紙飛行機

「ふぅ、どうにか辿り着けましたね。」

「竹塚!」

「お前、無事だったのか!?」


朝、ホームルームを告げる予鈴が鳴る前の時間。

教室の扉がガラリと開き、髪や服が乱れた竹塚が入って来た。

本人も息を吐き、安堵の表情を浮かべている。


「いや、無事だったも何も






ただ風が強いだけだからな。確かに髪とかが乱れてはいるけど、別にそんなに大袈裟に心配する事じゃないからな。」


外は強風が吹きすさび、室内にいてもビュービューと音が聞こえてくる程だ。

確かに伊江の言う事も一理ある。

私達にとっては問題無い程度の風の強さだろう。

しかし、


「馬鹿野郎!竹塚の体格と体重じゃ吹き飛ばされてもおかしくは無いだろ!」

「そうだぜ!オレは窓の外で竹塚が空を飛んでいるんじゃないかって思って見てたんだぜ!」

「飛ぶ訳あるか。だから丹野は窓の外を見てたのかよ。」


今回は無事に学校まで辿り着けたみたいだけど、次も今回のような幸運が続くとは限らない。

常に油断なく窓の外を監視するのも大事な仕事と言う事だ。


「とりあえず安達と丹野のカバンに傘を括り付けて屋上から飛ばしておきますね。」

「なんでだよ。」

「酷いぜ。」

「自分の発言をもう一度思い返してみてください。」


おかしい、何も変な事は言っていないはずなのに。

たぶん竹塚は風に飛ばされそうになって不機嫌なんだろう。


「でも子供の頃って風が強い日とかに傘を差してれば空を飛べるんじゃないかって思った事あるじゃん。」

「確かに幼稚園とか小学校低学年の時なら、そんな事を考えたこともあるな。けど今は高校生だからな。」

「オレは今でも空を飛べると信じてるぜ!」

「なんでこっちを見て言うんですか。」


私は人間の可能性を信じているんだ。

飛行機だって発明出来たんだし、そのうち生身に近しい状態でも空を飛べるようになるんじゃないかって思うんだ。


「竹塚、空を自由に飛んでみたいと思った事は無いか?」

「空を飛ぼうとして不自由な生活を送る事になるのは嫌ですよ。」

「でも空の旅って楽しそうだぜ?」

「それって天国への旅路だと思うんですけど。」


しかし竹塚は頑なに拒否する。

ロマンがあって良いと思うんだけど、まだその時ではないと言う事か。

流石に現在の傘では飛行はまだ無理か。


「そんなに空を飛びたいなら紙飛行機でも飛ばしたらどうですか?」

「いやなんで空を飛びたいのに紙飛行機を飛ばすんだよ。そんな理屈でこいつらが納得する訳が………」

「紙飛行機か、悪くないぜ。」

「よし、放課後までにメッチャたくさん紙飛行機作っておこう。」

「納得するんだな。」


紙飛行機は懐かしい気持ちになれる。

子供の頃に作って以来だけど、偶にはそれも悪くなさそうだ。

風が強いし、たくさん飛ばしたい気分になって来たぞ。


「誰の紙飛行機が一番遠くまで飛ぶか勝負だぜ!」

「かつて紙飛行機の安達と称えられたかった私の実力を見せてやる!」

「強風に煽られてどこまで飛んだか分からなくなるのが関の山だと思うけどな。しかも安達は称えられてたんじゃなくて称えられたかったのかよ。」

「今日これから称えられるようになるから。」


昔の望みを今叶えてはいけないなんてルールは無い。

話をしていると予鈴が鳴ったので、話を終えて各自席に戻る。






そして放課後、私と丹野は休み時間に折った紙飛行機を持って校庭に出る。

勝負の見届け人として竹塚と伊江もそれに続く。


「よしっ!早速飛ばすぜ!なんたってオレの紙飛行機は良く飛びそうな紙で作ったんだ!」

「それなら私だって最高の素材を使って作ったんだ!勝利は間違い無しだぞ!」

「なんで紙飛行機でこんなにテンション上げられるんだよ。」


懐かしくってなんだか楽しくなってきたんだよ。

それにここでまた、私が丹野より優れていると言う事を明らかに出来るし。

ともあれ、これ以上の言葉は不要。

後は互いの作った紙飛行機で決着をつけるのみ。

私と丹野は紙飛行機を構え、


「おりゃぁぁ!」

「それっ!」


全力で飛ばす。

紙飛行機は風に乗り、通常の風速の日とは比べ物にならない程、遠くまで飛んで行く。


「かなり飛んでるぞ!これは私の勝ちだろう!」

「いや、オレの紙飛行機の方が飛んでるぜ!」

「飛ばされてるの間違いだと思うんだけど。」


細かい事は気にしないで良いんだ。

大事なのはどちらの紙飛行機が良く飛んだかどうかなんだから。

そう考えながら校庭の端の方まで飛んで行った紙飛行機を眺めていると竹塚が口を開く。


「ところで安達と丹野は早く紙飛行機の回収に行かなくて良いんですか?」

「「え?」」

「安達と丹野に渡した紙、今飛ばした紙飛行機の材料になった紙は今日出された課題のプリントですよ。」

「「マジで!?」」

「なんで気付かなかったんだよ。」


だってさっき竹塚が『この紙を使うと良く飛ぶと思いますよ』って渡してきたんだ。

渡された紙の内容なんて全然気にしてなかったんだよ。

わざわざ私と丹野の課題のプリントを回収して渡したのか。

なんて男だ。絶対に今朝の事を根に持ってるだろ。

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