豚小屋2

「俺は予定があるからもう帰るな。」

「じゃあ私達も帰るか。」

「そうですね。」


放課後、いつものように竹塚、伊江と雑談を楽しんでいた。

伊江が予定があるから帰ると言うので私と竹塚も帰ろうとしたのだが………


「やぁ、安達くん。待っていたよ。」

「………見間違えか。」

「おっと扉を閉めないでくれたまえ。」


何故か教室の外、扉の前で長谷道がスタンバっていた。

怖ぇよ。

ホラーゲームのワンシーン並みにびっくりしたよ。

しかも扉を締めようとしたら手と足を差し込んできて妨害するし。


「何の用だよ、長谷道。別にお前と一緒に帰ろうとか約束はしてなかったはずだぞ。」

「ちょっと付き合って欲しい所があってね。」

「そうか、それじゃあまた。」

「付いて来てくれるのかい?ありがとう。」

「私の話聞いてたか?」


私がいつ付いて行くなんて言ったんだよ。

帰るって言っただろうが。

でもまぁこっちには仲間がいるんだ。

助けを求めたら手を差し伸べてくれるだろう。


「竹塚、伊江、助けてくれ。不審者に絡まれた。」

「待たれてたのは安達だけだよな。つまり俺は無関係って事だ。だから先に帰ってるな。」

「そうだね。それじゃ、伊江くん。さよなら。」

「え?」


伊江?おーい?伊江浩二?

どうしてなんの躊躇いも無く見捨てるんだよ。

私よりも予定の方が大事なのか。

くっ、最悪の場合、伊江を生贄に奉げて逃げようと思ってたのに………なんて奴だ。

しかし、こちらにはまだ竹塚がいる。

竹塚ならきっと助けてくれる事だろう。


「僕も一緒に行った方が良いですか?」

「いや、竹塚くんは大丈夫かな。君は安達くんと比べて賢過ぎるから、下手すると事態を引っ掻き回されそうだし。」

「そうですか。じゃあ僕も帰りますね。また明日。」

「え?」


なんで竹塚はいらないんだよ。

確かに竹塚は私より僅かに賢いけど、普通賢い人間って頼られるものじゃん。

なのになんで賢い事が原因で見逃されるんだよ。

私を一体どこに連れて行こうって言うんだよ。


「じゃあ行こうか。」

「私は一言も付いて行くなんて言ってないぞ。と言うか、そもそもどこに連れて行こうとしたんだよ。」

「それはね、




生徒会室だよ。」

「なんでだよ。余計に私が付いて行く理由が分からなくなったぞ。」


生徒会室ならお前はいつも入り浸ってるだろう。

生徒会メンバーでもないにも関わらず。

何なら長谷道との初対面なんて生徒会長の椅子に勝手に座ってる時に出会って、長谷道を生徒会長と勘違いしたくらいだぞ。


「なに、生徒会室で少しばかり話を聞いてくれればそれで良いのさ。」

「なるほど。ただただ怪しい。」

「大丈夫、君が不利益を被る事は無いから。……………恐らくは。」


とても怪しい。

なんかまた碌でもない事が起こりそうな予感がする。

しかも最後にボソッと何か言わなかったか?

そんな会話をしながら生徒会室に向かう。




「待たせたね。会長。」

「待ちわびたぞ。長谷道。」


生徒会室には、生徒会長の鐘ヶ崎が腕を組み、仁王立ちをして待ち構えていた。


「それにしても随分と遅かったじゃないか。てっきり逃げ出したのかと思ったぞ。」

「ははは、私が逃げる理由なんて無いじゃないか。」


長谷道は理由なく他人に迷惑を掛けたりするからな。

逃げるくらい理由なんていらないって事だろう。


「では早速、校舎裏のミニブタと豚小屋について説明してもらおうか!」

「豚小屋は以前分けてもらった資材で作ってもらったんだ。でもミニブタに関しては知らないよ。」

「そんな訳があるか!それならなんで豚小屋なんて作っているんだ!」


あっ、アレか。

うん。ミニブタ自体は確かに長谷道とは何ら関りが無い。


「いや会長、長谷道の言ってる事は事実ですよ。」

「長谷道だぞ?我々を騙して言い逃れしようと考えているとは思えないか?それにこの男が碌でもない事をやらかさない訳が無い!」

「それを言われると否定できないですね。長谷道だし。」

「ははは、私の信用薄くないかい?」


信用はしているぞ?

油断も隙もありゃしない奴として。


「でもミニブタに関しては私の友達の青井って生徒のペットなんですよ。」

「それならば尚の事、何故この男が小屋など建てるか疑問極まる。動物に優しくするとか、そんな殊勝な人間ではないだろう。」

「確かに。長谷道が作った事は聞いたけど、どうしてそんな事したのかは聞いてなかったな。」

「よくぞ聞いてくれたね!安達くんは最初、それはもう矮小で住み心地の悪そうな豚小屋を作っていたじゃないか。」

「規模が小さかったのは認めるけど言い方もう少しどうにかならなかったか?」


あれでも結構頑張った方なんだぞ?


「それを見た私の技術部の友人が放っておけないと義信に駆られてね。それで丁度、鳥場くんと伏実くんが使い切れそうにないくらい大量の資材を運んでいる所を目撃してね。」

「だからあの日、タイミングよく生徒会室に来たのか。」

「そう!つまりは普段から仲良くしている友人を助けるためにも私が資材を融通して豚小屋改築を主導した訳さ!」


長谷道の言う友達は知らない奴だけど、長谷道が急に『善の心に目覚めて』とか言い出すよりはよっぽど信用できる。

そして長谷道も友達の為に行動したと言うのであれば、まぁそれなりには信用できる。


「それなら、信じられる、のか?」

「少なくとも長谷道本人よりは信用出来そうですよ。」

「それもそうだな。今回は信じてやろう。」

「………まぁ話の内容を信じてもらえたなら十分だよ。さて、それじゃあ帰ろうか、安達くん。」


長谷道は若干不服そうではあるが、日頃の行いの結果と言えるだろう。

とりあえず私も会長も納得はしたので、生徒会室を後にして帰ろうとするが、ふと疑問を感じた。


「なぁ、長谷道。思ったんだけど、今回の件を説明するなら私じゃなくて技術部の友達を連れて来れば良かったじゃないか?」

「彼は多忙だからね。時間が無かったんだよ。うん。残念だなー。」


何だろう、凄く嘘臭い。

こいつ、もしかして程々に真実を知っていて、かつ言いくるめ易そうな私を選んだんじゃないだろうな。

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