パトカー

親方と帰宅している時、眼前からは危機が迫っていた。

それをいち早く察知した私はすぐさま行動を起こす。


「ん?マズい、隠れろ親方!」

「は?一体何だってんだぁ?おい押すなよぉ。」

「………よし、やり過ごしたな。」

「だから一体何なんだよぉ?」


何だも何も、親方には見えなかったのだろうか。

さっき通りすがったあの色、あの形、あの存在が。

いくら何でもそれは無警戒過ぎるだろう。

親方にはしっかりしてもらいたいものだ。


「パトカーが通り過ぎたんだよ。危ないところだったぞ。」

「安達、別に俺は何も………」

「良いんだ。言わなくたって分かってるって。私は決して友達を売るような真似はしないから安心してくれ。」

「勘違いが酷過ぎて安心できねぇんだよなぁ。」


確かに国家権力を甘く見ているのではないか、自分の実力を勘違いしているのではないか、と言われれば私の発言は安心できないかも知れない。

しかし、それでも友達を守ろうとする心だけは否定できないのだ。


「親方の事だから危険薬物を取引している現場を目撃してしまい、正義感に従って売人を殺ってしまった。しかし、その取引をしていた売人は警察の上層部ともズブズブに関りがあった為、追われているんだろう?」

「違ぇからな。」

「そしてもしも捕まってしまったら警察と売人の関係性を知る人物だから秘密裏に消されてしまうんだろう?

「違ぇからな。」

「大切な友達にそんな無惨な結末を迎えさせるわけにはいかない!絶対に皆で「話を聞けってぇの。」痛いっ!」


親方にチョップで話を遮られる。

これでも手加減してもらったのであろう。

本気でチョップされていたら、それはもうグロテスクな光景が広がっていただろうから。

でも、もう少し優しく話を止めてくれても良いと思うんだ。


「俺は別にそんなヤバそうな案件なんざ関わってねぇし、警察にも追われてねぇってぇの。」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫だから心配すんなぁ。それに昔は警察とかパトカーにだって憧れてたくらいだぜぇ。」

「え?やっぱり逮捕される事が………冗談なので頭上に構えた手を下げてくれ。」

「ったくよぉ。子供だったら一度くらい憧れるもんだろぉ。」


まぁ確かに子供心に警察ってカッコいいイメージがあったし、将来なりたい職業でも結構上位に入ってた気がするけど。

でも親方は見た目的に捕まる方がイメージに合ってるんだよ。


「俺はむしろ、おめぇが将来何かしらやらかして捕まんねぇかが心配だがなぁ。」

「なんで!?私は品行方正、真面目で模範的な学生じゃないか!一体どこに捕まる要素があると言うんだよ!」

「それ本気で言ってんのかぁ?」

「5割くらい。」

「半分も本気なのかよ。日頃職員室に呼び出される常連として自分の事を見直すことを進めるぜぇ。」


親方からの評価がおかしい。職員室に呼び出される=ダメな学生ではないと思うんだ。

私は優れた発想力と行動力を発揮しているだけなのに、何故か呼び出されているだけなんだ。

だから見直す必要はないかな。うん。


「おめぇも悪い奴ではないんだけどなぁ。頭以外。」

「頭も悪くはないだろ。」

「この前のテスト、一番良い点数で何点だった?」

「テストで私の頭脳は計りきれないと思うんだ。」

「日頃の授業態度からも悪くない頭脳って奴は見えねぇんだよなぁ。」


それは、ほら、アレだよ。アレ。

『能あるなんとかはなんとかかんとか』ってやつだ。

いつだって全力投球で生きる奴もカッコいいとは思うけど、私は何かあるまで力を温存しておくタイプだから。


「でも頭が悪いからって警察には捕まらないだろう。」

「頭が悪いから捕まるんじゃなくて、頭が悪いから悪い事をして捕まるんだろうってぇ理屈だよぉ。」


確かに。でも私も流石に法に触れるような事はしないから。

法律とか全然知らないけど。

憲法とか刑法とか民法とか政令とか色々あり過ぎるから仕方ないよね。


「まぁ俺は竹塚達ほど協力はしてやれねぇけどよぉ、勉強するんだってんなら多少なりとも協力はするぜぇ。」

「親方…………!ありがとう、3年になったら本気出す。」

「そこはせめて明日からだろぉ…………。」

「まぁ進学なり就職なりする時には頑張らざるを得ないだろう。高校入学の時も中3で全力出したし。」

「おめぇ、日頃からもっと勉強してりゃ………。いや、こいつはケツに火が付かねぇと努力しねぇタイプだったなぁ。」


必要に応じてってやつだ。

いつも全力出してたら疲れてしまうし。

それにしても、


「親方ってガタイが良くて腕っぷしが強いし、面倒見も良いし、結構警察に向いてると思うぞ。家業を継ぐのも良いけど、今から警察を目指してみるってのも良いんじゃないのか?」

「昔は確かに警察って職業に憧れもあったぜぇ。けどよぉ、俺は悪い奴を捕まえて人の役に立つよりも、美味い飯を作って人の役に立つ方が良いんじゃねぇかなぁって思ったんだよぉ。」

「お、親方…………!」


圧倒的な器のデカさと言うか、人間性ってものを見せつけられた気がする。

これが、この見た目にも関わらず皆から慕われる親方の生き様なのか。

なんて大きな背中なんだ。物理的にも、精神的にも。




「私も親方を見習うよ!」

「おう、どう見習うかは分からないけど、まぁ頑張れや。」

「頑張って自分を貫いて、振り返らずに我が道を突っ走るよ!」

「雰囲気的には応援する空気なんだろうけどよぉ、日頃の言動から考えると立ち止まって振り返ってみろって言いてぇんだけど。」


よーし、親方を見習って頑張るぞ!

なんか隣から「免罪符」とか聞こえて来た気がするけど、きっと気のせいだろう。

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