段ボール

「さて、今回はなんで呼び出されたか分かりますか?」

「保木先生がオレ達に会いたかったからっすか?」

「違います。さっき教室で会ったばかりでしょう。」

「この街で事件が起こってそれを解決するために私たちに名探偵になってほしいからですか?」

「違います。事件が起きたなら警察を頼ります。むしろ君たちは事件を起こす側だと思うのですが。」


事件を起こすだなんて、私達はそんな物騒な人間じゃないのに。

先生はもっと生徒の事を良く見て評価するべきだと思う。


「と言うか、まさについさっき事件を起こしたばかりですよね?」

「事件?」

「何かあったんですか?」


私を丹野は顔を見合わせる。

お互い何が何だか分からず、頭の上に疑問符が浮かぶ。


「何かあったんですか?じゃないです。君たちは廊下で段ボールを被って何をしていたんですか?」

「え!?どうして私達だって分かったんですか?」

「そうっすよ!全身を覆うくらいデッカイ段ボールでスニーキングミッションをしてたのに!」

「中から安達くんと丹野くんの声が聞こえる段ボールが動き回ってると報告が来ています。」


なんてこった。まさかバレてしまうなんて。




~昼休み~


「HQ、こちらA。目標地点まであと僅かだ。オーバー。」

「こちらHQ。了解しました。そのまま進んでください。オーバー。」

「HQ、こちらT。目標を達成し帰還する。オーバー。」

「こちらHQ。了解しました。油断せず、慎重に帰還してください。オーバー。」


私と丹野はとあるステルスゲームに登場する人物に則り、段ボールを被って任務に就いていた。

司令塔である竹塚の指示の下、今日の昼飯と飲み物を買いに行くと言う任務に。

アプリのグループ通話でそれっぽい雰囲気を出しながら私は購買に、丹野は自動販売機に向かったのだ。


「HQ!大変だ!」

「こちらHQ。どうしましたかA?オーバー。」

「カレーパンが品切れだ!オーバー。」


しかし問題に遭遇する。

任務対象であるカレーパンが売り切れていたのだ。

このままでは私の昼飯が無くなってしまう。


「こちらHQ、カレーパンは僕も丹野も狙っていた品ではないので問題ないです。オーバー。」

「HQ、こちらA。カレーパンは私が買おうと思っていたから問題しかないぞ。オーバー。」

「こちらHQ、どうしてもカレーパンが食べたいなら僕のコロッケパンとTのおにぎりを届けてから近所のコンビニに向かってください。オーバー。」

「仕方がないので私も適当におにぎりを買っていくことにする。オーバー。」


司令塔に残酷な決断を迫られ、私は仕方なく妥協する事にした。段ボールを被りながらの移動速度で学校を出て買いに行くとなると時間が掛かり過ぎる。

そんな事を考えていると今度は丹野が発言し始める。


「HQ、こちらT。しくじった。オーバー。」

「こちらHQ。何がありましたか?オーバー。」

「自動販売機で飲み物を買って司令部前まで戻ってきたはいいが、お釣りを取り忘れた。オーバー。」

「こちらHQ。僕は気にしないので問題ありません。そのまま帰還してください。オーバー。」

「オレが気にするので取りに戻った。だから帰還が遅れる。オーバー。」


なんだろう、この司令部情け容赦が無さ過ぎではないだろうか。

仲間に対する情をもっと見せないと仲間は付いてこないぞ。


「………。」

「ん?なにやら視線を感じるような。いや気のせいか。某伝説の傭兵が愛用した段ボール隠密術を見破れる奴なんていないだろう。気にせず帰還しよう。」


私が買いものを済ませて教室に戻ろうとすると、どこからともなく視線を感じた。

しかし段ボールには自信があったので気にせず帰還したのだった。






~現在~


「あの時か!」

「馬鹿野郎!何気付かれてんだ!」

「仕方がないだろう!あの隠密術を見破れるような奴がいるなんて思わないぞ!てかお前も呼び出されてるって事はバレてたって事だろ?自分の事を棚に上げるんじゃない!」


私は丹野に反論する。私だけがバレてたなら私だけが呼び出されていただろう。

しかしこの場には丹野もいる。それ即ちバレていたという証拠に他ならない。


「オレはあれだ。なんか知らないけどオレの凄さが溢れ出てたからだ。きっと。」

「言い訳適当過ぎだろ。もうちょっとマシな言い訳は無かったのかよ。」

「どっちもどっちですよ。まったく、奇行もほどほどにするように。もう少し自分たちが他人の目からどう見えているか考えるべきですよ。」


私と丹野が言い争っていると保木先生が仲裁する。

でも先生、


「他人の視線ばっかり意識して生きるのは苦しいと思います。」

「そうっすよ。だからオレ達は自分を貫いて生きてるんす。」


この生き辛い世の中。縮こまってばかりではいられない。

だから他人の目なんて気にし過ぎずに私らしく生きるんだ。


「そうですか。あまり奇行が過ぎて反省もしていないのであれば生徒指導室で本格的にお説教ですね。親御さんも呼んで三者面談になります。それから月末の奉仕活動にも強制参加ですね。先生も心苦しいですが、生徒に生き方を強制する事は出来ないので仕方がありませんね。」

「先生すみませんでした!もう少し落ち着きを持って行動します!」

「やっぱり他人に迷惑かけるのは良くないっすからね!」


先生は悪夢のような内容を告げて来た。流石に開き直るのはマズかったようだ。




その後は慌てふためきながら私と丹野は先生に弁明をするのであった。

どうにか反省の意は通じ、許してもらえた。危なかった。

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