料理マンガ

「頑張れ、親方!諦めるな!親方なら出来るはずだ!私は親方を信じているぞ!」

「梅嶋、期待してるわよ。」

「面白い結果が出る事を信じているよ。」


私と沙耶、そして青井は親方を応援する。


「うおぉぉぉぉ!」


親方はそれに応えんと気合を入れる。






30分前。


「なぁ、親方。」

「なんだぁ?」

「料理物の漫画とかでさ、美味い料理を食べた時に描かれる凄いリアクションってあるじゃん。」

「そうだなぁ。光り輝いたり、服が弾け飛んだり、若返ったり、筋肉がモリモリになったり、その料理の発祥の地が脳裏を通り越して背景に浮かんだり、現実じゃあり得ねぇようなリアクションが描かれるなぁ。」


そう、料理マンガと言えば凄いリアクション。

それを見るとマンガに描かれている料理に興味が湧く。

同時に、それほどまでのリアクションを取れるような美味しい料理が食べてみたいと思うのだ。

そして、私の前には料理の達人である親方がいる。


「そこでだ、親方。」

「おい、まさかたぁ思うが………。」

「流石は親方、話が早い。」


そうなれば親方に振る話はただ1つ。

親方も話の流れから察してくれたみたいだが、それでも敢えて言わせてもらおう。


「そのまさかだ。料理マンガで登場するようなリアクションが取れる料理を作ってくれ。」

「今さっき『現実じゃあり得ねぇような』って言ったばっかりだろぉがよぉ。」

「それでも、それでも親方なら奇跡を起こしてくれるって信じてる………!」


そもそも、とても高校生とは思えない風貌の親方が現実じゃあり得ないなんて言っても説得力が無いぞ。


「とりあえず親方が料理人役で私が審査員役だ。」

「もうやるのは決定してんのかぁ。」


当たり前だ。

美味しい料理………ではなく親方の実力を信じているからな。


「でも審査員が私だけだと物足りないと思うし、もう1人、2人くらい審査員役でも探すか。」

「あら、あたし達だけでも十分じゃない?」

「沙耶!?いつの間に!?」

「美味しそうな話の気配がしたのよ。」


審査員役を探しに行こうとしたら、いつの間にか私の隣に沙耶がいた。

話しだけで気配を察して来るとか、それは最早食いしん坊の域を超えているぞ。


「もちろん材料費は折半するわよ。」

「と言うかガッツリ食べそうな雰囲気だけど、あんまり食べ過ぎるとまた体重計が壊れてるとか騒ぐ羽目になるぞ?」

「もちろん余計な事を言う敦は折檻するわよ?」

「何でも無いです。」


事実を言っているだけなのに握り拳を作るのは止めて欲しい。


「それにさっきまでプールでかなり泳いだから、カロリーだってかなり消費してるはずよ。」

「カロリーを消費する為に泳ぎまくるのは良いんだけど、結果的に消費したカロリーよりも摂取したカロリーの方が多かったら意味ないと思うぞ?」

「折檻してほしいみたいね。」


しまった!また正直に事実を言ってしまった!


「待ってくれ!私が悪かった!だからその振り上げた拳を降ろしてくれ!ほら、ここは親方の料理に免じて、な?」

「つまりは俺が料理を作らなけりゃあ、安達が折檻されるって訳かぁ。」

「親方、私の命の為にも頑張ってくれ!」


それでも親方の渾身の料理を献上すればきっと許されるはず。


「安達、安らかに眠れぃ。」

「親方!?」


それなのに親方はこちらを向いて合掌する。

なんで躊躇いも無く私を見捨てるんだ。


「親方、頼む!料理マンガみたいなリアクションが取れる渾身の一品を作ってくれよ!」

「面白そうな話をしているね。」

「青井!?」


親方に懇願していると青井が教室のドアを開いて現れた。


「食べると光り輝いたり、服が弾け飛んだり、若返ったり、筋肉がモリモリになったり、その料理の発祥の地が脳裏を通り越して背景に浮かんだりする料理を作ってくれるんだって?」

「無理だって言ってんだろぉ。」

「それはどうかな?」


親方は無理だと語るが、青井は不敵な笑みを浮かべる。


「身体が発行する薬があるんだけど。」

「マジで!?」

「副作用として効果時間中は失明するよ。」

「んなもん料理に入れられっかぁ!」


とんでもない物を提示してきた。

なんでそんな変な代物を開発してるんだよ。


「若返る薬があるんだけど。」

「流石にそれは嘘でしょ。」

「肌年齢が。」

「それでも十分スゲェんじゃねぇか?」


まぁ、光る代わりに失明する薬よりはまともだ。


「筋肉がモリモリになって、結果的に服が弾け飛ぶ薬もあるよ。」

「とんでもないモンスターを作ろうとしてないか?」

「ただし厳しいトレーニングメニューをこなさないといけない。」

「それプロテインよね。」


前半を聞くと恐ろしい生物を作るマッドサイエンティスト感があるけど、後半を聞くとただのインストラクターになったぞ。


「料理の発祥の地が脳裏に浮かぶのは今はまだ無理だね。」

「今はなのか………。」

「結局のところ、今は出来ないだけで、もしかしたら出来るようになるかも知れない。否定して可能性を狭める事は私の主義に反するからね。」


青井………!

それでこそただ1人で科学部を立ち上げて好き勝手やっている青井だ。


「青井、お前良い事言うな。親方、聞いたか?無理だって否定してたら真に美味い料理なんて作れないんじゃないか?」

「分かったよぉ。やるだけやってみるが、期待はすんなよぉ?」


親方は呆れながらも調理室へと向かう。

表情こそ呆れ顔であったが、その背中は挑戦する人間の熱意が宿っているかのように感じられた。






「うおぉぉぉぉ!」


そして現在に至る。

まぁどれだけ応援しても結果は普通に美味い料理で終わったけど、それでも皆、満足気な表情をしていた。

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