筋トレ

今日も良い天気だし、何となく屋上に立ち寄る。


「ぐぬぬぬ!」

「その調子ですぞ!」


先客が何かをしている。

あれは………


「会長に姉河、一体何をしているんだ?」

「ぐぬぬぬぬぬ!」

「おや、安達くんではありませんか。実は鐘ヶ崎会長の筋トレを監修しているのですぞ。」

「はぁ……はぁ……。ん?安達2年生か。いつの間にここに?」

「ついさっきですよ。何してるんですか?」


生徒会長の鐘ヶ崎と風紀委員長の姉河がジャージ姿で何かをしていた。


「実は姉河風紀委員長に勧められて筋トレをやっていたんだ。」

「勧められて?」


え?姉河、お前、いくらドMだからって他人にもそれを強いるなよ。

それともアレか?遂には自らの手で自らをいたぶる存在を育成しようとしているのか?

どちらにしても、そこまでにしておけよ姉河。


「何やら怪訝な目で見られていますが、先日鐘ヶ崎さんにストレス解消に何をしていると聞かれましてな。それで筋トレをオススメした訳ですぞ。」

「運動にもなるし健康にも良さそうだからな。それがストレス解消になるなら一石二鳥と言う事だ。」


なるほど。そういう事だったのか。

しかし姉河の性癖的に『ストレス解消ですか?それなら自分を全力で殴って欲しいですぞ!』とか言い出すかと思ったが、こいつ変態だけど善人でもあるからな。

ある意味読めない男だ。


「まぁ最初は自分を殴っても良いと言ったのですが、断られてしまいましたぞ!」

「そんなことする訳が無いだろう。暴力はダメだ。たとえ姉河風紀委員長が鍛えていて私の攻撃など意味を為さなくてもな。」

「あぁ、うん。そうだな。」


やっぱりかよ!既に言ってたのかよ!

鐘ヶ崎、そいつは『鍛えてるから大丈夫だろう』と思って攻撃して来いなんて言ってる訳じゃないぞ。ただの個人的な性癖だ。

それを説明すると余計にストレスが溜まりそうだし、面倒だから言わないけど。

あと暴力はいけない。その通りだな。

攻撃力高めな私の幼馴染にも聞かせてやりたいぞ。原因は大体私だけど。


「健全な肉体には健全な魂が宿るとも言われているし、姉河風紀委員長の善良な人間性はこういった努力から来ているのだと思わされるよ。」

「ははは、そのような事はありません。自分はまだまだ未熟者ですぞ。これからも至らぬ所があれば、ビシバシと!指導してほしいですぞ!」

「ふっ、それならば指導するに相応しい生徒会長で有らねばならないな。」

「が、頑張ってください。」


圧倒的すれ違い。

姉河も自分で言っているが、健全な魂って言えるのだろうか。

姉河は確かに善人かも知れないが、健全な魂かと言われると疑問を感じざるを得ない。

具体的に言うと自分の欲望に忠実な所が。

あとビシバシの所を強調しているが、それも自分の欲望に従った発言だろう。

鐘ヶ崎は良い話風にまとめているから取り敢えず応援しておくが。


「とは言え、頑張り過ぎは禁物ですぞ。筋トレは人生のようなものですからな。」

「急に人生哲学の話してきたな。」

「ふむ。その心は?」

「負荷を掛ける事で成長しますが、負荷が掛かり過ぎては怪我をしてしまいますからな。」

「な、なるほど。程々が一番って事だな。」


良い事を言っているはずなのに、普段の言動のせいで感心しづらい。

良い奴なのに間違いはないはずなのに。

この前『天は二物を与えず』ってことわざを聞いたが、こいつの事だったか。


「それに限界まで頑張った後はしっかり休む事で筋肉は成長しますからな。そういった意味でも筋トレの後に休むのは大切ですぞ。」

「超回復ですね~。」

「御増峠さんの言う通りですぞ。」

「あれいつの間に。」

「姉河くんから鐘ヶ崎さんがトレーニングしてるって聞いて~。来ちゃいました~。」


姉河が休養の重要性を説いていると保健委員長の御増峠が現れる。

超回復?聞き覚えが無い言葉だけど、なんか凄そうだな。




「という訳でタオルをどうぞ~。汗は体温を下げるために出ますけど~、運動後にはしっかり汗を拭いて体温の下がり過ぎには気を付けましょうね~。」

「ありがとう。」

「それからスポーツドリンクの差し入れですよ~。」

「ありがとう、頂くよ。」

「それから運動後でも食べやすくて消化にも良いバナナもどうぞ~。」

「ありがとう。頂くよ。」

「後は疲れて眠くなったら保健室のベットを使っても良いですよ~。」

「ありが……、いやそれはまたの機会にしておこう。特別眠い訳でもないからな。」

「そうですか~。あ、それならマッサージをしてあげますね~。」

「え、いや、気持ちだけ頂いておこう。」


御増峠は鐘ヶ崎に次から次へと差し入れを渡す。

最初こそ鐘ヶ崎も感謝して受け取っていたが、徐々に大きすぎる労わりの気持ちに引き気味になっていく。


「御増峠さんは面倒見が良いですな。」

「と言うか過保護なんじゃないか?」

「誰かの為に率先して行動できるのです。それなら面倒見が良いと言えるでしょう。」

「こっちはこっちで人が良過ぎる。」


なんでウチの学校の委員長達はこうも癖が強過ぎるんだよ。

図書委員長の長谷道は変人だし、美化委員長の永篠はサボり魔だし。


「そう言えばなんで屋上で筋トレしてるんだ?体育館とかもあるだろうに。」

「体育館は部活で使用中の事が多いですからな。それにあくまでも努力とストレス解消を兼ねているので、人目に付く事が少ない場所を選んでいるのですぞ。努力と言うのは人に見せる為にするものではありませんからな。」


ふとした疑問を姉河に投げかけるが、返って来た答えは真っ当な物だった。

姉河、性癖と言う名の自分の欲望を優先さえしなければ本当にまともで良い奴なんだけどなぁ。

あと鐘ヶ崎が御増峠にグイグイ来られて困ってそうだし、そろそろ助け舟を出すとするか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る