人工ダイアモンド
ある日の休み時間。
「聞いたか、丹野?」
「聞いたぜ、安達。」
「まさかあんな物が存在したなんてな。」
「初めて知ったぜ。」
「あぁ、私もだ。まさか………」
授業中にあんな話が聞けるなんて………。
驚き以外の何物でもない。
「人工ダイアモンドなんて物が存在するなんて………。」
ダイアモンドって、人間の手で生み出すことが出来るなんて………。
ずっと自然から採掘しているのかと思っていた。
「天然物しかないと思ってたぜ。」
「めっちゃ高級な宝石ってイメージしかなかったぞ。」
丹野も私と同じことを考えていたようだ。
そんな高級な宝石を生み出すことが出来るなんて、人類って凄いんだな。
「安達!丹野!何の話をしているんですか!」
「え、人工ダイ「しっ!静かに!」えぇ………」
そんな話をしていると、竹塚が話に割って入ってくる。
何の話をしているのかと聞かれたから答えようとしたら、それを遮られる。
聞いたのはお前だろう。
「こんなところでその話をするなんて、死にたいんですか!」
「死って、何言ってるんだよ。」
「そうだぜ。意味が分からないぜ。」
私の不快感を余所に、竹塚は焦った表情ではなしを続ける。
それにしたって、いきなり死って言われても何が何だか分からないぞ。
私と丹野は頭の上に疑問符を浮かべ、首を傾げる。
「良いですか、この話は国家機密なんですよ。」
「え、マジで!?」
「国家公務員にのみ情報の所持が許され、もしもそれが漏洩すれば良くて終身刑、悪ければ問答無用で死刑です。」
「そりゃヤバいぜ!?」
国家機密!?
終身刑!?
死刑!?
竹塚の口からヤバそうな単語が次々と飛び出てきて、私と丹野は慌てふためく。
「でもなんでそんな罪に扱われてるんだよ。」
「安達、よく考えてみて下さい。さっき高級な宝石のイメージと言っていましたよね?」
「あぁ、言ったけど…………。」
そんなに重罪なのかと問うが、別に高級な宝石を作るだけで犯罪なんて…………
「………はっ!まさか!?」
「安達、分かったのか!?」
「偽物のダイアモンドを作ることが出来れば、それで大儲け出来るぞ!」
「安達、お前…………」
私は気付いてしまった。
これは確かに重罪に扱われても仕方がない。
丹野も私の気付きに驚愕の表所を浮かべている。
「天才か!?」
「だろ?」
「不正解です。」
「安達は馬鹿だなぁ、ダイアモンドの偽物で大儲けとか、そんな訳ないぜ。」
「アイデアが思い浮かぶことすらなかった丹野にだけは言われたくは無いぞ。」
丹野が私を褒め称え、竹塚が不正解を告げ、丹野は手のひらを返して私を馬鹿にする。
私を馬鹿にしたいなら正解を答えてからにしろ。
丹野には無理だろうけど。
それにしても偽物で大儲けじゃないなら、一体何だと言うのだ。
「例えばそうですね………。安達や丹野はトレーディングカードゲームをやった事はありますか?」
「あぁ、昔やってたぞ。」
「懐かしいぜ。」
「カードには珍しい物、いわゆるレアカードと呼ばれるものが存在しますよね。」
「あったあった。」
「持ってる奴は注目の的だったぜ。」
「そうですね。レアカードの供給枚数、要するにレアカードを手に入れられる人の数が少ないですからね。」
竹塚はトレーディングカードゲームを例えに出す。
確かに小学生の頃に遊んだことがあるし、分かり易い。
「では、レアカードを誰でも持っていたら?」
「それはもうレアカードでも何でも無いんじゃないか?」
「そうだぜ。レアじゃないぜ。ノーマルだぜ。」
「そう、つまりはそういう事なんです。希少価値と言うのは、その物の数が少ないからこそ、価値が付くのです。大量に供給された、誰でも持っている物には希少価値は付与されないのです。」
なるほど、そういう事か。
流石は竹塚、的確な説明だ。
誰でも手に入るのに、高い物ってあんまり無いと思うし。
「もしもダイアモンドがそこら中にありふれていたら、その時点で宝石としての価値は大暴落。過剰に供給して市場の価格操作をされた日には経済が大混乱するでしょう。なにせ大金持ちしか持っていない、世界でも極少数の宝石が、誰でも持っている、ただの綺麗な小さい石ころになるのですから。」
「そいつはヤバいぜ………。」
「で、でも、別にそんな事をしようなんて考えてもいないぞ!?」
「考えている、考えていないの問題では無いのです。その手段があると言う事を知っている事が問題なのです。」
道理で今日の今日まで人工ダイアモンドの存在を知らなかった訳だ。
知るだけで罪になるのであれば、知る機会が無くても仕方がない。
「さて、冥途の土産としては十分でしょう。」
「え?」
「おい、竹塚。一体何を言っているんだ?」
竹塚の表情に陰が差す。
メガネだけが怪しく光り、何を考えているのか分からない。
「不思議に思いませんでしたか?どうして僕がその事を知っているのか。何故それを教えてくれるのか。」
「お前、まさか…………。」
「じょ、冗談だろ?」
「そうです。僕は国家機密を知ってしまった罪人を裁く役割を担っているんですよ。君たちとはずっと友人でいたかったのですが、仕方がありませんね。」
竹塚はブレザーの内側に手を入れる。
これがドラマなら、そこからピストルが出て来るだろう。
そしてゆっくりと手を引き抜き………
「まぁ嘘なんですけどね。」
「嘘なのかよ!」
「ビックリさせやがって………。」
パッと笑顔に戻る竹塚。
迫真の演技で冷や汗をかいたぞ。
丹野もホッとしたように肩を撫で下ろす。
「と言うか本当だったら、それを先生が話す訳が無いじゃないですか。」
「言われてみれば、それもそうだな。」
「ちなみに人工ダイアモンドに宝石としての価値は天然物には及びません。また、その硬度を活かして工業に用いられたりもしていますね。」
道理で先生が授業中に話している訳だ。
でも人工とは言え、ダイアモンドを工業に使うってなんだか贅沢な感じがするが、同時に工業に使えるだけのダイアモンドを作り出す人類は凄いとも感じられるな。
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