健全なる
ある日の放課後。
屋上にて。
「ぬんっ!健っ全なる精神はっ!健っ全なる身体にっ!宿ると言われてっ!おりますぞっ!」
私と竹塚の目の前には筋トレをしながら持論を語る姉河がいた。
何故こんな事になったのか。
その日の昼休み。
「なんか長谷道から意味不明なメッセージが飛んできたんですけど。見て下さいよ、これ。」
『本日放課後、屋上に来られたし。』
「屋上?何かあるのか?」
「それが分からないんですよね。」
「でも長谷道だぞ?たぶん碌な事じゃ無いと思う。」
「そうなんですよ。用件も書いて無いんで、正直行かなくても良いんじゃないかなって思うんですけど…………」
「けど?」
「スルーしたらスルーしたで後々面倒臭い事になりそうな気もするんですよね。」
「あー、確かに。」
「仕方が無いので行くだけ行ってみましょう。」
結局、何故呼び出されたか分からないまま屋上へ向かうのであった。
そしてそこには先客、姉河が筋トレをしていて、現在に至る。
「だそうだぞ、竹塚。」
「いえ、正確には『健全なる精神は健全なる身体に宿れかし』ですね。最後の『かし』とは『何々だったら良いな』と言う希望系であり、『何々である』と言う断定では無いんですよ。つまり別に僕には筋トレだとか、そう言う事は必要ないという訳です。」
竹塚は早口で拒絶を示す。
どんだけ筋トレしたくないんだ。
いや気持ちは分かるけど。
それに健全な身体の持ち主であろう姉河も、精神的にまともかと言われると疑問を抱かざるを得ない。
根本的にはまともと言えなくもないが、それ以上にドMぶりが凄まじすぎて健全な精神を宿しているように見えないのだ。
「しかし適度な運動は健康に必要不可欠ですぞ。見たところ竹塚くんは普通の高校生と比べて筋肉量に乏しいようですからな。」
「確かに竹塚はヒョロいよな。」
「安達は黙っていて下さい。」
だって実際、適度な運動って大事って聞くけど、竹塚が適度な運動をしているかと言うと、精々体育の授業くらいで見るからに貧弱そうだし。
「そもそもどうして僕なんですか?ほぼほぼ初対面ですよね?」
「確かに。」
竹塚と姉河がガッツリ絡んでいる所を見たことが無い。
姉河も理由なく初対面の相手に筋トレを提案するほどズレてはいないだろうし、何らかの理由があるのだろう。
「本来でしたら長谷道くんを誘って筋トレをする予定だったのですが、彼は用事があるようでして。それと筋肉が足りない友人がいるから、彼を、竹塚くんと言う小柄なひょろひょろメガネ少年を鍛えてあげると良い、と。」
「余計なお世話この上ないですね。」
「あいつ、絶対に面倒だから私たちにぶん投げたと思うぞ。」
その時、竹塚のスマホがメッセージを受信し、バイブレーションする。
メッセージの内容を確認した竹塚は無言で画面をこちらに見せる。
真顔で若干怖いぞ。
恐怖を感じながらスマホの画面を確認すると、そこに記されていた内容は…………
『ごめんね☆』
長谷道からの謝る気が皆無であろう謝罪文であった。
空には頭に手をコツンと当て、舌をペロッと出したような、『てへぺろ』みたいな表所をした長谷道が浮かんでいるような気がした。
殴りたい。
殴っても許されると思う。
「むむっ!今自分のセンサーが暴力衝動を感知しましたぞ!暴力は良くないですぞ!もし衝動を抑えられないというのであれば、是非とも自分に!さぁ、さぁ!」
「いや暴力は良くないと思うから。長谷道を殴りたいだなんて思ってないから。だから詰め寄ってくるな!」
長谷道に対する怒りを検知したのか、『殴るなら自分を』と姉河がグイグイ詰め寄ってくる。
一体どんなセンサーを搭載しているんだよ。
それとも私の表情から読み取ったのか?
とにかく離れて欲しい。
「まぁ何はともあれ、友人の友人ですし、我が校の生徒が虚弱で困っているとあらば助けるのが道理。大船に乗ったつもりでいて下され!」
「別に困ってはいないです。泥船にしか見えないです。」
「ははは、大変だな。竹塚は。」
めちゃくちゃ嫌がってる竹塚をニコニコしながら見守る。
偶にはこいつが困っている姿を見るのも良い物だ。
しかし………
「安達も筋肉は無い方だと思うんですけど、どうでしょうか?」
「え?」
「そうですな。確かに安達くんも筋肉量が少なめですから一緒にトレーニングをしましょうか。」
「え?」
竹塚が姉河の意識をこちらに向けさせる。
私が他人事として笑っていたからか。
道連れにしようとするんじゃない。
それに私は竹塚ほど貧弱では無いぞ。
だから筋トレなんて必要ないぞ。
「遠慮しなくて良いですぞ!」
「良かったですね、安達!」
「遠慮じゃないし、良くもない!」
しかし竹塚と姉河に肩を掴まれ、逃げ出せない。
竹塚だけだったら非力だから振り解いて逃げられるのに、姉河に掴まれた方の肩はビクともしない。
圧倒的な力の差を感じさせられる。
あぁ、やはりと言うべきか、昼休みに長谷道からのメッセージを確認した時に予想した通り、碌な事にならなかった。
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