められるのだな………。』

『でも会長なら楽勝ですよね!』

『も、もちろんだ!しかし、解き進める事が出来ているのならば、きっと自力で解決出来るだろう。私は少し用事があったのを思い出したから失礼するぞ。』


みたいな出来事があったって聞いたことがあるけど、果たして本当に頼れる模範的な生徒会長と思われているのだろうか。


「と言う訳で、鐘ヶ崎さんにはもっと情けない所を晒させ………じゃなくて本音で話せる相手を増やすべきだと思うんだ。」

「本音が漏れてるぞ。」

「さて、早速準備を…………と言いたいところだけど、筋書きは特に必要無いね。安達くんはいつも通り鐘ヶ崎さんの弱音を聞いてあげればいいよ。私はその間に他のメンバーを呼んできて物陰に隠れる。そして後は鐘ヶ崎さんの本当の姿を見せてあげるのさ。」

「止めといた方が良いんじゃないのか?」

「でも鐘ヶ崎さんもあのままだとストレスとかで大変そうだし、この辺りで身近な人間には理解してもらった方が良いんじゃないかな?偶像であることを否定するつもりは無いけれど、限度があるからね。」

「ストレスの原因の大部分が何言ってんだ?あとお前の辞書にも限度って言葉が載ってたんだな。」

「いやぁ、辛辣だね。」


長谷道を放置しておくと碌でも無い事が起きそうだし、鐘ヶ崎の為にも手を貸さざるを得ない。




翌日の放課後。

鐘ヶ崎が屋上に訪れ、いつものように愚痴や弱音を聞く。


「あぁ、安達2年生。聞いてくれ。また鳥場会計と伏実書記を止められなかった。いつも備品を買い過ぎる度に咎めようと思うのだが、何も言えないんだ。嫌われるのを恐れてなぁなぁで済ませてしまうような者が生徒会長を務めていて良いのだろうか………。」

「2人を思いやるあまり言えないって事じゃ無いですか?優しさも生徒会長に必要な素養だと思いますよ。」

「それに厳嶋庶務は素直なんだが、流されやすいと言うか、鳥場会計や伏実書記が私を褒め称えるとそれに追従するんだ。私なんかよりも彼女の方がよっぽど賢く、優れた人間なのにな………。彼らに褒め称えられる度に、僅かに喜んで、自分の愚かしさを見つめ直して、素直に受け取れない自分が嫌になる………。」

「生徒会長だからと言って、必ずしも賢くなければいけないって訳じゃないと思いますよ。それにそれだけ仲間たちから慕われてるって事じゃ無いですか。」

「そうだと良いんだがな………。」



鐘ヶ崎の愚痴を聞いていると、バンッ!と音を立てて扉が開く。

そして生徒会のメンバーたちが屋上に躍り出て、


「「「会長!」」」

「お、お前たち!?一体いつから!?」

「話は聞かせてもらった。」

「いつも迷惑かけてたんだね………。」

「悩みに気付かないで、苦しませてしまってごめんなさい………。」

「お前たち………。迷惑だなんて思っていないさ。私が本音で話せていなかったんだ。しかしこれからはもう少し、本音で話す努力をしよう。だから、こんな情けない私でも支えてくれないか?」

「「「もちろん(だ・です)!」」」




「いやぁ、実に感動的だね。」

「そうだな。長谷道にして珍しく、本っっっ当に珍しく会長の為になる事をするんだな。」


現場から離れ、うんうんと頷きながら鐘ヶ崎たちを眺める長谷道。

この瞬間だけを見れば長谷道がまともな奴に見えるが、普段迷惑を掛けまくっているんだよな………。


「彼女が沈んでいると私も楽しくないからね。偶にはこういう事もするさ。」

「長谷道………!」


でもそんな男でも誰かの為に行動できるんだって思うと、なんだか温かい気持ちになれる。


「ちなみにこういう青春的なワンシーンをカメラに納めていたと仮定して、何らかのサテレビ番組に送ったら賞金とかもらえたり、企画の一部として採用されたりしないかな?」

「長谷道………。」


でもそんな男だから、自分の為に行動していると思うと、納得と共に心が冷えていくのを感じる。

私の感動を返せ。

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