幼馴染と委員長

「そう言えば、前から気になってたんだけど、沙耶、高校に入ってから落ち着いたと言うか、昔の暴虐っぷりが鳴りを潜めたと言うか。」

「だ・れ・が・暴虐ですって?」

「いたたたたた!そう言うところだだだだごめんなさい!」

「三つ子の魂百までですね。やっぱり入屋の秘められた破壊衝動ががががが。」

「破壊衝動って何よ!」

「もう、暴力はダメですよ、入屋さん。安達くんと竹塚くんも、あんまり入屋さんをからかったらダメでしょう。」

「委員長。」


昔から弱い者いじめを許さず、なんならいじめる側をボコボコにしたり、不良を返り討ちにしていた沙耶が、高校に入ってから落ち着いたのに疑問を感じるのは仕方がないだろう。

しかし言葉選びを失敗して耳を引っ張られる。

ついでに竹塚も一言多くて耳を引っ張られる。

やはり暴虐なのでは?

そんな話をしていると委員長が止めに入ってくれた。救世主現る。


「そうだ、1年の頃、沙耶と一緒のクラスだった委員長なら何か知ってるんじゃないか?」

「何か?ですか?」

「入屋が暴……じゃなくて少し喧嘩っ早いところがあったのですが、高校に入学してからはそれほどでもなくなったので。」

「そうですね。1年生の最初の頃はその傾向がありましたね。」

「ちょっと、委員長。」

「あれは入学して1ヶ月くらいの事でした………。」


委員長は沙耶の制止を気にせず、昔語りを始める。






「ぐえぇ!」

「まったく、懲りないわね。弱い物いじめなんて情けない、もう少しやられる側の気持ち味わってみる?」

「ひぃ!」


入屋沙耶がいつものように不良をボコボコにしている時、後ろから声を掛けられる。


「何やってるんですか!」

「ん?あんたは、うちのクラスの………。」


振り向くとそこには同じクラスに属している女子生徒の保木美保が立っていた。


「暴力なんていけません!」

「優等生ね。でも元はと言えばこいつが弱い者いじめをしてるのがいけないのよ。」

「それなら入屋さんだって弱い者いじめをしていることになりますよ!」

「あたしは何もしてない奴に暴力を振るったりはしないわよ!」

「いいえ!理由があるからやって良いと言う理屈こそ、弱い者いじめをしている側の言い分です!何かしら理由を付けて暴力を振るうのはいじめる側のやり方じゃないですか!」

「それは………、だとしても見過ごす方が良くないじゃない!」

「なら話し合いましょう。それでどうにもならないなら、誰かに相談するんです。それに暴力を振るわれた側も、振るった側も、痛いじゃないですか。」


保木は止めに入るが、入屋は自身の正しさを主張する。

力の弱い人を狙い、いじめる人を止めるために必要であると。

しかし保木は、それでは入屋がいじめる側に置き換わったに過ぎない事を指摘する。

その指摘に対して入屋は言葉に詰まる。

入屋は『だとしても』、と反論をしようとするが、保木は話し合うべきだと語る。それでもダメなら、誰かを頼れば良いと。


「きれい事ね。」

「良いじゃないですか。現実的な主義主張しか出来ないよりも、現実を見たうえで可能な限り、きれい事を言って行けるように努力する事は決して悪い事ではないと思いますよ?」

「……………。呆れた、そんな事恥ずかしげもなく言えるなんて。」

「自慢のお姉ちゃんの受け売りです!私もこの考えがとっても素敵だって思ったから、行動するんですよ。」


『きれい事』と呆れる入屋を気にせず、屈託のない笑顔で『それでも良い』と語る保木。

その姿勢に入屋は呆れ顔を崩して笑みを浮かべる。


「でも悪くはないわね。あたしもその考え方、嫌いじゃないわよ。困った事とか、力を貸してほしい事があったら呼んで。」

「はい!でも暴力はダメですよ?」

「分かってるわよ……。」


保木の考えに共感した入屋は彼女を支える事を約束する。

そしてその約束はすぐに果たされる事になる。




「で、早速呼ばれたと思えば雑用じゃない。」

「はい。でも誰かがする必要がある事なので。集めたノートを運ぶの、手伝ってもらえると嬉しいですけど、無理そうなら大丈夫ですよ?」

「手伝うわよ。あんた1人に押し付けて帰るのも目覚めが悪いわ。それに………。」

「それに?」

「こういう形でする人助けも悪くはないわね。」


雑用の手伝いと言う形で。


「でもあんた、いっつも雑用を引き受けてるわよね。」

「皆の役に立てて嬉しいですよ。」

「見返りもないのに?」

「見返りなら頂いていますよ。」


日頃から雑用を引き受けている保木の姿に、暗に『それで良いのか』と問いかけるが、

本人は既に対価を貰っていると語る。


「え?そんな物受け取ってるところ、見たことないけど。」

「皆からの感謝の気持ちが見返りですよ。」

「あぁ、そういう……。」

「それに内申点にも繋がりますし。」

「あんた、意外としたたかね。」


それは『感謝の気持ち』と言う目に見えない形での対価と、『内申点』と言う目に見えない形での実利であった。

入屋はそれを聞き、前者で呆れ、後者で苦笑いの表情を浮かべるのであった。






「………と、こんな出来事があったんですよ。」

「なるほど。だから沙耶は委員長の手伝いを良くしているのか。」

「………別に、言って聞かせる程、大した内容じゃないもの。」

「でも良いじゃないか。沙耶の人助けの形が穏やかになった訳だし。………でも私たちに対する制裁は過剰なのでは?」

「それはからかって来るあんたが悪い。」


委員長の語りを聞いて納得したが、制裁に対しては抗議する。

いや確かに原因はこっちにあるけど。

それはそれとして委員長から暴力は良くないと言われている訳だし。


しかしウチのクラスには親方と言い、委員長と言い、精神的に成熟していて高校生とは思えないような奴が揃い過ぎではないだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る