死にゲー

「くっ………!」

「力が欲しいですか?」

「竹塚!」

「力が欲しいですか?」


絶望の淵に瀕した時、竹塚は問いかけて来た。

あぁ、欲しい。欲しいさ。

私は黙って首を縦に振り、竹塚はゆっくりと口を開く。


「でもダメです。自力で頑張って下さい。」

「竹塚ぁ!」


それなら聞くな!

なんで聞いた!

期待しちゃっただろ!


「1度言ってみたかったんですよね。『力が欲しいか?くれてやる!』的なセリフ。」

「断ったじゃん。改変したじゃん。それなら最後まで、『くれてやる!』の部分まで言えよ。」

「お断りします。」

「頑な。」


迷いも躊躇いもなく言い切ったぞ、この男。


「課題だったら力を貸してくれるのに、どうしてこのゲームでは力を貸してくれないんだよ。」

「それはそのゲームがシングルプレイ専用のゲームだからですよ。」

「それならせめて攻略情報とかコツとか、何かしらの知恵を貸してくれても良いだろ?」

「お断りします。」

「なんでだよ!」


腕をクロスさせてバツのジェスチャーをする竹塚。

どこまでも徹底して力を、知恵を貸すことを拒んでいる。


「だってそのゲームは死にゲーですからね。」

「うん、そうだろうな。開幕2秒で残機が1減った瞬間に理解したよ。」


こんな短時間で残機が減るゲームが普通のアクションゲームな訳が無い。

死にゲーって理解して心の中で『こいつ………!』って思ったよ。


「そもそもどうしてそんなゲームをさせようと思ったんだよ。普段は一緒にプレイ出来るゲームをやってるのに、今日に限って。」

「それはですね………。」

「それは?」

「安達が苦戦して苦しんで疲弊していく姿を見たかったからですよ。」

「自分の欲望に正直。赤頭巾ちゃんに登場する狼だってもう少し言い訳するぞ。」

「予想通りとても楽しい。」

「稀に見せると言ってもいいレベルの笑顔で碌でも無い事を言うんじゃない。」


そんなに楽しいのか、私が苦しむ姿を見るのが。

いや、竹塚だから普通に楽しんでそうだな。


「と言うか、もう残機が1しかないんだけど。」

「そうですね。でもこのステージの最初の方は問題なく進んでいるじゃないですか。」

「残機が1になるまで死んだからな。………あっ。」


話しながらプレイしていると、うっかり穴に落ちそうになる。

どうにかギリギリで低い地面に着地する事は出来たが、段差の上に乗りあがるためにジャンプすると、ブロックが出現して段差に上がれない。

位置を変えてジャンプしても結果は同じだった。

最終的には頭上の全てに復帰を妨害するブロックが出現した。


「竹塚、詰んだ。出れない。」

「力が欲しいですか?」

「竹塚、出られないからゲームも終わらないんだけど。」

「力が欲しいですか?」

「…………欲しい。」

「では今回に限り、この状況を打破する知恵を授けましょう。」


さっきまでは絶対に知恵を貸さないと言う姿勢だった竹塚が、ここに来て初めて協力的な姿を見せた。

まぁ流石に出られないなんてなったら進むも退くも出来ないし、仕方なくと言った感じだろうけど。


「キャラクターの頭上にはブロックが出現してしまい、正規のルートには戻れませんよね。」

「あぁ、だから出られないんだ。」

「そこで左に注目して見ましょう。」

「左?穴があるけど、どうせ落ちたら死ぬ奴だろ。」

「その穴に入ってみましょう。」

「本当に大丈夫なんだろうな?」


竹塚を信じ、穴に飛び込むが、


「…………いや死んだんだけど!」

「はい。」

「『はい。』じゃない。さっき『この状況を打破する』って言ったじゃん。」

「打破するとは言いましたが、生還するとは言っていませんよ。そもそもあそこに落ちた時点で飛び降りる以外の選択肢はありませんでしたから。」

「これでゲームオーバーか。」


たった今、自殺したことで残機は0になり、ゲームは終わりを告げる………


「………あれ?残機が0だけどリスタートした。あぁ、これがほんとに最後のチャンスって事か。勘違いしてたぞ。」

「さぁ、気を取り直して頑張って下さい。」


かに思われたが、まだチャンスはあった。

終わってはいなかったのだ。


「せめて最初のステージくらいは突破したいところだけど………。」

「ことごとく初見殺しの罠に嵌ってくれて、実に素晴らしいですね。」

「回避できる訳ないだろ、あんなの。製作者の悪意を感じまくって、ムカつくのを通り越して疲れて来たぞ………。」

「あ、心が折れちゃいましたか?無様に諦めますか?それなら仕方が無いですね。第1ステージすらも突破できずにゲームを投げ出しても、咎めたりはしませんよ。」

「は?少なくとも残機が無くなってゲームオーバーになるまでは諦めないが?」


しかし疲労は蓄積し、数々の罠は精神に確実にダメージを与えていく。

その事をボソリと零すと、竹塚はニヤニヤとした笑みを浮かべて私を煽ってくる。

私がいつ諦めると言ったんだ?

どうせ残機も無いし、これで最後なのだから、せめて諦めずに戦うに決まっているだろう。


「おっ、さっき引っかかった所も突破しましたね。」

「もう自殺なんてしないぞ。…………ん?なんだ、これ。変なオブジェクトがあるぞ。」

「あぁ、それはチェックポイントですね。ここを通過すると、次に死亡した時にチェックポイントからリスタートできるようになるんですよ。」

「怪しい………。何かの罠がありそうだ。それにリスタートできるようになるも何も、これが最後の残機だろ。意味ないじゃん。」

「安心して下さい。チェックポイントは罠じゃないですよ。死んだりもしません。これは本当です。」

「………どうやら本当みたいだな。」

「疑り深いですね。」


どうやら珍しく普通の助言だったようだ。

しかし、


「あっ、死んだ!今度こそゲームオーバーか…………。」


チェックポイントを通過して進んで行くが、遂に罠に引っかかって死んでしまう。

しかしこれでようやく長かった戦いも終える事が出来るのか。


「え?」

「え?」


なんか画面に表示される残機が1になったんだけど。

いや、よく見ると横棒が追加されてる。

つまりは………


「残機がマイナス1?」

「そういう事です。」

「普通そんな事ある?」

「普通かどうかはさておき、このゲームではありますね。」


マジかよ!?

普通はアクションゲームで残機が無くなったらゲームオーバーだって思うだろ。

驚愕していると竹塚はニコニコしながらポンと私の肩を叩き、


「良かったですね、安達。まだまだ沢山遊べますよ。」

「え、私もう疲れたんだけど。」

「さぁ、チェックポイントまでは進んだので、今回はそこからリスタート出来ますよ。ゲームオーバーになるまでは諦めないんですよね?」

「………ちなみにこのゲームって、残機が幾つになったらゲームオーバーなんだ?」

「さぁ?少なくとも僕は残機がマイナス100を超えてもゲームオーバーになった記憶は無いですね。」

「…………嘘だろ?」


地獄へと突き落とされた。

割と真剣に諦めたくなってきたが、さっき諦めないと反論してしまった手前、投げ出すわけにもいかない。

………もう勢いで進むしかないだろう。

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