犯人はこの中にいる

私たちの目の前には一人の男が倒れ伏し、地面には赤い液体が広がっていた。


「おい、丹野!しっかりしろ!」

「…………。」


その男は丹野。東高校2年B組に所属する男子生徒だ。

つい先ほどまで笑い合っていた級友の姿は見るも無残な物へと変わっていた。


「丹野!丹野!」

「……………。」


何度呼びかけても反応はない。

一体何故こんな事になってしまったのか。

それはこの場にいる面々には分からない。

私も、伊江も、親方も。




しかしそこに1人の来訪者が現れる。

事件が探偵を呼ぶのか、探偵が事件を呼ぶのか、それは定かではないが、現れた時こそ、この局面を動かすとは思われなかったものの、事件を解決へと導く来訪者が。


「何してるの?と言うか、この状況は一体何なの?」

「本郷!?どうしてここに?」

「教科書忘れたからさっき美保ちゃんに借りてたの。それを返しに来ただけなの。あと通報の準備は出来ているの。」

「待った待ったぁ!俺達だってさっきこの状況に遭遇したばっかりなんだぁ!」

「でも犯人は現場に戻ると言うの。」

「そういうのって普通ドラマの中だけだと思うけどな。」


その来訪者とは本郷だった。

まぁこの状況を見れば私たちが怪しいと思うのも仕方が無いけど、私達は決して友達を害したりはしない。

親方と伊江も、弁明をするが疑いは晴れない。


「そ、そうだ!名探偵本郷!」

「名探偵………。」


よし聞く耳を持ったぞ。このまま畳み掛ける!


「どうかこの事件の真相を暴いてくれないか!私達では迷宮入りしてしまうような難事件でも、名探偵本郷にかかれば真実はいつも1つな事間違いないだろう!」

「難事件…………。名探偵…………。しょ、しょうがないの。だらしないあなた達に変わってこの私が、名探偵である聡里が解決してあげるの!」

「…………チョロい。」

「しっ!伊江、ここは面倒臭くならないように黙ってるぞぉ。」

「そうだな。」


よし、説得完了。これでひとまず難を逃れた。

警察に事情聴取とか絶対面倒臭いだろうし。

親方が事情聴取されてる姿は見てみたいかも知れないけど。


「で、第一発見者はあなた達なの?」

「そうだ。安達が忘れ物をしたって言うんで皆で取りに来たら丹野が倒れてたんだよな。」

「なるほど…………。犯人はこの中にいるの!」

「な、なんだってぇ!?」


訂正、難を逃れられてはいなかった。

まぁ容疑者っちゃ容疑者だから仕方ないけど。

もう少し話を聞いて推理とかしないのかよ。


「あなた達、丹野に対して恨みはあったの?」

「ねぇよ。」

「無いな。」

「同じく。」

「つまり突発的に殺害してしまった事になるの。それにも関わらず平然とこの場にいるなんて、とんだサイコパスなの。」


そもそも殺害してないし。

あと皆で教室に戻って来たんだから、そんな事したら誰かが気付くだろう。


「分かったの。犯人は安達、あなたなの。日頃から互いに馬鹿にしあって鬱憤が貯まり、ついカッとなってやったの。」

「確かに丹野の事は馬鹿だと思ってるけど、そんな事しないぞ。」

「それなら伊江。あなたが犯人なの。日頃から迷惑を掛けられて鬱憤が貯まり、ついカッとなってやったの。」

「確かに迷惑はかけられてるけど、そんな理由で殺人なんて犯さないからな。」

「だったら梅嶋。顔を合わせるたびに見た目の事で弄られて鬱憤が貯まり、ついカッとなってやったの。」

「弄られてはいたけど、そんな事しねぇってぇのぉ。」


なんだこの探偵。大体『鬱憤が貯まってカッとなって』しか言わないじゃないか。

探偵だったら死因とか凶器とかも分析しろよ。

『推理』の『す』の字も無いぞ。




「うぅ…………。」

「丹野が生き返った!?」

「……死んれれぇ………。」


推理(仮)を進めていると丹野が意識を取り戻し、むくりと起き上がる。


「丹野、一体誰にやられたんだ?」

「られに?何ひっれんだ?」

「どうやら起きたばかりで意識が混濁してるみてぇだなぁ。口も回ってねぇじゃねぇか。」


被害者が起きたことで事件の真相に迫れると思ったが、まだ意識がはっきりしていないようだ。


「ん?それ聡里のチョコレートじゃないの。なんで丹野が持ってるの。」

「え?あぁ、これか。さっひオレの机の上に置いれあって、1個貰っらんだよ。」

「そう言えばさっき美保ちゃんに教科書を借りるお礼に1個あげたの。箱ごとこの教室のどこかに置いて行っちゃったの。忘れてたの。」

「つーか、これメチャクチャ辛ぇじゃねぇか。」


丹野が片手に持っていた小さい箱に注目する本郷。

どうやら本郷のチョコレートらしいが、人の物を勝手に食べるなよ。天罰でも下ったんじゃないか?

そして丹野曰く、メチャクチャ辛いらしいが、チョコレートの箱をよく見ると唐辛子のようなものが描かれている。


「辛すぎれトマトジュースを飲んでどうにかしようとしたけど、気が付いたら倒れてたぜ。本郷、お前あんなのよく食べられるな。………あぁ~、ようやくまともに喋れるようになってきた。」

「辛くて美味しいの。この美味しさが分からないなんて可哀想なの。」


気を失うくらい辛いってどんだけだよ………。




「ん?待てよ?と言う事はこの事件の犯人は本郷なのでは?」

「確かにそうだな。そのチョコレートのせいで丹野がトマトジュースをまき散らして倒れてたわけだし。」

「…………この事件は丹野の拾い食いが原因なの。悲しい事件だったの。それじゃ名探偵はおさらばするの。」

「おい迷探偵。」


名探偵じゃなくて迷探偵じゃないか。

と言うか探偵が事件を起こすな。

まぁ自分の机の上に置いてあったとは言え、勝手に誰の物とも分からない物を食べた丹野に原因が無い事も無いけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る