「………?」


こっちを見て首を傾げるんじゃない。

私が首を傾げたいくらいだ。

何故だ?何故なんだ?

まったくもってこの状況、意味が分からない。

どうして、どうして






目の前に豚がいるんだ!


「ブヒ?ブヒヒ?」

「ブゥ?」

「やはり通じないか。」


豚の鳴き声を真似て声をかけてみるが、豚には通じない。

それどころか、『何言ってんだ、こいつ?』的な蔑みの視線さえ向けられているような気がする。とんかつにするぞ。


「待て、どこに行くんだ!」


どこからか校舎裏に現れた豚は、どこかへと去っていこうとした。

進行方向へ立ち塞がり、移動させないようにする。

もしこの豚を見られたら、絶対に私が何かやらかしたと勘違いされてしまう。冤罪で怒られるのはご免だ。

そうなる前になんとかしなくては!


「と、とにかく誰かに連絡して助けを求めよう!」


スマホをポケットから取り出し、友人に片っ端から電話しよう。


『もしもし、敦?』

「豚か?聞いてくれ!沙耶が!『誰が豚ですって?』いや違くって!間違えた!目の前に『いたずら電話なんていい度胸ね。今度会った時、覚えてなさいよ?』話を聞いてくれ!」


ツーツーという音が電話から聞こえてくる。切られてしまった。

慌て過ぎて言葉の順番を間違えてしまった。しかも最悪な形で。これは次に沙耶に会う時が命日になるかも知れない。遺書を書いておくか?

待てよ?いっそ目の前の豚を献上すれば、もしかしたら助けてくれるかも。


「ブヒィ!?」


チラリと豚を一瞥すると、何を考えているのか伝わったのか、驚いたような声をあげる。

しかしダメだ、火に油を注ぐだけだろう。


「ブフゥ………。」


安心したような鳴き声を漏らす豚。

とにかく別の友人に助けを求めよう。


『安達、どうしたんですか?わざわざ電話なんかして。』

「竹塚、聞いてくれ!豚が、豚が!」

『あ、豚って聞いて思い出しました。今日、学校の帰りに豚肉のお使いを頼まれてるんでした。ありがとうございます。』

「お、思い出せて良かったな。けど電話を切る前に『それでは失礼します。』もう少しだけ聞いてほしかった。」


竹塚はお使いを思い出してしまった。

恐らくは今頃学校を離れているだろう。

この豚と遭遇したのが昼休みだったら、竹塚の力を借りられたのに!

しかし今は放課後、帰宅している生徒も多いだろう。

だからこそ今のところ見つかっていないとも言えるのだけど。

次は誰に連絡をしようか。

伊江はさっき用事があるとかで帰ってたし、丹野は部活中のはず。親方は家の手伝いでホームルームが終わってすぐに帰宅している。

青井は………豚が可哀想だから連絡しないでおこう。

あいつの事だから嬉々として『被検体を譲ってくれるのかい?ありがとう!』とか言い出しかねない。


「あれ?詰んだのでは?」


いや、委員長に連絡してみよう。

もしかしたら仕事でまだ学校にいるかも知れないし、困っているクラスメイトを放っておくような娘でもない。きっと助けてくれるだろう。


『はい、もしもし。』

「委員長、ちょっと困った事があって、まだ学校にいたら校舎裏まで来てくれないか?」

『困った事ですか?分かりました。今行きますね。』


流石、我らが委員長。困ってる仲間を見捨てない!




そして委員長が校舎裏に到着し、


「安達君、一体何、が………。」

「委員長、実はここでコイツと遭遇して。」


豚を見て絶句する委員長、豚を指さし説明する私、ボーっと私たちを眺める豚。

言葉に表すと結構シュールな光景だ。


「安達君、疑うわけではありませんが、その子をどこからか連れてきたりとか………。」

「してない。まさについさっき、ここで出会ったんだ。」

「ブヒッ!」


豚も同意している、気がする。


「飼育小屋では豚さんは飼っていませんし、一体どこから来たんでしょうか?」

「それがさっぱり分からないんだ。食用にしては小さいし、小綺麗だから、たぶんどっかで飼われているとは思うんだけど。」

「とりあえずお姉ちゃんに相談してみますね。」

「私が疑われたら弁護はよろしく。」


委員長が保木先生に連絡し、先生が校舎裏に到着すると、


「安達くん、後で職員室に「違いますよ!」。」

「お姉ちゃん、安達くんはさっき出会ったばっかりって言ってたよ。それに本人が連れて来たんだったら相談なんてしようとしないでしょ。」

「それもそうね。」


やはり疑われた。というか疑われる以前の問題で呼び出されそうになった。

先生はもう少し生徒の事を信頼してもいいと思う。委員長のように。

日頃の行い?過去は過去、あまり気にするべきではないようね。


「それじゃあ、いったん迷子として保護して「あ、こんなところにいたんだ。」青井さん?」


先生が豚の保護を決定しようとすると青井が現れる。

ま、まずい!


「青井、待ってくれ!この豚は迷子なんだ!被検体にしないであげてほしい!」

「何を勘違いしているか分からないけど、この子は私が飼っている子だよ。」


なんてこった、元々コイツは被検体になる運命だっててのか………。

飼い主は青井、この豚をどうするかの決定権は青井にある。


「青井さん、どうして学校に豚を連れて来たんですか?」

「家に帰ってから忘れ物を思い出してね。ついでだから散歩に連れて来たんだよ。そして気が付いたらリードが外れてどこかに行っちゃったみたいでね。探していたんだ。」


先生と青井が経緯について話をしている。

私は豚に最期の別れを告げるとしよう。


「豚、お前と関わった時間は短いが、お前が安らかに眠ることを祈っているよ。」

「ブゥ?」


豚は首を傾げている。分からない方が幸せなのかもしれないな。

豚と話していると青井がこちらを向く


「安達君、君は何か勘違いしていないかい?」

「え?この豚はモルモットじゃないのか?」

「違うよ。普通のペットさ。と言うか、君は私の事を何だと思っているんだい?」


マジか。心配して損した。


「ちなみにコイツの名前はなんて言うんだ?」

「この子かい?この子は






アルキメデスだよ。」




豚よりも青井のネーミングセンスが心配になって来た。

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