ファッションショー:親方編

「俺ぁ思うんだよぉ。皆、俺の事を極道ネタで弄り過ぎなんじゃあねぇかってよぉ。」

「どうした親方?」

「親方弄りなんていつもの事だぜ。」

「むしろ組長とかオヤジとか言われない分マシなんじゃないですかね。」

「組長は最初のあだ名だけど、親方がメッチャ拒絶して最終的に親方呼びになったからな。」


放課後の雑談の最中、親方は普段の自分の扱いに対して異論を述べる。

竹塚や伊江が言いうように、最初は組長と読んでみたけど凄まじい勢いで拒絶された。

顔面の圧力が強く、組長呼びから親方呼びに変えたのだ。

これでも結構妥協している方なんだけど、親方的にはそれでも不満らしい。


「親方予備は百歩譲って認めるけどよぉ、極道弄りはしつこすぎじゃあねぇかぁ?」

「だって見た目が、うん。」

「服装によってはその筋の人に見えるぜ。」

「丹野、私が気を遣ってぼかした部分をハッキリと言うんじゃない。」

「本気で気を遣うつもりなら極道ネタで弄るのを止めろよぉ。」


全く、丹野はもう少し気を遣うと言う事を覚えた方が良いぞ。

弄るのを止めるつもりは無いけど。


「これはやるしかありませんね。」

「やるしかないって、何をだよ?」

「これを見て下さい。」

「ん?チラシか?」

「『新装開店』って書いてあるな。」

「近所でファッションブランドのチェーン店がオープンしたらしいんですよね。」


なるほど、竹塚の言わんとする事は理解出来た。

しかし、


「最近開店したばっかりなら混んでるんじゃないか?」

「はい。逆に言えば他の服屋さんは空いている可能性が高いのでそっちに行きましょう。」

「なるほどな、そういう事か。」

「親方ファッションショーの開幕って訳だ。」

「それじゃ、早速行こうぜ!」


これは楽しくなってきたぞ。

親方にどんな格好をさせてやろうか。


「待て待て待てぇ、なんで本人の同意もねぇのに話をトントン拍子で進めてんだよぉ。」

「でも親方、今日は家の手伝いは無いだろ?」

「もしかしたらこの後あるって可能性を考えねぇのかよぉ。」

「それは大丈夫だ。な?伊江。」

「あぁ。今日は親方の手伝いは無い事は確認済みだからな。」

「伊江ぉ!?俺の事を売るってぇのかぁ!?」


親方は拒絶するが、この後暇なのは確認済みだ。

伊江は悪ノリする時の悪い笑みを浮かべて親方を追い詰める。

普段は常識的に振舞っているが、こういう時に悪ノリしてくれるから助かるぞ。

と言うか、暇じゃなかったらこうして放課後に雑談とかしてないじゃん。

普段から結構な頻度で家の手伝いがあるからって帰ってるし。


「年貢の納め時ですよ。」

「偶には遊びに付き合ってくれても良いだろ?」

「分かったよぉ。行けばいいんだろぉ、行けばよぉ。」


親方は両手をヒラヒラと上げて降参のポーズを取る。

よし、同意も得られたことだし、出発だ!




そして近所の服屋さんに到着し、早速親方の着せ替えファッションショーが始まる。


「トップバッターはオレからだぜ!」

「では丹野、今回のコンセプトは?」

「『センター』だ!」


トップバッター、センター、このキーワードの並びからして野球のユニフォームでも着せたのか?


「それではオープンです!」

「こ、これは!」


確かにセンターだった。

バスケの。


「どうよ!なんて言うか、強そうだろ!」

「確かに強そうだな。」

「めっちゃリバウンドとか上手そう。」

「だろ?どうだ親方、今からでもバスケ部に入らねぇか?」

「悪ぃが家の手伝いがあるから無理だぞぉ。」


確かに、何と言うか、バスケの強豪高校でキャプテンとかやってそうな風格がある。

丹野も勧誘していたが、断られていた。

まぁ本人の言う通り、親方は忙しいから仕方が無いな。


「次は俺だな。」

「伊江、コンセプトは?」

「要するに親方の厳つさを緩和すれば良いんだ。つまりコンセプトは『お遊び』だな。」

「なるほど、ではオープンです!」


ラジカセを担いでキャップを斜めに被り、ジャラジャラとネックレスを付け、タンクトップにジーパンを着た親方がいた。

ラッパー?とか言う人がしている恰好みたいだ。


「どこから来た人だ?いやある意味、似合ってはいるけど。」

「少なくとも極道染みた厳つさは無いと思うけどな。」

「つーかラジカセなんてどっから持って来たんだよ。」


うん、ネックレスはまぁ、店内にあってもおかしくは無いだろう。

でも丹野の言う通り、ラジカセなんてどっから持って来た。

絶対店内に無かっただろ。

仮にあったとしたら、なんで置いてあったし。


「次は私だ。」

「安達、コンセプトは?」

「ズバリ『武士』だ!」


そして出て来た親方の姿は………


「武士だぜ。」

「武士だな。」

「カッコいいだろ。」


鎧兜に身を包み、刀を差した親方だった。


「いや、うん。カッコいいのは認めるんだけどな?」

「どうしてそんなもんがここに置いてあるんだよ。」

「さっきお店の人に聞いたんですけど、この前オープンした対抗店に負けないように独自性を出そうとしているそうですよ。」

「個性的って言えば何でも許されると思ってそうなラインナップだな。」

「まぁいいじゃん。面白い恰好させられるんだし。」

「そうだぜ!次のファッションを選ぼうぜ!」


楽しいファッションショーはまだまだこれからだ!


「…………俺はいつになったら解放されるんだぁ?」


親方が何か言っているが、気のせいだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る