ガチャ

この世の中には自身の才能、努力、周囲の協力、時の運、それらの要素が絡み合う事で成功をもたらすと言われている。

しかし、運という要素のみで結果が出る事は以外にも少ない。

何事も結果が出るのには理由という物があるのだ。

故に運のみで出せる結果は稀であるし、軽視されがちでもある。


だが、こういう見方も出来るだろう。

『あらゆる要素を排除して尚、結果を出せるほどの運を持ち合わせている』とも。

例え勉学において劣っていたとしても、運と言うステージであるならば戦えるのではないだろうか。

そして才能や努力さえ凌駕する運とは果たしてどれほどのものなのだろうか。






「見るがいい!これが私の実力だ!」

「SSRを二枚抜きですか。中々やりますね。」


そう、私は竹塚に勝てる要素を見つけてしまった。

以前は運の良さを競う戦いでじゃんけんを選択した結果、惜しくも敗れ、竹塚には『じゃんけんは頭脳戦』と言われたあの時から考えていた。

『純粋に運のみで勝負出来る事はないのだろうか?』と。

そして遂に究極の結論に至ったのだ。


「ソシャゲのガチャなら運のみで戦う事が出来る。そして最高レアのSSRを、二枚も引き当てる事が出来る私の運は竹塚よりも数段上だろう。」

「でも安達。スクリーンショットでは一回目にSSRを引き当てたのか、何回も回して引き当てたのか分からないですよね。もしかしたら二枚抜きするまで回した可能性もありますし。」


なるほど。確かにガチャを回す瞬間を見せた訳ではないから疑われても仕方がない。

しかし本当に一回目の十連ガチャでSSRを出したのだが、どう証明したものか。


「そうですね。僕のやっているソシャゲでガチャを回して見て下さい。」

「竹塚の?」

「はい。これですぐにSSRを引き当てる事が出来たら認めざるを得ませんから。」


目の前でガチャを回し、結果を出すのは良い証明になるだろう。

でもこの前SSR二枚引いて運を使い果たしたんじゃないかとも思うと若干の不安が……。


「あ、自信が無いなら別に大丈夫ですよ。何回も何回も挑戦したとはいえSSRの二枚抜きは凄い事だと思うので。」

「何を言い出すかと思えば。自信?そんなものいつだって常備してるし。むしろ家に忘れてもすぐに気づいて取りに帰るくらいには自信を持ち歩くのが当たり前って感じだし。」


不安?そんなもの今朝の燃えるゴミと一緒に捨てて来た!


「よく目をかっぽじって見ておけよ竹塚!」

「かっぽじるのは耳ですよ。目は見開くものです。」

「茶々を入れるんじゃない。いくぞぉ!」


カッコ良く決めようと思ったら言葉を間違えた。今のは無しだ。

気を取り直してスマホの画面をタップする。

ガチャを回し、画面では虹色の回転が描かれる。


「おぉ!これは確定演出ですね。」

「お、マジか。」


そして無事、SSRを引き当てる事に成功した。

が、


「でも一枚だけなんですね。まぁ二枚抜きなんて滅多にないので安達でも無理があったって事ですね。」

「おいおい、冗談は休み休み言ってくれ。今のは準備運動だ。」


竹塚は一枚しかSSRを引けなかったので煽ってくる。

私がいつ本気でガチャを回したと言った?


「そぉい!」


もう一度だ!


「またしても虹回転!」

「さて、結果は…………SSR二枚抜き!」


これには竹塚も私の強運を認めざるを得まい。

我ながら自分の運が恐ろしいくらいだ。


「………でもさっきと被ってるんですよね。あぁいえ。流石は安達です。被りとはいえ、被りとはいえSSRを二枚抜き。流石ですね。」


ボソッと、しかし確実に私に聞こえるように被っていると言ってきたぞ、この男。

被りは実質一枚とでも言いたいのか?

良いだろう。


「ここからが私の本気だ!」

「確定演出、は来ないですね。」


運を使い過ぎたか?

遂にSSRが来なくなってしまった。

と言うか、さっきまでが調子が良過ぎたんだと思う。


「まぁ、被ったとはいえ、連続で、しかも二回目は二枚抜きは凄まじい豪運と言えるでしょう。」

「そうだろう。これなら竹塚も真似出来ないだろう。」

「はい。今度からガチャを回すときは安達に頼みますね。」


いくら頭が良くてゲームが強くても、この運は賞賛せざるを得ないようだ。

この敬意の篭った視線、最高だ。

しかしあまりに素直な竹塚に何か違和感を覚えるぞ。


「なぁ、竹塚。私は今回運の良さを自慢した。」

「そうですね。」

「でもなんか竹塚に利用されたような気がするんだけど。」

「そ、気のせいですよ。」


今絶対『そうですね。』って言いそうになっただろ。咄嗟に誤魔化しても最初の『そ』は聞こえていたからな。


「安達、考えて見て下さい。僕は普段、君に勉強を教えているじゃないですか。お互い持ちつ持たれつですよ。」

「それもそうだな。これからもよろしく頼む。」

「こちらこそ。」


お互いの利益の為に協定が締結された。

私と竹塚は熱い握手を交わし、笑みを浮かべた。

これも友情の一つの形、か。


「でもSSRを引けなかったら課題には協力しないので。」

「え?」

「お互いに持ちつ持たれつなんですから当たり前ですよね。」

「え?」




訂正。ここにあったのは友情じゃなくて損得の勘定だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る