忍者2

「忍者になりたい。」

「安達、忍者とは忍ぶ者。課題に耐え忍べない君には無理です。」

「ほら、忍者飯やるからそれで我慢しな。」

「忍者飯美味い。」

「よし、静かになったな。」

「忍者になりたい。」

「静かになりませんでしたね。」


食べ物で買収されると思ったら大間違いだ。

そんなので買収されるのは沙耶くらいだろう。

それに課題は耐える物じゃないと思うから大丈夫。


「ただサボりたいだけだろ。日本史の勉強してたから忍者とか言い出したんだろうな。」

「でも忍者ってカッコいいじゃん。」

「そうですね。僕も忍術とか使ってみたいと思いますよ。」

「だろ?」

「竹塚、惑わされるな。安達の話を聞いても特に良いことないからな。」


竹塚が話に乗ってくれた。

一方、伊江は乗ってこない。これがロマンが分かる者とそうでない者の差か。


「しかし忍者の修行は過酷ですよ。」

「滝行とか?」

「影分身をしながら滝行をします。そして滝から流れ落ちて来た丸太を昇竜拳で叩き割り、割れた丸太を火遁の術で燃料にするのです。」

「マジか。私、影分身も昇竜拳も火遁の術も使えないんだけど。」

「竹塚が意味の分からないけど理解する必要もない事を言い出した。そしてその戯言を真に受ける安達。うん、いつもの光景だな。」


どれが習得難易度一番低いんだろうか。

やっぱり昇竜拳から覚えていくべきだろうか。

影分身とか火遁の術は難易度が高そうだし。

でも影分身は何が何でも使いたい。

むしろその為に忍者を志したと言っても良い程だ。


「火遁の術とかの忍術を諦めても良いから、どうにか影分身を習得したい。影分身を極めた忍者になりたいんだ。」

「影分身ですか。あの技はとても難易度が高く、修行も厳しいですよ。」

「望むところだ!」

「厳しい修行する覚悟があるなら勉強も頑張れよ。」

「よーし修行頑張るぞー。」


やっぱり影分身は便利そうだが、その分難易度も高いか。


「ところでどんな修行をすればいいんだ?」

「まず反復横跳びを半日します。」

「半日!?」

「ここで敏速性と体力が低い人間は適性が低いとされ、ふるい落とされます。」

「半日反復横跳び続けられる程体力あるなら忍者じゃなくても別のところで活躍できると思うけどな。」


反復横跳びなんて体力測定の日くらいしかやったことないぞ。

しかもあれを半日は相当キツイ。

流石は忍者、生半可な能力ではなることが出来ないのか。


「次に反復横跳びをしながら九字護身法を叫びながら印を結びます。」

「くじ………なんて?」

「九時護身法です。『臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前』って奴ですよ。」

「よくそんなの覚えてるな。」

「忍者の嗜みってやつですよ。ちなみに噛んだら最初の修行からやり直しです。」

「お前忍者じゃねぇだろ。」


竹塚の言う通り、セリフを噛む忍者とかダサすぎて破門されてしまう。

でも確かに竹塚は忍者っぽくない。主に身体能力とか。運動神経とか。


「確かに日頃、体育の時間とかに僕の動きを見ていれば忍者に見えなくても仕方がありません。しかし、いかにも忍者らしい忍者なんていないと思いますよ。忍者とは日常に隠れ潜む者なのですから。」

「つまり竹塚は実はめちゃくちゃ運動が出来るけど日頃は手を抜いて実力を隠していると?」

「あ、体育の授業では全力出して頑張ってますよ。」

「じゃあなんだ今の言い訳は。」


普段の情けないくらい運動出来なくて体力測定ではクラスどころか学年、いや学校最下位クラスの能力は目立たない為に手を抜いているだけで、竹塚が実は運動神経抜群なのかと一瞬思っちゃったじゃないか。


「実は昔、任務で怪我をしてしまい、その傷が原因で忍者を引退したんです。」

「な、なんだって!?」


竹塚にそんな壮絶な過去があっただなんて。

しかしそう考えるとこの男、一体いつ忍者をやっていたんだ?

私と竹塚は中学時代に出会ったが、その頃から運動ダメダメだったはずだぞ。


「で、本当は?」

「そういう設定があったらカッコいいですよね。」

「設定かよ!」


真剣に小学生忍者竹塚をイメージしていたぞ。

小学生って身軽だし、小柄だから潜入とか出来そうだし。

広がった夢がガラガラと音を立てて崩れ去っていった。


「竹塚のこう言う話は真に受けない方が良いからな。まぁ話の内容的に作り話以外あり得ないだろうけど。」

「それでも、それでもロマンを捨てる事は出来ないんだ!」

「安達は純粋な所が良いところですよね。」

「竹塚にそれを言われると褒められてるのか馬鹿にされてるのか判断に困るんだけど。」

「誉めてますよ。だからこれからも僕を信じて下さいね。」

「私、竹塚、信じる。」

「騙されるな安達、竹塚はまたお前を騙すに決まっているな。」


くっ、私は一体何を信じればいいんだ?

そうだ、私はいつだって自分を信じている!




「分かった。私、頑張って影分身を覚えるよ。」

「何が分かったのかが分からないんだよな。」

「影分身を覚えて分身に課題とか勉強やってもらうんだ!」

「しかもめちゃくちゃみみっちい内容ですね。」

「と言うか、分身に課題をやらせても安達の為にはならないし、分身も安達と同じような感じなら押し付け合いが始まりそうだな。」

「………課題とか勉強をやらせるんだ!」

「これは現実から目を背けているだけですね。」


ロマンを、自分を信じてるだけだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る