桃太郎
「川から桃が流れてこないかな。」
「流れてくる訳ねぇだろ。昔話と現実は違うからな。」
「そもそもどうして桃が流れ来ることを期待してるんですかね。」
「桃でも食べたいんじゃないの?まぁ桃は美味しいし、あたしも食べたいわね。」
「いや私は沙耶みたいに食い意地の………なんでもないです。美食を追い求めるのは悪い事じゃないです。とにかく私は食を目的として桃が流れてくることを期待している訳じゃないんだよ。」
願望をポロっと零すと伊江に即否定された。
言い切る事は出来ないぞ?誰かが落っことしてしまったり、上流に桃の木があったら流れてくるかも知れないじゃないか。
竹塚に理由を問われるが、沙耶の予想は外れだ。
その事を言おうとしたら余計な事まで言いそうになって沙耶に睨まれる。
その鋭い目つきで睨まれては謝罪をせざるを得ない。
即座に撤回して話を続ける。
「まぁ桃が食べたいなら買えば良いだけですからね。」
「いや、安達の事だから『桃太郎の入ってる桃はどんな味か気になって仕方ない』とか言い出すかもしれないぞ。」
「そこまで猟奇的じゃないから!桃太郎の入ってる桃を食べたいって結構ヤバい発想だと思うぞ。」
「…………そうかしら?言われてみると、ちょっと気になるわね。」
「…………とにかく話を続けよう。」
「何よ、今の間は。言っとくけど、桃太郎ごと桃を食べたいって訳じゃなくて、桃太郎が入っていた大きな桃を食べてみたいって事よ。」
沙耶。その発想はどっちにしろ呆れられると思うぞ。
桃太郎ごと食べてみたいと言うのも相当ヤバいが、赤ん坊が入っていた桃を食べてみたいという発想も結構危ないと思うぞ。
「川から流れてくる桃には桃太郎が入っているだろ?」
「昔話だったらそうだな。昔話だったら。」
「現実で赤ん坊が入っていたら通報ものですけどね。」
「それはそうだけど、今は頭をファンタジーにしてくれ。」
「頭ファンタジーってなによ。」
「昔話をベースに考えて話を聞いてくれ。」
「頭クレイジーって事か。」
現実的に考えるとヤバいからファンタジーな感じで、昔話的な感じで受け入れて欲しかったが、それを頭クレイジーって言うのは止めろ。
「とにかく、川から流れて来た桃には桃太郎が入っていた訳だ。」
「そうですね。」
「で、桃太郎が大人になると鬼退治に行く訳だ。」
「鬼なんていないだろ。」
「伊江!頭昔話!」
「そうだな。鬼退治鬼退治。」
昔話基準で考えろと言った傍からこの男は。
それに現実でも鬼みたいな奴ならいるだろう。
比喩表現だけど。
「で、鬼を退治したら金銀財宝を持って帰って来てくれる訳だ。」
「鬼の持ってた金銀財宝なら強盗だし、鬼が他の人から奪ったなら拾得物よね。警察に自首するか届けるべきでしょ。」
「沙耶!現実ならその通りだけど!だけど!頭昔話!」
「はいはい。」
沙耶、さっきまで食い意地が張っててヤバい事言ってたのにいきなり現実的な事を言い出すな。
確かに鬼をボコボコにして財宝を奪うとか強盗だし、犯罪だけど。
確かに奪われた財宝を取り戻したなら元の持ち主に返すべきだけど。
そこら辺の問題は考えない。置いておく。
「桃太郎が金銀財宝を持って帰ってきてくれたら楽して億万長者になれるって事だ!」
「結論が俗ですね。」
「結論が欲望に塗れてるな。」
「結論がダメ人間そのものね。」
「なんで思い付きの妄想を話してここまで非難されなきゃいけないんだよ。もう少し同意するとかしてくれないのか。」
誰だって楽して大金持ちになりたいと思うのは当然の事だろう。
しかも桃太郎と言う今までに類を見ない方法を考えた天才的な発想だと言うのに。
「桃太郎のお爺さんとお婆さんはそんな目的の為に桃太郎を鬼退治に送り出した訳じゃないからな。」
「と言うか、そんな目的の為に桃太郎を送り出すとか昔話で対峙される側の発想じゃない。」
「そこは、ほら。昔話に描かれていないだけで実際に何を考えて送り出したかは分からないし。」
「非実在人物に実際も何も無いと思うんですけど。」
それを言われると私がどうしようもないクズなのではと思ってしまう。
まぁ実際、他人を利用して、その人が危険な目にあって得た財宝を貰って大金持ちになるとか人としてどうかと思うけど。
「まぁそもそも川に桃が流れてるなんて光景自体見れる確率は低いんですけどね。」
「そうだけどさ、もしかしたら、もしかすると、流れてくるかも知れないじゃん。あ、そうだ。伊江、ちょっと上流で桃を流してくれないか?」
「自分でやれ。」
「そんな事より桃系のスイーツが食べたくなってきたわね。コンビニ行くわよ。」
「川で桃は?」
「コンビニに行く方が大事なので。」
こいつら冷たい。まるで冬の川のようだ。
少しくらい付き合ってくれても良いじゃないか。
桃の1つや2つ、流してくれても良いじゃないか。
まぁそれはそれとしてコンビニには行くけど。
次の日。
「竹藪で光る竹を探しに行こう。」
「1人で行け。」
天才的な発想を皆に教えてやったが、即拒否された。
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