受験勉強

ある日の休み時間。


「そういや、安達と丹野ってどうしてウチの高校に入れたんだ?定員割れとかもしてなかったはずだしな。」

「めっちゃ頑張った。」

「実はスポーツ推薦だぜ。」

「嘘つけ。」


伊江は私と丹野に『何故入学出来たのか』と問う。

見え透いた嘘をついた丹野はともかく、なんで私の努力まで嘘扱いされなくてはいけないのか。


「嘘じゃないから!竹塚に勉強を見てもらってめっちゃ頑張ったんだよ!」

「気分的にはスポーツ推薦だぜ。なんか知らないけど、推薦で面接受けて部活で頑張ってた話をしたら受かったから、実質スポーツ推薦だぜ。」

「安達がめっちゃ頑張る姿も、丹野が面接で受かったって言うのも、普段の姿を見てると信じ難いんだよな。」


いや、むしろ入試で全力を出し過ぎた結果、入学後は力尽きて自由にやっていると言う考え方は出来ないだろうか?

と言うか、丹野が推薦を貰えた事に驚きなんだが。

むしろそれすらも嘘なのでは?

しかし私ですら苦労した入試を丹野が突破出来るとも思えないし、何らかの、人生で1度起こるか起こらないかのレベルの奇跡が起こった結果、推薦で入学出来たと考えれば、まだ納得できる、のか?






2年前。


「安達、本気ですね?」

「あぁ。」

「それならあたし達も協力するけど、泣き言は聞かないわよ。」

「本気ではあるんだけど、お手柔らかに頼む。」


竹塚は俺に真剣な表情で尋ねる。

もちろん本気だ。本気で入試の為に勉強しよう。

でも沙耶は腕組みをして『泣き言は聞かない』と言うが、集中力が尽きた瞬間に喝を入れたりするのは勘弁してくれよ?

痛みで勉強どころではなくなるから。


「では安達が入試に受かる為に何をするかですが………。」

「…………。」

「まず前提としてテストに出そうな範囲を全部詰め込むの効率が悪過ぎます。そもそも基礎学力が低すぎるので、今更地力を少しばかり伸ばしたところで期待が出来ません。」

「今まで適当にやって来たツケね。先生にも日頃から真面目に勉強しろって言われてたのに。」

「うぐっ、それは、そうなんだけど………。」


竹塚と沙耶に厳しめな評価をされるが、事実なので何も言い返せない。

今までは真面目に授業を受けていなくても、竹塚にテスト前の一夜漬けを手伝ってもらったりしてどうにかなって来たから、そこまで必死にならなかったが、今回はそうもいかない。


「ですので出題範囲を予想して、ヤマを張ります。」

「でも学校の試験なら今まで見たいに対策出来るかも知れないけど、入試の出題範囲ってそんな簡単に予想できる物なの?」


沙耶の言う通り、何の情報も無しに入試の出題範囲を予想するなんて、いくら竹塚でも無理があるだろう。

しかし竹塚はチッチッと指を振り、薄く笑みを浮かべる。


「そこは心配無用です。僕は安達や入屋と違って先生方からの評判は良いので。」

「ちょっと、なんであたしが敦と同レベルに並べられてるのよ。」

「いや、沙耶は近隣の不良とかをボコボコにした結果だろ。」

「悪い事はしてないじゃない。むしろ不良を更生させられない大人に問題があると思うわよ。」


そう言う所だと思うんだけど。

いや悪い生徒ではないんだろうけど、我が強いから扱いに困るとかだろう。

まぁ教師受けが良いだけの沙耶なんて想像も出来ないし、そんな窮屈な振る舞いしてほしくないけど。


「話を戻しますよ。先生からの評判が良いと言う事は信頼されていると言う事です。なので有益な情報が会話の中でポロっと零れる事が結構あるんですよね。」

「つまりその情報から出題範囲を予想するって事?」

「流石は竹塚だ。これで受かったも同然って事か。」


本当に頼もしい男だ。

俺では先生と会話するよりもお説教される事の方が圧倒的に多いから、そんな情報は獲得出来ない。


「いえ、安達は普通に努力して下さい。予想出来ると言っても確実という訳ではありませんし、さっきも言ったように基礎学力が低過ぎるので、予想した範囲をしっかりと抑えられるように勉強する必要があります。」

「げぇ、マジか………。」

「当たり前でしょ。予想だけしたところで対策の勉強をしてなきゃ受かる訳ないじゃない。」


くっ、やっぱり努力しないとダメか。

まぁ最初から努力はするつもりではあったけど、いざ楽が出来る選択肢が提示されると気が緩んでしまう。

そんな事を考えていると、竹塚がある質問をする。


「でも安達、どうして東高校を選んだのですか?君の学力ではこうして嫌いな勉強をする必要があるのに。」

「竹塚は東高に行くんだろ?今みたいに一緒の学校に通って、遊んだり、くだらない話をしたいし、それなら頑張るしかないじゃん。それを言ったら沙耶だってどうして東高を選んだんだよ?」

「あのね、あんたを放っておいたらどんな暴走するか分かったもんじゃないでしょ。しっかり首根っこを掴んであげないと。」

「そのまま首をポキッと折られそうで怖いんだけど………。」

「ならそうならないように気を付けて行動する事ね。」

「竹塚!高校でも俺を暴君から守ってくれ!」

「誰が暴君よ!」

「あはははははは!」


面倒臭いと言えば面倒臭いけど、楽しい高校生活の為に、久しぶりに頑張るしかないか。

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