犬も歩けば棒に当たる

「って事があってな。災難だった。」

「なるほど。つまりは犬も歩けば棒に当たるって事か。」

「え?安達、今なんて言いましたか………?」

「だから犬も歩けば棒に当たるって事かって言ったんだよ。」


私が伊江の話に相槌を打つと、竹塚と伊江は驚愕した表情で聞き返してくる。

一体どうしたと言うのだ?

別に変な事は言っていないだろう。


「安達がことわざを使っているですって!?大丈夫ですか?どこかで頭を打ったり、いえ、実は大久保が安達の姿に変装していると言う可能性もありますね。」

「頭は打ってないし本人だよ!」

「マジか、明日は槍でも降るのか!?いや、天変地異が起きて地球が亡んだりするかもしれないな。明日が地球最後の日か。何をして過ごそうか………。」

「私がことわざを使うのがそんなにおかしいか?」


失礼が過ぎると思うぞ?

私がことわざを使用する事をそんなに驚かなくても良いだろう。


「「おかしいな(ですね)。」」

「2人とも私の事を見くびり過ぎじゃないか?」

「安達、この前の現代文と古文の小テストの結果は何点でしたか?」

「32点と20点だ。」

「俺と竹塚の扱いは妥当な評価だからな?」


テストは、ほら、私の真の実力を計りきれないから。

そんな事はどうだっていいじゃないか。


「私だって日々成長しているんだよ!」

「テレビで見たに1票だな。」

「授業………では言っていなかったので、誰かが話しているのを聞いて耳に残っていた、とかですかね?」

「自分で勉強して学んだとかは思わないのかよ。」

「安達、さっきの授業中に学んだことは?」

「睡眠は大事!」

「そう言う所だからな?」


でも睡眠は実際大事だし。

さっきの授業の事は置いておくとして、私がどのように成長したか、仕方が無いからこいつらにも教えてやろう。


「私はこれで学んだんだ!」

「『マンガで分かることわざ図鑑』ですか?」

「いやそれ小学生とかの子供向けのやつだよな。」

「甘いぞ、伊江。確かに私も最初に紹介された時はそう思った。」

「思ってんじゃねぇか。」

「と言うか紹介してもらったんですか。」






先日、図書室にて。


「ほら、安達くんにはこれなんて良いんじゃないかな?お勧めするよ。」

「は?『マンガで分かることわざ辞典』?いや、そんな子供向けっぽい本を私に勧めるなよ。」

「レベル的にはピッタリだと思うけどね。」

「なんだと!?」

「でも、こうも思わないかな?真に感性豊かで賢い人間と言うのは、対象とされる層なんて関係なく楽しみ、学びを得る事が出来ると。」

「確かに!そう言われると真に感性豊かで賢い人間としては納得せざるを得ないぞ。」

「それは何よりだよ。……………まぁ安達くんがその感性豊かで賢い人間と思っている訳ではないんだけどね。」

「ん?今何か言ったか?」

「いや、何でもないよ。気にしないで、その本を楽しんで欲しいな。」

「ありがとう、そうさせてもらうぞ。」






「って事があったんだ。」

「あぁ、そうだったんですね。その手法、参考にさせてもらいましょう。」

「安達に自発的に勉強をさせるなんて………やるな、長谷道。」


あれ?なんで私の方ではなく長谷道に対して称賛の声が上がっているんだ?

全く、素直じゃない奴らめ。


「じゃあ100円を落とした代わりに1000円を拾った事は、ことわざでなんて表現しますか?」

「『犬も歩けば棒に当たる』だ。」

「それなら運んでいた水を零してしまった事は?」

「『犬も歩けば棒に当たる』だ。」

「安達の犬、棒に当たりまくってるな。」


気のせいだろ。


「竹塚。意味。」

「はい。『犬も歩けば棒に当たる』とは元々余計な行動を起こして災難に遭う事を意味しています。しかし同時に行動をする事で幸運を得られると言う見方もありますね。」

「なんだ。やっぱり『犬も歩けば棒に当たる』じゃないか。」

「もっと別のことわざを用いて欲しかったんですけど。」

「でもほら、なんかアレじゃん。とりあえず良くも悪くも何かしらの結果が得られるなら大して変わらないじゃん。全部犬で良いじゃん。犬だって棒に当たりたいかもしれないじゃん。」

「ふわっふわで若干サイコパスっぽい事言い出しましたね。」

「サイコパス安達、略してパ達、それを言ったら大体のことわざが不要になると思うぞ。」

「誰がパ達だ。」


人に語感の良い変なあだ名をつけるんじゃない。


「でも伊江、このまま褒めて腸に乗らせることが出来れば安達の学力を上げられますよ。」

「それもそうだな。」

「ん?コソコソ話してどうしたんだ?」

「いや、安達は凄いなって話をしててな。うん。」

「おいおい、いきなりどうしたんだよ。」

「いえいえ、安達は頑張ってことわざを習得したんですよね。凄い事だと思いますよ?」

「え、そうか?」

「そうそう。」

「きっと安達ならもっと色々なことわざを習得出来るんだろうな。」

「まぁ私にかかれば楽勝だぞ。」


さっきとは打って変わって私を褒め称える竹塚と伊江。

やっと私の隠された才能に気付いたのだろうか?


「よし、良い感じだな。」

「後はこの調子に乗った状態をどれだけ長引かせる事が出来るかが肝要ですね。」


またコソコソと何かを話しているが、私を褒め称える言葉なら遠慮せず直接伝えてくれれば良いのに。

全く、素直じゃない奴らめ。

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