フランケンシュタイン

「やっぱりそれは欲しいねぇ。」

「ふむ、それなら…………と言うのはどうかな?」

「なるほど。流石ですね、青井さん。」


放課後、校舎をぶらついていると空き教室から聞き覚えのある話し声が聞こえてくる。

扉も開いていたので何と無しに覗いてみるとそこには湊、青井、委員長の三人が話し合っていた。


「おや、安達君じゃないか。」

「よっ、皆で集まって何してるんだ?」


丁度、青井と目が合って声を掛けられる。

せっかくだから何をしているのかと聞いてみる事にした。


「演劇部で使う小道具をどぉしようかなぁって思って美保ちゃんに話したらぁ。」

「それなら青井さんに相談してみましょうと薦めて話し合っていたんです。」


なるほど、そうだったのか。

青井に相談か………。


「今度の劇は大丈夫なんだろうか………。」

「一体何が不安なんだい?」

「日頃の行い。」


劇より劇薬を扱ってるイメージがあるぞ。


「流石に君にそのセリフを言われたくはないかな。それに皆が頑張っていて、皆が楽しみにしている劇にそんな危ない物を用意したりはしないよ。」

「それもそうか。ごめん。」

「君になら面白い物を用意するのもやぶさかではないけどね。」

「止めてくれ。」


私はいまだにかつての被害を覚えているぞ。変な実験に突き合わされたり、めちゃくちゃ苦いグミを食べさせられたりとか。


「まぁ今回は実験室の小道具の監修や特殊メイク、演出に協力させてもらうんだ。」

「今回の劇は『フランケンシュタイン』をやるんだよぉ。」

「へぇ、確かに青井なら怪物の一体や二体くらい作っていてもおかしくはないし適役だな。」

「私が一体いつ劇に役者として参加するなんて言ったのかな?君もフランケンシュタインの怪物みたいしてあげようか?」

「冗談ですごめんなさい。」


断固として拒否する。

顔はニコニコ笑顔だったが目が本気だったぞ。

青井なら本当にやりかねないのが恐ろしい。


「二人とも、ケンカはダメですよ。それに今は劇の準備で話し合ってるんですから。」

「いや喧嘩をしていた訳ではないんだけど、ごめん。」

「少し脱線が過ぎたようだね。そろそろ本題に移ろうか。」


別に喧嘩をしていた訳ではないが、委員長から窘められる。

脱線していた話を軌道修正し、演劇の準備の話を始めるのだった。


「そうだね。水35ℓ、炭素20kg、アンモニア4ℓ、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素でも準備しようか。」

「それ、何か作ろうとしたら家族や手足を失うやつじゃないか?と言うかよく覚えてるな。」

「何の話か分からんけど、薬品とか化学物質?があった方がそれらしくなると思うよぉ。」


湊には通じていないネタだが同意は得られた。

人体錬成ではないが、人間を作ろうとしたらしいし雰囲気も出て良いだろう。


「あとは実験台も必要不可欠だね。台の上にはメスやハサミと言った手術に使用する道具も置いておこう。」

「そうですね。ただ演劇中にぶつかって倒したり落っことしたりしないように注意が必要ですね。」


だいぶまともに話が進んでいる。

しかしこの場に居てもおかしくなさそうな人物が見当たらない。


「そう言えば演劇部の部長の、えーと………。」

「大久保くんですね。確かに見ていないですね。」

「あぁ、部長なら『完璧な怪物になってくる』って言って特訓中なんよぉ。」


一回会っただけだけど、確かにあの人なら言い出しかねない気がする。

以前、桃太郎の劇を見た際に一人だけ明らかに学生ではない人物がお爺さん役を演じていたが、実はその人は外部の人や顧問の先生ではなく部長の大久保だったのだ。

本人曰く演技力と言っていたが顔の皴や姿、雰囲気が完全に老人だった。

今回も恐らく多くの人々がイメージするであろうフランケンシュタインの怪物になって姿を現しそうだ。


「それでも今日、部活に顔を出すって連絡があったから、もしかしたらここにも来るかもねぇ。」

「そうなのか。それにしても大久保って役になりきってるが登校する時とか学校生活でそんだけ見た目の変化が激しかったら目立つと思うんだけど。」

「確かにそうですね。でも今までそんな目立つ生徒は見たことないです。」

「そもそも私は本当の大久保くんを見たことが無いよ。」

「部長、普段は普通の学生だよぉ。部活の時だけ役に入り込んでるんよ。だからみんなは偶然、普段の部長を見たことが無いだけかなぁ。ウチは1年の頃に一緒のクラスだったけど、みんなはクラスも違うし。」


演劇部部長、大久保。謎の多い男だ。というか謎しかないような気がする。

そのうち学校の七不思議に数えられるんじゃないだろうか。


「そうだったんですね。いつか学生としての姿も見てみたい気はしますが、まずは今回の劇を楽しみにしておきましょう。」

「今回も自信あるから、楽しみにしててねぇ。」

「えぇ、楽しみにしていて下さい。」


湊は胸を張って笑顔で答える。

これは期待できるな。

ん?と言うか今誰かいたような気が………

振り向くとそこには


「うわあぁ!!?」

「ひゃあぁ!!!」

「大久保くんですか?凄い完成度ですね!」


フランケンシュタインの怪物が居た。

音もなく後ろに立たないでほしい。めちゃくちゃビビった。

青井も普段は出さないような声で悲鳴を上げてたぞ。

そして委員長は完成度の方に驚いていた。心臓が強すぎでは?


「そう言ってもらえると嬉しいです。頑張った甲斐がありましたね。」

「さっすが部長。相変わらずだねぇ。今ちょうど小道具とかの話をしてたんよぉ。」


湊もパチパチと軽く拍手をして現状の説明をする。

大久保は怪物姿のまま話に参加し、話は進んで行くが、存在感があり過ぎて集中できないのであった。

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