ゴミ拾い

心頭滅却すれば火もまた涼し、だったか。

詳しい意味は忘れたけれど、集中してれば熱くても平気とか、そんな感じの意味だった気がするが、今それはどうでもいい。

降り注ぐ日差し。いや降り注ぐどころか突き刺すレベルだ。

サンサンという擬音どころか、ギラギラと太陽が輝いている。

帽子を被っていても暑い事に変わりはない。

もしかして私は地獄に居て、刑罰でも受けているのではないかとすら思うレベルだ。

そもそもどうしてこんな炎天下の中にいるのだろうか?

そんなものは決まっている。






この前、ゴミ拾いの短期アルバイトの募集に応募したからだ。

隠していた点数の悪かったテストが見つかってお小遣いが減らされたんだから普通に勉強して成績を持ち直せば良かったのでは、と今更ながらに思っている。


「あづいぃぃ………。」


本当に、なんであの時成績をどうにかする選択をしなかったのだろうか。

普通にアルバイトする方が楽だろうとか思っていた自分を引っ叩きたい。

タイムマシン作れないかな。

まぁ内容の割に給料が良いと思ったら、まさか夏と言う暑い中やる事になるだなんて。

そりゃこんな状況でゴミ拾いなんてするんだから給料も言い訳だ。

しかも孤独。

圧倒的孤独。

他にもゴミ拾いをしている人はいるが、点々と別れてゴミ拾いをしているせいで雑談も出来ない。

お陰で余計に暑さを実感してしまう。

そして暑さのせいで集中できず、時間の経過がより長く感じてしまう。

悪循環が止まらない。

そんな事を感じていると聞き慣れた声を掛けられる。


「お疲れ、敦。」

「ん?沙耶か。どうしてここに?」

「偶然通りかかったのよ。それでこの前この辺りでアルバイトをするって言ってたのを思い出してね。少し顔を出したって訳。」


なるほど。


「高みの見物って訳か。」

「人聞きの悪い事言ってんじゃないわよ。ほら。」

「スポーツドリンク?くれるのか?」

「こんな炎天下の中、水分補給もしないでいたら熱中症で倒れるわよ?感謝しなさい。」

「ちょうどさっきまで持ってた麦茶を飲み切ったところだったんだ。ありがとう。」


沙耶に感謝の言葉を投げかけてスポーツドリンクを受け取る。

買いに行く手間が省けたし、誰かからの労いは心が癒される。


「敦にしては真面目にやってるみたいね。」

「私にしてはとはなんだ。私はいつでも真面目だろう。」

「本気でそう思っているなら『真面目』って言葉を改めて辞書で調べた方が良いわよ。」


沙耶は私の持っていたゴミ袋を見て一言多いコメントをしてきた。

確かに最初は乗り気ではなかったが、これだけゴミが散乱していると気になってしまう。

それにアルバイト、つまりは給料を貰うんだから適当にやるのも気が引けるし。


「さ、冷やかしててあげるから口だけじゃなくて手も動かしなさい。」

「冷やかすだけかよ。なんか、こう『ハァッ!』ってやってこの辺のゴミを消滅させたりとか出来ないのか?」

「出来る訳ないでしょ。」

「それなら過去にタイムスリップして『ハァッ!』ってやってゴミをポイ捨てした奴らを消滅させたりとかは。」

「出来る訳ないでしょ。さっきのゴミ消滅より難易度上がってるじゃないの。まぁゴミのポイ捨ては問題よね。」


流石の沙耶でも無理な事があったか。

もしかしたら、なんかこう『気』の力的な物でいけるかもと思ったが。


「それにしても昔なら『ゴミをポイ捨てするような奴が居たらボコボコにしてやるわ!』とか言い出しただろうに、随分と落ち着いたよな。」

「ちょっと、あたしが他人を力で言う事聞かせるような言い方しないでよ。」


いや間違ってないと思うんだけど。

昔は不良や弱い物いじめをしてる連中をボコボコにして強制的に悪い事出来ないようにしてたの知ってるぞ。

高校に入ってからはそういう事もなくなっていったけど。


「あれか、高校デビューってやつか。」

「違うわよ。痛い言い方しないでほしいわね。」

「それじゃあ、ようやく拳ではない対話と言う手段を理解したのか。文明人になったんだな。」

「あら、拳で対話してあげようかしら?」

「ごめんなさい。」


野蛮人に退化しないで。対話じゃなくて一方的暴力にしかならないから。


「1年の時はクラスが違ったけど、なんかあったのか?」

「そうね。委員長と同じクラスになって、まぁ私も成長したのよ。」

「ふーん。」


きっと委員長の聖人の如き人徳に触れて人間的に成長したんだろうと思う。

少し何があったか気になるが、たぶん長くなりそうだからまた今度聞く事にしよう。

話ながらゴミを拾っているから、さっきよりは孤独じゃないので体感的にマシとはいえ、暑い事に変わりはない。

そして雑談を交えながらゴミを拾って行き、




「あぁー、終わったぁ!」

「お疲れ。それじゃさっさと帰りましょ。」

「そうだな。沙耶も結局最後まで話し相手になってくれてありがとう。」

「だって帰ろうとしたら、『え?帰っちゃうのか?』って言いたげな目でこっちを見てくるからでしょうが。」


やっぱり持つべきものは目と目で意思が通じ合って付き合いの良い思いやりのある幼馴染だな。

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