周回プレイ
ある休日の事。
竹塚、伊江、長谷道と共にゲームを楽しんでいた。
しかし、
「なぁ、竹塚。」
「なんですか?」
「竹塚の操作してるキャラクター、なんか強くないか?」
「確かにそうだな。俺たちが何回か攻撃して倒す敵を1撃で倒してるしな。」
「僕が操作してるからですね。」
「確かに竹塚がゲームが上手いのは認めるけど、そうじゃなくてさ………。」
今まで竹塚と一緒にゲームで遊んできて、その実力の程はよく理解している。
理解しているが、今言いたい事はゲームの上手い下手の問題ではないんだ。
「ゲームの実力とかじゃなくて、キャラクターそのものが強くないかって言ってるんだよ。」
「僕が操作するキャラクターは全て強いですからね。」
「いや、だからそうじゃなくて。竹塚が今握ってるコントローラーを誰が握っても強い状態だよなって言ってるんだよ。」
「そうですね。僕の強さはコントローラーにも伝播していますね。」
「ダメだ、話を聞いているようで聞いていないな、こいつ。」
なんだよ、強さがコントローラーにも伝播するって。
言ってる事が電波なんだよ。
その様子を見ていた長谷道が口を挟む。
「それはそうだろうね。だって竹塚くんは2周目のデータだからね。」
「2周目?」
「違いますよ。」
「違うって言ってるな。」
「3周目です。」
「周回プレイしてる事実は覆らないよね。」
長谷道が真実を述べるが、竹塚は否定する。
しかし大まかな内容は合っていたようだ。
その程度の違いなら否定しなくてもいいのではないだろうか。
「つまりは竹塚はクリアしたデータの性能を引き継いだキャラクターを使ってるって事だよな。」
「しかも2周してるから私たちが使ってるキャラクターとは比べ物にならない性能だね。」
「道理でめちゃくちゃ強い訳だ。」
ゲームクリアまで進めて強化したキャラクターを使って、更にもう1度クリアするまで強化してるんだから強いはずだ。
と言うか……
「なんで大人げなくそんな性能のキャラクター使ってるんだよ。」
「そんなの決まってるじゃないですか。僕は安全に安達たちが苦戦する様を眺めていたいんですよ。」
「理由が最低過ぎるな。」
「それは楽しそうだね。それなら私も周回プレイ済みのキャラクターを使わせてもらおうかな。」
「お前らのゲームの楽しみ方、歪んでると思うぞ。普通に楽しめよ、普通に。」
なんでそこまで他人が苦しむ方向で楽しみを見出せるんだよ。
なんでその楽しみ方を笑顔で私に伝える事が出来るんだよ。
「ゲームの楽しみ方は人それぞれですよ。難しい戦いに挑むのも、強いキャラクターで暴れまわるのも、本筋と関係のない要素で自由に遊ぶのも。」
「それはそうだけどさ。」
「大して実力のない安達くんの所に強敵を引っ張ってきて苦戦する様を眺めるのもね。」
「やっぱり最低だ!」
楽しさを何よりも優先する連中がそれっぽい理屈で正当性を述べるが、結論は変わらない。
こいつら最低だ。
しかし結論と同様に絶望的な状況もまた変わらない。
そんな状況の中、伊江は不敵な笑みを浮かべて声を掛けてくる。
「安達。」
「なんだよ伊江。お前も抗議しろよ。」
「俺は思うんだ。こいつらは俺たちが苦戦する姿を見て楽しみたい。それなら苦戦しないで進めば良いだけだってな。」
「伊江………!」
その瞳には絶望の闇はなく、抗う意思の光が宿っていた。
その光に、私も希望を取り戻す。
連中の思い通りになんてなってたまるか、と。
「その通りだ!やってやろうじゃないか!あいつらの邪悪な野望を打ち砕いてやろう!」
「それじゃあ1周目だとまず勝てないけど、2周目のステータスなら勝機があるくらいの強さを持った負けイベントの敵に挑みましょうか。」
「ちょっと待て。」
「野望を打ち砕いてくれるんだろう?勝てないことも無いかも知れないし、楽しみだね。」
「と言うかこのゲーム、この前発売したばっかりだよな。わざわざこの悪趣味な遊びの為に急いで周回プレイしたのかよ。」
「夢にまで見た瞬間が訪れてウキウキしてます。」
「そのまま寝てろ。目覚めるな。」
「遠足前日の小学生かよ。」
しかしその希望は竹塚と長谷道を楽しませるだけだった。
せめてもう少し段階踏めよ。
なんでいきなり負けイベントに挑戦させようとしてるんだよ。
その後、あっさりと敗北し、竹塚と長谷道は微妙に残念がるのであった。
もう少し粘ってほしかったと言っていたが、ある意味では連中の野望を打ち砕くことが出来た、のだろうか。
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