組み合わせ
「『馬鹿とハサミは使いよう』ってことわざがあるじゃん。」
「そうですね。安達にピッタリですね。これほどまで似合うことわざは他に『馬鹿と煙は高いところが好き』くらいでしょう。」
「誰が馬鹿だ。誰が。」
会話の導入から失礼な事を言われたぞ。何故、皆はそんなにも私の事を馬鹿扱いしたがるのだろうか。日頃の行いや成績や職員室に呼び出される常連って事に目を瞑れば馬鹿には見えないのに。
「とにかく!馬鹿とハサミの組み合わせなら、天才は何と組み合わせになるのかと思って。ついでに天才はどこが好きなんだろうか?」
「別に組み合わせなきゃいけないと言う訳ではないと思うのですが。」
組み合わせなくてもいい、しかし裏を返せば組み合わせてもいいんだ。
だったら問題ないじゃないか。
よく漫画とかで絆の力が云々かんぬん言ったりしてるんだし、もしかしたら馬鹿とハサミにも今まで語られてこなかったエピソードがあって絆を育んだかも知れないじゃないか。
『へへっ、こんなところまで付いて来やがって。おめぇは本当にどうしようもないバカだな。』
『はっ、相変わらず口先まで切れ味が鋭いったらないぜ。』
『生憎、刃に衣着せるなんてマネは生まれてこの方したことが無いんでね。』
『そーかい。とにかく、とっととケリをつけるとしようぜ。そんでいつもの日常に帰るとしようや。』
決着を付けに黒幕の元へと向かう二人。
その結末は語るまでもないだろう。
うん。カッコいいな。馬鹿とハサミ。
「その表情、また変な事を考えていますね。」
「変な事じゃねぇよ!馬鹿とハサミの友情エピソードに思いを馳せていただけだ!」
竹塚に水を差され、現実に引き戻される。
「とにかく、天才と組み合わせるのは何が良いと思う?馬鹿がハサミなら天才はノリとかか?」
「ハサミとノリって小学生が持ってる文具じゃあるまいし。」
「それなら紙?」
「確かにペーパークラフトで神掛かった作品を作る人もいますけど。」
「紙だけに?」
「…………3点ですね。」
「5点満点中?」
「100点満点中。」
これは手厳しい。思い付きで発言したが、尋常ならざる低得点を獲得してしまった。
でも神掛かるなんて言ったの竹塚だぞ。
「むしろなんで5点満点中3点も取れると思ったんですか。」
「自信しかなかった。」
「無駄にポジティブですね。4点にしてあげましょう。」
「よっしゃ!」
前向きに生きてきて良かった。加点してもらっちゃったぞ。
「でも実際、天才なら紙でなんでも出来そうですし、天才と紙は使いようでいいんじゃないですかね。これ以上掘り下げるとまた寒い事言い出しそうですし。」
「そうか、やっぱり神、ではなく紙だったか。ところで最後の方、声が小さくて聞こえなかったんだが、なんて言って……。」
「さぁ、次は『馬鹿と煙は高いところが好き』ということわざでしたね!」
何やら竹塚が強引に話を進めたが、まぁいいや。
「馬鹿と煙が高いところが好きなら天才と水は低いところが好きだと思うんだよ。」
「場所は安直ですね。それなのに水はどこから来たんですか。煙と何の関連性もないように感じますよ。」
確かに竹塚の疑問ももっともだ。
それはな、
「煙って火属性っぽいから水にした。」
「なるほど。そういう事ですか。」
「でもどうせならもっとひねりが欲しいな。竹塚、なんかいいアイデアはないか?」
「そもそも馬鹿と天才を対義語として扱う事を止めてもいいんじゃないでしょうか。ほら馬鹿と天才は紙一重って言うじゃないですか。」
なるほど!流石は竹塚。良い意見を出してくれる。
馬鹿と天才を反対の存在として認識していては、私も紙一重で馬鹿の位置づけになってしまうところだった。
「それなら天才は大気汚染の問題によって居住が難しくなった地球から宇宙へと旅立つんだ!」
「それで良いんじゃないですか?」
きっと青かった地球を懐かしみながら、人類の新たなホームを探しに行く大任を背負い、孤独に宇宙を進むのだろう。
私は遥か彼方へと向かった天才のいる宙を見上げ、敬礼をする。
「満足しましたか?安達。」
「あぁ、天才に幸運を祈った事だし、一応満足かな。」
「さて、ことわざについて思いを馳せたところで、今度の授業の予習でもしますか。」
おっと?竹塚が何やら不穏なワードを出してきたぞ?
さっき必死に頑張って課題が終わったから雑談をしていたのに、なんでそんなことを言うんだ?
もうゴールしても良いんじゃないかと私は思う。
「まだ時間もありますし、出席番号的に明日は安達が指名される可能性が高いですよ。」
「出席番号で回答する生徒を決めるなんて前時代的で今の時代にはふさわしくないと思うんだ。やっぱり自主的に挙手し、回答する事を促すことで生徒の自主性を尊重して育んでいくのが大切だろう。だからすぐにでも出席番号で指名するという制度を無くすためにみんなからの署名を集めて訴えかけよう。」
「それじゃ、教科書の64ページを開いてください。」
「聞けよ!」
せっかく珍しく課題は真面目に取り組んで雑談もせずに頑張って終わらせたのに、その後に地獄を仕込んでくるなんて、そんな鬼畜を友人にした覚えはないぞ!
「安達。僕も心苦しいですが、君の為に心を鬼にしているのです。」
「そのニヤニヤした表情を止めてから言えよ。今のセリフは。」
結局、翌日の指名対策の為、勉強をする羽目になったのである。
この恨みは忘れない。
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