波乗りジョニー
「波乗りジョニー。」
「どうした安達?この季節に海に行きたいのか?」
「そんな訳ないだろ。と言うか寒くなって来てから海に行きたい奴なんて…………」
いないと言いきりそうになった瞬間、私の脳裏には寒中水泳をしていた筋肉、もとい姉河がサムズアップしている姿が脳裏に浮かんだ。
「………まぁ、あんまりいないだろ。」
いるにはいるだろうけど、少数派だと思う。
そうじゃなくて、私が言いたかったのは………
「豆腐の名前だよ、豆腐の。」
「安達、オレの事を馬鹿にし過ぎだぜ。そんな豆腐ある訳ないぜ。」
「いやマジであるんだって。」
「オレを騙したいなら、もう少しマシな名前を考えて来た方が良いぜ。」
丹野は私の話を鼻で笑い飛ばし、まともに聞こうとしない。
私の事を小馬鹿にするようなムカつく表情しやがって。
どうにかして丹野に私の話を信じさせなくては。
しかしどうしたものか………
「知ってるぜぇ、その豆腐。」
「この声は!」
会話をしていると、聞き覚えのある声の持ち主が現れる。
私達の話に混ざって来たのは、
「ボブ!」
「誰がボブだっつぅの。」
いや、体格が良くてボブっぽさがあるなって。
「親方は知ってるのか?」
「あぁ、見た事もある。食った事はねぇけどなぁ。」
流石はボブ、改め親方。
この間初めて見た時は『誰も知らないんじゃないか』ってくらい独特なネーミングセンスの豆腐だったが、親方は知っていたようだ。
しかし丹野は不満げに私の話に異を唱える。
「待てよ、親方はボブじゃねぇぜ。」
「じゃあ誰だよ。」
「俺は俺だろぉ………。」
どうやら親方のボブ呼びに違和感を覚えたようだ。
結構しっくりくると思うんだけどな。
あと親方が親方なのは分かってるんだけど、それはそれとしてジョニーの話をしてる最中だったからボブ感を感じてしまったのだ。
「親方の名前は梅嶋牛雄。牛を英語でなんて言うか知ってるか?」
「………知らないけど。」
まさか丹野、お前牛を英語でなんて言うのか知っているのか!?
あの丹野が!?
私ですら知らない事を!?
知っているだと!?
「くっくっく…………オレも知らないぜ!とりあえず親方はゴンザレスだぜ!」
「適当だなぁ、俺はゴンザレスでもねぇよぉ。」
「と言うかお前も知らないのかよ!」
ビックリさせやがって。
それならさっきの質問は何だったんだ。
まぁ丹野が英語を知っていたら、もっと驚いていただろうけど。
「まぁゴンザレスって雰囲気も無くは無いけど。」
「無くはねぇのかよぉ。俺はバリバリ日本人だぜぇ。」
「体格だけなら外国人って言っても通じそうだぜ。金髪のカツラとか被ってみねぇか?」
「被ってみねぇよぉ。」
確かに顔つきはゴリゴリの日本人って感じがするし、金髪にしても似合わないと思うけど、後ろ姿とか見てみたら外国人と見間違えそうではあるんだよな。
「つぅか豆腐の話はどこ行った?」
「………アメリカ?」
「行く訳ねぇだろぉ。」
いや、でも、ジョニーだし………。
名前的にもアメリカンだから………。
「しかしそんな豆腐、本当にあるんだな。オレはてっきり安達がオレを騙そうとしてるのかと思ったぜ。」
「仮にそんな嘘で騙してたとして、別にそこまで面白くは無いだろ。それにそういう嘘は竹塚とかが付きそうじゃん。」
「確かに。」
誰もが納得するミスター作り話、竹塚。
いつか私も竹塚を騙せるくらいの作り話をしてみたいと思ってはいるが、だからと言って今丹野を騙す理由にはならない。
「まぁ私も買わなかったんだけどさ。」
「買わなかったのかよ。」
「だからどんな味なのかって思って。」
買わなかったからこそ、その味が気になるのだ。
豆腐は美味しいとは思うけど、別にわざわざ買うほど好きって訳でも無いから買っていない。
「豆腐なんだから普通に考えたらあっさりしたシンプルな味なんじゃねぇかなぁ。」
「濃厚でジューシーな豆腐なんて聞いたこと無いし、当たり前っちゃ当たり前か。」
「豆腐なんてどれも大して変わらないだろうし、利き豆腐的な事とかしてみても、分からないと思うぜ。」
まぁ実際の所はそんなもんなのかな。
買う予定も無ければ食べる訳でも無いから、あんまり期待する必要も無いわけだし。
しかし前々から思っていたが、
「豆腐って豆が腐ってるって書くから、字面的にはあんまり魅力を感じないはずなのに普通に納得して食べてるから不思議だよな。」
「確かに海外で腐ってるなんて文字?表現?をしたら売れ無さそうだぜ。」
「いや、海外でも豆腐とかの日本食はヘルシーで健康に良いって評判らしいんだよなぁ。」
「へぇ、例えばどこでだ?」
「アメリカとか?」
「ボブ………。」
「ゴンザレス………。」
「ボブでも無けりゃあゴンザレスでもねぇよぉ。ジョニーの話をしてたんだろぉが。」
やっぱり親方はボブでゴンザレスなんだなって。
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