トリックオアトリート

「トリートアンドトリート。」

「沙耶?」

「デッドオアアライブ。」

「沙耶!?」


なんでイタズラかお菓子じゃなくて両方ともお菓子の選択を迫られるんだよ。

選択肢になって無いだろう。

なんで秋のイベントで生死を賭けた選択を迫られるんだよ。

選択肢になって無いだろう。


「ちなみにトリックを選択すると?」

「お菓子をくれなきゃ後悔する事になるわよ。」

「それじゃ最早ただの脅迫だろ。」


握り拳を作り、シュッ!シュッ!とシャドーボクシングをする沙耶。

ハロウィンって脅迫するような要素があるイベントじゃなかったと思うんだけど。


「通常版だってイタズラかお菓子の2択を突きつけて脅迫してるようなものじゃない。」

「…………確かに。」

「でしょ?」


実質脅迫だし、それが許されるってハロウィン怖いな。

毎年そんな命に関わるような危険が身近にあっただなんて………。

………命に関わる?


「いや待て!だとしても命に関わるレベルのイタズラじゃないだろ!」

「後悔する事になるとは言ったけど、別に命まで取る訳じゃないわよ。」

「デッドオアアライブって言ったのに?」

「足して2で割ったらいい感じになるんじゃないかしら。」

「半殺しって事じゃん!」


どっちにしろ物騒だな!

と言うか生か死かを足して2で割るってなんだよ。

どっちか選ぶんじゃないのかよ。

と言うか、


「トリックオアトリートって要求するならせめて仮装をしろよ。」

「仕方がないわね。」

「めっちゃ渋々って感じじゃん。」


ここは学校。

なので場所が場所なだけにバッチリとコスプレをするのは厳しいだろうけど、それでも制服を着ているだけでハロウィンと言い張るのは無理があるだろう。

卒業した後なら高校生のコスプレって事になるだろうけど、今は現役の高校生なのでコスプレにはならない。

私の意見を聞いた沙耶はカバンをガサゴソと漁り、カチューシャらしきものを取り出して身に着ける。


「ほら、これで良いでしょ。にゃー。」

「…………。」


どうやら猫耳の付いたカチューシャのようだ。

………仮装、なのか?

確かに学校で大規模なコスプレとかは難しいだろうけど、雑。

仮装と言っていいのか判断に迷うぞ。

そもそも放課後じゃダメだったのか?

それまでお菓子を我慢できなかったのか?

と言うか猫耳のカチューシャを持って来ていると言う事は、例え放課後でもそれで済ませる気だったのでは?

数秒間悩んで無言になっていると、沙耶が感想を催促する。


「ちょっと、なんか言いなさいよ!」

「あぁ、うん。似合ってる似合ってる。可愛いと思うぞ。」

「…………!」

「ちょっ、痛っ!無言で殴ってくるなよ!まだイタズラかお菓子かの選択肢すらしてないじゃん!」


あれか、棒読みがいけなかったのか?

怒っているのか若干顔が紅潮してるし。

でもせめて殴る前にトリックオアトリートって選択肢を用意しろよ。

問答無用でトリックは無しだろう。


「これは猫パンチよ。つまりイタズラの範疇に入らないわ。」

「じゃれてるだけでこの威力とか、イタズラを選択したらどうなるんだよ………。」

「デッドオアアライブにゃ。」

「誰かこの化け猫を退治して痛たたたたたたたた!パワーだけゴリ痛たたたたたた!」

「弱点はお菓子よ。」

「お菓子を要求するならトリックを止めろ!」


そんな欲張りセットはいらない。

とりあえず今はこのゴリラ猫をどうにかして宥めなくては………。

しかしお菓子は持ってないんだよな、どうしたものか。


「食堂の『ハロウィン限定スイーツ』で荒魂を鎮めるのです。」

「なるほど、その手が!…………竹塚?」

「竹塚、さっきは良いアイデアをありがとね。」

「良いアイデア?」

「『どうせならトリート限定で選択肢を提示したら良いんじゃないですか?それと、デッドオアアライブって言葉、トリックオアトリートと響きが似てますよね。』って言いました。」

「竹塚ぁ!」


お前が犯人か!

お前が沙耶に余計な事を吹き込んだのか!


「やぁ、安達くん。トリックオアサイエンス。」

「青井?」

「イタズラが良いかな?被検体が良いかな?」

「誰だ、青井に変な事を吹き込んだのは!」

「呼びましたか?」

「竹塚ぁ!」


いつも通り白衣を着た青井が教室に訪れ、開口一番で変な選択肢を提示された。

たぶんこいつも誰かに変な入れ知恵をされたのだろうと思い、犯人を捜すが、既に目の前にいた。

竹塚は竹塚でどれだけの奴に変な入れ知恵を仕込めば気が済むのか。

最早これがイタズラだぞ。


「トリックオアトリート!」

「この声は、大久保か?ようやくまともな…………。」


教室の扉が開き、演劇部の大久保の声が聞こえて来た。

普通のハロウィンのセリフに安心しながら扉の方へ視線をやると、そこには大きな鎌を肩に担いだ死神が立っていた。

お前が要求するのはトリートじゃなくてソウルだろう。

と言うか大久保は大久保でコスプレに気合入り過ぎだろう。


「学校に変質者が現れたと聞いて駆け付けましたぞ!」

「やぁ、姉河くん。ボクだよ、大久保だよ。」

「むむ、大久保くんでありましたか。しかし、そう言った仮装は放課後にして頂きたいですぞ。それなら演劇部の活動と言う事で通りますからな。」

「それもそうだね。」


少しして風紀委員長の姉河が教室を訪れ、大久保を連れて行く。

一瞬ながらもの濃厚な出来事に教室中が静けさに包まれ、


『キーンコーンカーンコーン』


休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。

嵐のような騒がしさだった………。

しかしようやく嵐は過ぎ去って行ったな。


「昼休みが楽しみね。」


訂正、猫耳を付けた嵐は過ぎ去ってはいなかった。

と言うか、いい加減そのカチューシャ外せよ。

先生に怒られるぞ。

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