挨拶
「宇宙人に出会ったらなんて挨拶しようか。
「安達、授業は終わったぞ。まだ寝ぼけてるのか?」
「勇者よ、目を覚ますのです………。今こそ魔王を倒すため旅に出るのです………。」
「いや、起きてるよ。」
「てか寝ぼけてると思って何を吹き込もうとしてんのよ。」
沙耶の言う通り、今がチャンスと言わんばかりに竹塚が何やらRPGの冒頭にありそうな神託的な事を言って来る。
なんだ、私に旅に出ろとでも言いたいのか。
意識がはっきりしている状態の私にはそんな誘惑は効かないぞ。
「ただでさえ変な事ばっかり言ってる敦が更に変な事し出したらどうすんのよ。」
「大丈夫ですよ。既に変人具合は上限に到達していると思うので。」
「でも安達だぞ?悪い意味で覚醒しかねない。」
「お前らは私の事を何だと思っているんだ。私はいつだって常識的で良識的かつ善良な人間だろう。」
まったく、失礼な連中だ。
もう少し友人の事を良く理解すべきだと思うぞ。
「日頃から非常識な奇行ばっかりしてるからそんな事言われるんでしょ。」
「むしろその自信はどっから来てるのかって思うな。」
「おかしい、私に対する偏見がこびりついている。」
「でもこうも言えますよ。」
偏見の嵐に打ちひしがれる私を竹塚がフォローしようとする。
そうだ、持つべきものは信頼出来る友。
どんなフォローをしてくれるんだ?
「大体の奇行は『まぁ安達だし。』で解決できますから。」
「それ何の解決にもなってないだろ。」
「納得は出来るな。」
欠片もフォローになってなかった。
あとそれで納得しないでほしい。
「そう考えると宇宙人と出会った時の為に挨拶を考えるのも敦らしい、の?いや敦らしいとかじゃなくて意味が分からないんだけど。」
「考えるのではないです。感じるのです。」
「俺には何も感じ取れないんだけど、竹塚には何か感じ取れたのか?」
「きっと安達はこう言いたかったんですよ。
それは昨日の事でした。
夜にふと空を見上げると流れ星が落ちていたのです。
しかしそれはただの流れ星ではありませんでした。
実は宇宙船が墜落していたのです。
恐らく何かしらのトラブルがあったのでしょう。
そうなると宇宙人たちは宇宙船を直さなくてはなりません。
彼らは修理の為、部品が必要となりますが、そこで大きく分けて二つの選択肢がありました。
一つは自分たちで作るなりして用意する。
一つは現地人である我々から何らかの手段を用いて獲得する。
前者は宇宙船の故障から厳しいでしょう。ですので選択肢からは除外です。
そして後者は更に二通りのパターンが想定されます。
それは武力を用いて奪う。または交渉して交換、ないし譲渡してもらう。
補給が困難な彼らはきっと交換や譲渡を要求するでしょう。
そして無事宇宙船を修理し、宇宙に帰った後、変に恨みを買って攻撃対象にされないためにはきちんとしたコミュニケーションが必要だと想定されます。
ここまで言えば分かりますね?」
「言わんとすることは分かるけど。」
「理解とか納得が出来るかって言われると出来ないわね。」
竹塚がなんか壮大な物を感じ取り、それを口にするが、
「えぇ、あー、うん。まぁそんな感じだ。」
「絶対そんな事考えてなかった奴のリアクションしてるんだよな。」
「敦がそこまで考えて発言や行動をする訳が無いからね。」
そんな事は考えてなかったけど、肯定した方が賢そうに見えるだろうから肯定しておく。
単純な思い付きだって言うより竹塚の案を貰った方が良いだろう。
しかし簡単に伊江と沙耶にはバレていた。
「で、宇宙人に出会ったらどんな挨拶をすればいいと思う?」
「知らねぇよ。そもそも地球の言語が通じるかすら怪しいし。」
「なるほど。つまりジェスチャーとかボティーランゲージ的な奴で対話を試みればいいんだな。」
「それも通じるか怪しいな。と言うかそもそも宇宙人がいるかすら怪しいっての。」
伊江が夢の無いセリフを連発している。
もしかしたらいるかも知れないじゃん。宇宙人。
「待って下さい伊江。宇宙人が必ずしもしないとは言い切れないですよ。」
「おぉ!竹塚、何か証拠とかがあるのか!」
「無いです!」
「証拠も無いのに自信満々に言うわね。」
一瞬でも期待してしまった私が馬鹿だったのだろうか。
「ですが、存在しない証拠もありません。いわゆる『悪魔の証明』ってやつですよ。」
「え!?宇宙人って悪魔だったのか!?魂抜かれる!?」
「そうじゃないでしょ。竹塚は宇宙人がいる事もいない事も証明できないって事を言いたかったんでしょ。」
「宇宙人が悪魔説。面白いですね。」
「そこは深堀しなくていいからな。もしくは自分の頭の中で考えを巡らせとけ。」
竹塚の話を聞いた私の発言を竹塚が拾い、会話が更に混沌としそうになるが伊江がストップをかける。
宇宙人と悪魔の関係も確かに気になるが、その前に挨拶だ。
いかなる相手であったとしても挨拶は大事だからな。
「そもそも敦は宇宙人より外国人に声を掛けられた時に答えられるようにした方が良いんじゃないの?さっきの英語の授業だって真面目に受けてた?」
「やっぱり言葉じゃなくても感覚で通じ合えれば大丈夫かも知れない!さっき竹塚も考えるんじゃなくて感じるんだって言ってたし!」
言葉は通じなくても、想いが通じればOK!
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