輪ゴム
世の中には無限の可能性を秘めた存在がいくつもあると思う。
もちろん人間もその中の一つだ。
しかし人間のみならず、他の存在にも考えを巡らせると言うのも良いだろう。
この世界は可能性に満ち満ちている。
時として人が予想だにしなかった用い方で活躍する存在もある。
時として人の予想を遥かに超えて活躍する存在もある。
つまり現在使用している方法以外でも、様々な形で活躍する可能性があると私は思う。
そう、この………
輪ゴムであったとしても。
「つまり輪ゴムには無限の可能性が秘められていると思うんだ。」
「今度はどうした?ネットかなんかで割り箸鉄砲の凄いバージョンでも見たのか?」
「それだったら割り箸について語り出すと思うんだよな。」
丹野にしては惜しいとことを突いたな。
だが伊江の言う通りだ。
私がネットでとある動画を見たのは間違いない。
しかしそれは割り箸で作った鉄砲の動画ではなく、
「輪ゴムで演奏する動画を見たんだ。めちゃくちゃ凄かったぞ。輪ゴムに対して無限の可能性を感じるくらいに。」
「へぇ、でも安達。」
「なんだ伊江。」
「それは輪ゴムが凄いんじゃなくて、輪ゴムで演奏する人が凄いと思うんだよな。」
伊江は諭すように語り掛けてくる。
そんな事言われなくても分かっている。
「確かに輪ゴムで演奏する人は凄い。それは私も認めるさ。どんなものでも楽器にして演奏する天才が世の中にはいるからな。でも輪ゴムにだって可能性は秘められていると感じるんだよ。だって何かを束ねたりするのに使われている輪ゴムが楽器になるんだぞ?だったら輪ゴムにも無限の可能性があると言っても過言ではないだろう。」
私は熱く輪ゴムの可能性を熱弁する。
そう、一つの役割のみに固執して可能性を潰してはいけないんだ。
だから、
「輪ゴムの可能性を伸ばしていこうじゃないか!」
「輪ゴムだけにか?」
「「………」」
「今のは聞かなかったことにしてほしいぜ。」
丹野が何か言い出した気がしたが、気のせいだろう。
そんな事より輪ゴムだ、輪ゴム。
「輪ゴムで何が出来ると思う?」
「はい!」
「はい丹野。」
「世界平和!」
どうしよう、まったく分からない。
何がどうなって輪ゴムで世界平和がもたらされるんだろうか。
確かに輪ゴムには無限の可能性があるとは言え、過程が一切説明されずにそんな事言われても理解出来ないぞ。
「なぁ、丹野。」
「お、褒め称える言葉ならいくらでも受け付けてるぜ。」
「それはこれから先の話を聞いてからにしておこう。輪ゴムをどう使って世界が平和になるんだ?」
伊江が私に代わって自慢気な丹野に疑問を投げかける。
「そりゃ輪ゴムは何かを束ねるのに使うだろ?」
「そうだな。」
「だったら世界中の人達だって束ねる事が出来るんじゃないかと思って。」
「さっきまで寒い事言ってたと思ったら今度は急に熱い事言い出したな。」
具体性は皆無だけど言わんとすることは分かる。
さっき輪ゴムの無限の可能性を語ったのは私なのだから、人々を束ねて世界を平和に出来る可能性も信じるべきだろう。
やっぱり輪ゴムは凄いな。世界を平和に導けるんだから。
「現実的に考えたら無理だって切って捨てる事は出来るけど、世界平和ってのは実現出来りゃ最高だし、夢があって良いと思うな。」
「だろ?」
「丹野にしては良い事言うじゃないか。無限の可能性を秘めた輪ゴムなら不可能じゃないかも知れないな。」
「オレにしてはってのは余計だっての。」
大して深く考えないで振った話題だけど、まさかここまで感動的な展開になるなんて思いもしなかったぞ。
「私は丹野が挙手した時、『輪ゴムでバンジージャンプが出来ると思う』とか言い出すと思っていたけど、そんな事は無かったみたいだ。」
「いくら丹野でもそんな事は言わないよな。」
「バンジー、いけるかも知れねぇぜ。安達、やってみてくれ。」
「嫌に決まってるだろ。」
バンジージャンプなんて言わなきゃ良かったよ。
やっぱりこの男、馬鹿だ。
「なんだよ、輪ゴムの無限の可能性を信じてるんじゃないのかよ。太めの輪ゴムでやったらもしかしたら大丈夫かも知れないぜ?」
「もしかしなかったら死ぬって事だろ。そんな事を他人にやらせようとするんじゃない。やりたきゃ自分でやれ。」
「伊江。」
「絶対に嫌だ。」
「まだ何も言ってねぇだろ!」
無限の可能性とは言ったけれど、さっきとは180度変わって悪い方向で可能性を見出してるぞ。
世界平和で終わってれば私たちの中で丹野の評価は向上しただろうに、やはり丹野は丹野であったか。
しかも自分じゃなくて他人にやらせようとしてる辺り、さり気なくダメさを感じる。
私に断られた後、伊江も巻き込もうとしてるし。
「お前があのタイミングで俺の名前を呼んだ時点で何言うか予想が付くんだよな。」
「でも輪ゴムでバンジージャンプに成功したら凄くね?」
「確かに。」
「同意するな安達。話がややこしくなる。」
でも輪ゴムでバンジー成功は凄いか凄くないかで言ったら凄いし。
そもそも輪ゴムでバンジーに挑む人がいるとしたら、その人の勇気が凄いと思う。
まぁ、
「私は絶対にやりたくないけど。」
「俺もな。」
「仕方がねぇ。今回は諦めるか。」
今回じゃなくて今後一切諦めろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます