宇宙人
「なぁ、宇宙人ってどんな見た目をしてるんだろう。」
「唐突ですね。いえ、生物の授業で脇道に逸れた時に進化論の話が出ましたし、全く無関係では無いのかも知れませんけど。」
「やっぱアレだろ。真っ黒い肌にムッキムキの筋肉、それから触角を生やして『じょーじじょーじ』言ってるはずだぜ。」
「某マンガの影響をかなり受けていますね。」
「でも宇宙は広いし、いてもおかしくは無いんじゃねぇか?」
「いたらいたで大分ヤバいんだけど。」
そいつ、マンガの中で大暴れしてた気がする。
現実にいたら宇宙進出なんて夢のまた夢、どころか地球が危ういぞ。
「一昔前はタコみたいな見た目にレーザー銃を持ってUFOを乗り回してるイメージだったみたいですね。」
「あぁ、なんか見覚えがあるな、それ。」
「後は背が低めでヒョロヒョロの体型、禿頭にデッカイ目玉、なんか両サイドに黒服の人間がいる画像を見た事あるぜ。」
「え!?やっぱり宇宙人ってマジでいるの!?」
「たぶんグレイの事を言っているんですよね。それの元ネタは映画だった気がしますよ。」
「なぁんだ、作り物かよ………。」
「世の中の宇宙人関連の画像とか動画なんて9割は作り物とかやらせだと思いますよ。」
「だよなー。」
ん?9割?じゃあ残りの1割は?
………いや、世の中には不思議な事なんて沢山あるんだし、もしかしたら本当に宇宙人だっているかも知れないんだから1割を残しておいてもおかしくは無いだろう。
「あ。」
「竹塚?」
「ちょっと宇宙からの通信を受信したので席を外しますね。」
「竹塚!?」
竹塚が短く呟くと、何やら宇宙だの通信だのと言いだして教室から出て行った。
え?お前がその残り1割なのか!?宇宙人なのか!?
「おいおい、マジかよ。」
「なぁ、安達。どうする?」
教室から出ていく竹塚を私と丹野は茫然と見送り、少しして2人で顔を見合わせる。
その後、丹野が何かを聞いて来るが、一体どういう事だ?
「どうするって、何がだよ。」
「もしも竹塚が本当に宇宙人なら、なんかこう、研究施設的な所に差し出したらいっぱいお礼が、じゃなくて世界の謎を1つ解明出来るんじゃないか?」
「丹野、お前………」
確かに宇宙人の存在を知り、どのような存在なのかを理解することが出来れば、人類は大きく進歩する事が出来るかも知れない。
それに、一瞬漏れた本音のお礼、賞金的な物を貰えるだろうと言うのも理解が出来る。
しかし、
「馬鹿野郎!そんな事の為に友達を売れるかよ!私は竹塚が宇宙人で有っても無くても友達なんだ!」
「安達………!」
友達を売るなんて、もっての外だ。
そんな奴は真に友情を育んできたとは言えないだろう。
それを聞いた丹野はハッとして自分の愚かな発言を悔いると共に、私に感心している。
それに………
「なによりも、竹塚を売ったら誰が私たちの課題を手伝ってくれるんだよ!なんだかんだ言って、あいつが一番頼りになるんだよ!」
「安達………。」
私達にとっての頼みの綱を自ら手放すなんて馬鹿な真似をする訳が無いだろう。
それを聞いた丹野は、何故か落胆したように残念なものを見る目でこっちを見ている。
少なくとも友達を売ろうとしたお前よりは残念じゃないから。
だからそんな目でこっちを見るな。
見るなら鏡を見ろ。
そんな話をしているとガラリと教室の扉が開き、外に出ていた竹塚が戻ってくる。
「それでこそ安達ですね。」
「竹塚!」
「安達の友情、…………友情?に免じて地球侵攻軍の作戦計画は凍結しましょう。」
「「地球侵攻計画!?」」
なんかサラッと恐ろしい計画が聞こえて来たんだけど。
あと私の友情を疑うんじゃない。
助け合い、信じ合うのが友達だろう。
ともあれ、私の友情によって地球は危機を免れたようだ。
「でも僕を売り渡そうとした丹野は………」
「いや待ってほしいぜ!冗談に決まってるだろ!オレが竹塚を売る訳がねぇぜ!安達もなんか言ってやれ!」
「竹塚、丹野って最低だよな。こいつだけ地球侵攻軍に引き渡した方が良いんじゃないか?」
「安達!?」
丹野が弁明をしようとするが、竹塚を売ろうとしたのは事実だし、別に私が弁護する必要は無いだろ。
そんな訳で丹野を見捨てる発言をすると、丹野は捨てられた子犬のような目でこちらを見て来た。
諦めて素直に謝れよ。
「そうですね。丹野、僕を売ろうと言う事は、課題をやる時にはもう僕の手助けはいらないと言う事ですよね。」
「いる、めっちゃいる。いらない時なんて無いくらいだぜ。」
「えー、ほんとですかぁ?」
「マジ、超マジ。あー、なんか急に今までの感謝の気持ちを伝えたくなってきたぜ。ファミレス行かね?奢るぜ?」
「良いんですか?」
「もちろんだぜ。」
「マジか、ありがとう。」
「安達!お前には言ってねぇ!」
いやぁ、ラッキーだ。
丹野に飯を奢ってもらえるなんて。
「まぁ実際に宇宙人がいるかと言われたら、いるんですけどね。」
「「え?」」
「さぁ、行きましょうか。」
「竹塚?………竹塚ー?」
「マジで?え、マジで!?」
あまりにも自然な、当然と言いたげな語り口に、嘘なのか、本当の事なのか、冗談なのか、真実なのか、分からなくなる。
言うだけ言って一足先にスタスタと歩き出す竹塚を私と丹野は慌てて追いかけるのであった。
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